第191話 ペア二組と一人は気遣う


 馬車。人生で三度目か? 二度目か? どちらにしろ、相変わらず誰が運転しても凄い揺れだ。上下にがくんがくんする。すごいがくんがくん。


 「大丈夫か? アービス? 具合悪いなら膝枕をしてやろうか?」


 「おいおい、みんなが見てるだろ?」


 「照れるとは可愛いじゃないか! アービス!」


 この真顔を見てそう捉えられるとは相変わらず謎の脳内補整が働いているようだ。


 「いえ、私の事はお気になさらず」


 「そんな気遣い要りませんよ。ロウさん。嫌な物は嫌って言ってください」


 「そうだぞ。ロウくん。気遣いは要らないぞ」


 「そうだ。逆にこの元英雄にはもっとあれくらい大胆になってほしいものだ……」


 共に馬車に揺られているのはロウさん。クライシスさん。セイラさんの三人。計五人だ。クライシスさんやロウさんは復興に必要かと思ったが、大分、復興の人員も増えたという事と隣町はロウさんの報告でやばいやつの巣窟らしい事もあり、クライシスさんを連れてきた。ついでにセイラさんが来たのはクライシスさんの独断だが。ロウさんはガリレスさんと似た魔法を得意としている事からガリレスさんとアモンさんを探すのに必要だ。国の情報管理はロウさんの仲間に代理を頼んだ。


 「シャーロットさんが居れば良かったんですが、まさか、右腕が……」


 「ああ、やつはあのパラマイアに右腕をやられたらしいからな。全治一週間ほどだが」


 「短いよな。いや、心配事が減って良いんだけどさ。シャーロットさん、まるで右腕不随にでもなったかのような暗い顔していたのにな」


 現在、怪我人としてリハビリをしているシャーロットさんは右腕が動かせなくなっているようだが、全治一週間ということで、怪我が完治次第、復興作業に入ってくれるらしい。まぁあまり無理はしないでほしいが、シャーロットさんは動いていないと不安になりそうなタイプなのだろう。


 「右腕不随になっても私が治し方を伝授しよう!」

 

 「クライシスさんのその自信が羨ましい。というか本当に治してくれそうだ」


 「僕にだって治せる! いや、僕は右腕不随になった君の代わりに右腕になろう……あれ、それならもう全身動かなくても良いな。全て僕が世話をしよう。僕が世話をしたら君は何もしなくて良いし、そうだ。そうしないか?」


 「しないしない! これから一生そうならないように気をつけて生きるから!!」


 全身不随にされてはたまったものではない。俺は全力で首を何度も振りまくり、アニスの案を否定した。アニスはそれを見て不満、残念、悲哀に満ちた表情を浮かべる。ダメな物はダメ。


 「クライシスは全身不随にしても自力で治せそうだな」


 「セイラ、安心してくれ! 私はどんな状態になろうと、決してあきらめない!」


 「あ、ああ。クライシスが居ないと私とクロエちゃんが悲しむからな」


 「ん? ああ、私も君たちが居ないと寂しいからね。決して君たちを見捨てない!」


 「クライシス……!!」


 「ロウさん、マジで大丈夫ですか?」


 「ええ、大丈夫ですよ」


 俺を含めるのもあれだが、どっちを見ても絡みをしている男女が居るのはロウさん的に居づらいのではないだろうか。そう思って聞いてみたが、ロウさんは特に気にしていないようでニコニコとしていた。


 「お、止まったな。もう到着か」


 馬車が止まり、アニスは俺の手を引き、荷台から降りていく。降りるとそこは栄えた貿易街のようで物資を運ぶ人や店の前で店主と話している人。様々な格好をした人たちが歩いていた。


 「ここはかなり賑わいをみせている様だね」


 「あ、あの服可愛いな」


 「欲しいのかい? セイラ?」


 「い、いや」


 「……あ、少しデートでもす」


 「クライシスさん、セイラさん。今は遊びに来たわけじゃないんですからね。色々事態を収拾したらにしましょ――――いだぁ!?」


 なぜか、アニスに足を踏まれてしまった。足の爪が折れたんじゃないかというほど痛みが走るがすぐに痛みが引いた事から案外、重症では無かったようだ。


 「アービス、聞き込みをしよう、特にあの辺を」


 そう言ってアニスは服や食べ物がある店を指す。あそこで聞き込みをしてどうなるんだと思ったが、ここで否定しても行くことになるだろう。


 「良し。クライシスの女、クライシス。行くぞ。情報管理はどうする?」


 「あ、私はここでガリレスさんらしき魔力が無いか調べます。後、通行書を役人に見せたりなどもありますので」


 「ああ、ありがとう」


 「え、なら、俺が役人の方へ――――いだぁだ?!」


 「はは、お気になさらずに。アービスさん。ここは私一人で大丈夫ですから」


 苦笑いでそう言ってくれたロウさんに悪いと思いつつも俺はアニスに引っ張られる形で店が並ぶ場所まで引っ張られることになった。


 ――――


 ドレスやスカート。アニスが好きそうなボーイッシュな服装も揃っており、さすがの交易街という場所だった。


 「これはどうだろうか」


 「それはない。戻してこい」


 「クライシスさん、軽装が好きなのかな?」


 「さぁな」


 クライシスさんがアロマシャツのような前が思い切り開いている服を下に何も着ずに試着していた。まぁ、楽しそうなら何よりだ。

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