第193話 頼りになる情報管理


 クライシスさんとセイラさんと談笑しながら、試着室に入ったアニスを待っていると少し長いなと感じ、五分ほどしたあたりでアニスが試着室から出てきた。こちらも涼しそうだ。だが、それより驚いたのはそのフードに猫耳が付いていたことだ。


 「猫耳付いてるぞアニス」


 見ている俺が照れてしまいそうだが、俺はアニスが被っているフードの耳を優しく掴んだ。おお、ふわふわしている。


 「気に入ったか?」


 「知ってたのか?」


 「いや、着た時に気づいたのだが、少し被るかどうかをあそこで考慮していた」


 「でも見せてもらった時にあったか?」


 「店員が勝手につけたんだろう。袋から出して初めて気づいたからな」


 なるほど。オプションサービスというやつだろうか。ナイスな店員だ。結構可愛い。目が離せない。


 「まぁ、君が気に入ってくれたようで良かったかな」


 「お、おう」


 「わああ! アニスちゃん可愛いね!」


 「うむ、まるで猫の様だ」


 クライシスさんとセイラさんの反応も上々で俺たちは店を出た。俺はそのまま地味な服装で行く事にした。元々、あまり服に関心が無いのだ。


 ――――


 馬車まで戻るとロウさんがおじさんと喋っていた。役人かと思ったが、談笑しているようでロウさんの顔に笑みが見える。一瞬、邪魔しちゃ悪いかなと思ったが、談笑が終わったようでおじさんが離れていった。


 「お待たせ、ロウさん。さっきの方は?」


 「おかえりなさい。アービスくん。アニス様。クライシス様。セイラ様。先ほどの方はこの貿易街で馬車に荷物を積み込んでいる方です」


 「あ、そうだったんですか。すいません。聞き込みまで任せてしまって」


 「いえいえ。私が自分から願い出た事なのでお気になさらず。それでですね。この街にはガリレス様は居なさそうですね。先ほどの方の話だと見慣れない三人組が昨日、やってきてその日のうちに出て行ったそうです。それで、その出て行った際にロスト・シティに居る本街出向部隊の馬車に乗っていったとか。多分、ガリレスさんかと」


 「さすがですね。ロウさん。もうそこまで調べているなんて」


 なんだか、こちらは遊んでいたばかりでとてつもなく申し訳ない気持ちになった。だが、ロウさんはどうとでもないような表情でありがとうございますとお辞儀をしてきた。やはり人間が出来ている。


 「ロウくんは働き者だね。素晴らしい!」


 「いえ、本当になんでもないんですよ。王都ではこういう裏方は私の役目でしたので。慣れっこです」


 「そうか。情報管理、いや、ロウ。お前にはこれからの尽力に期待するぞ」


 「はっ。国王陛下」


 突然、国王陛下風を吹かせたアニスに膝を付いて頭を垂れるロウさん。その国王陛下に頭を下げる価値があるかどうかはともかくどうやら本当に慣れっこらしい。まぁ、それで丸投げで良いかとはならないが。


 「では私たちはそのロスト・シティ行の馬車を捜すとしようか」


 「ああ、そうだな。ではセイラと私は馬車を捜すよ」


 「なら僕とロウとアービスでロスト・シティに関しての情報を集めてこよう。もう日暮れも近いしな」


 見れば空は夕暮れになっており、既に陽が落ち始めていた。朝から移動していたが馬車で移動していたため、かなり遅めに着いてしまったらしい。


 「なら、馬車が見つからなかった時用に宿も取っとくか」


 「そうだね。じゃあ、クライシス、君の女と共に馬車を捜してくれ。もしも無さそうなら僕たちも外で聞き込みをしているから見つけてくれ。頼んだ」


 「分りました。では、セイラ、行こうか」


 「ああ、分かったよ」


 クライシスさんは俺たちに手を振り、セイラと共に馬車を捜しに人混みに紛れていった。そして、残された俺たちは宿を取ろうとふらふらとしていたが、驚いたことにほとんどの宿が埋まっており、俺たちは少し困っていた。


 「宿は多いが泊まれる場所が無いとは。金はあるのに」


 「まぁ、当日に今すぐ泊まらせてくれなんてなかなか通らないか」


 「そうですね。しかも貿易街ですしね。人が多いせいでしょう」


 「このままじゃ夜になっちまうな」


 「そういえば、アービス君はロスト・シティの夜に現れる化け物を知っていますか?」


 「まず、ロスト・シティをほとんど知らないですね。この前、監獄に行った際に俺たちを助けてくれた連中がロスト・シティの説明をしてくれたのを聞いただけですね」


 「おや、なら知り合いが居るんですか?」


 「確かハザマとかいうやつのグループだったかな」


 「うーん、私は分かりませんね。情報管理と言えど、他国の。しかも隣国の立ち入り禁止地帯と呼ばれるロスト・シティの事まではわかりかねます」


 俺は若い青年リーダーを思い出すが、どうやら彼はかなり危険な場所で活動しているようだ。どこかで会えるだろうか。それに俺を看病してくれた子にもお礼をしないとな。


 「ああ、あのパラマイアに掴まっていた連中か。役に立つなら合流も良いな」


 「そうだな。ロスト・シティに着いたら少し探してみるか」


 「今はそれより宿だな」


 そうして俺たちは宿を探し回っていたが、やはり宿は見つからなかった。

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