第190話 いざ隣国へ
目が覚めたら、牢獄だった。そんなの有りか?
「てめえ!! このクソジジイ!!」
目の前で毛髪の無いクロイド――――通称、おっさんが目を逸らしながら俺の目の前に居た。ちゃんと言えば鉄格子の向こう側に居る。俺は土蔵の中にある牢獄に昨日、個室で寝た後、突っ込まれた。
え? 探知魔法? 探知魔法で飛び起きたよ? そしたらさ、弓矢構えた兵士共が部屋の中でこのおっさんを真ん中に並んでたら抵抗したくないだろ? 俺は元々、南のクソどもが侵入してきた用なのだ。まさか、兵士数人に囲まれるなんて思わない。
「おいおい、騒ぐなよ。ガリレス。大丈夫だ。二人の仲間も共に朝昼晩付きだ」
「そんな心配してねえ!! この裏切り者が!」
「逆に貴様の味方をした方が裏切り者だろ」
「あんたはこのクソシティに左遷されたんだろうが! なに急に義理貫きます面してんだ! ていうか目を逸らすな!」
「目を合わせたら同情というか、その、これまでの思い出が……お前、この前貸した酒代は?」
うえええ!! 急にどうでもいい事、思い出しやがって! あれとあの時とあそこだろ? 一体いくらになるんだよ。
「と、とんでもない事思い出すな! それは忘れろ! でも、そうだよ! 俺たち、いっぱい飲んだじゃん!」
「お前、踏み倒していく割に平気な顔で次もたかるから、つい貸しちゃうんだよ! おじさん、これでもケチだから次飲みに行くまで返せよ!」
「それならここから出せや!! これじゃあ金も返せないだろ!」
「返せる金など無いだろうに」
「ふふふ、それはどうかな」
そうだ、俺には金がある。俺は懐には王弟殿下から奪い取った金があるのだ。確か、懐に……あれ、無い。何度もコートの懐やポケットに手を突っ込むがあの重たい袋が無い。あの金色に光る物が入った袋が……。
「お前が懐に入れてた金は偽装料金として貰っておいたぞ」
「は!? 泥棒! クソ野郎! ハゲ!!!」
「ハゲじゃねえ! 年相応だ! バカ野郎! おめえが金払うって言うから作ってやったんだろうが! それの代金、貰うのは当たり前だろうが!」
「じゃあ酒代もそれで……」
「お釣りでも足りなかったぞ」
「ちくしょう!! あの王弟殿下、ケチりやがったな!」
「どうでも良いが、俺はそろそろ行くぞ」
「あ、おい、こら、ここから出せ!」
「出さん。本街から王の使いが来るまで待っていろ」
そう言い残したおっさんは土蔵から出て行った。俺に残されたのは毛布と寒いすきま風だけだった。ま、考えてもしかたがねえ。とりあえず、どうするか悩むか。俺は毛布にくるまれ、檻の中で考えた。
――――
「そこの壁の色、違くないですか?」
「そうかい? ここは青色の方が良い気もするんだが」
「え、依頼された色を塗ってくださいよ!?」
アニス政権の元、俺たち、勇者パーティーと有志の魔法使いたちが建物を建て直していたのだが、優先順位が高い場所として手始めに医療施設の小屋をクライシスさんと建て直していた。
「嫌ですよ。医療施設の扉の色がそんな濃い赤だったら入りづらいですよ」
「真っ赤に燃える身体の底からの力を振り絞って病気を治せるという意気込みが伝わると思うんだが」
「医療施設ですから努力とか必要ないです! 努力せず、身体を治してもらいましょうよ! そこは確か緑とか癒しの色で頼まれてませんでした?」
「緑はヘドロみたいで嫌では無いかい?」
「た、確かに。そうですね。じゃあ、青とか?」
「ああ、それは良いね。青空のような色を見て病気を治してもらおう」
「そこまで扉に治癒能力求めなくて良いんですよ!? まぁ、青は賛成ですけど」
青の着色料でペンキのように扉を青に塗りなおした。うん、完璧だ。俺たちは中に入り、治療器具を並べていた初老のお医者さんに終了報告をして次の現場へと向かった。
「この店の奥の方の厨房が瓦礫で塞がれてしまったんだ。すみませんが、勇者パーティーさんお願いします」
次の依頼場所でその店で料理をしていたおじさんがそう頼み込んできた。俺は少し考える。まだまだ復興場所が多いのだが優先順位がある。だが、料理店なら優先順位高い方だな。
「食料配給が出来る場所が増えるのは良いことですしね」
「うむ、魔法具が暴走して爆発しないように気を付けてくれたまえ」
この世界は魔法具がガス、コンロの役割をしているため、変な刺激や魔力が残っていると暴走して爆発する可能性がある。若干、運任せの場だが、仕方ない。
「大丈夫、もしも爆発しても私が身体を呈して守るさ!」
「ぜひ、爆発しないよう祈りましょう!」
その後、無事瓦礫を撤去した。爆発しなかったのは良かったが、瓦礫をどかしてコンロ代わりの魔法具が潰れて転がっていたのを見た時は息が止まりそうだった。
「アービス、少し、僕たちにやることが出来たよ」
「お、アニス」
次の現場に行こうとした俺たちにアニスが話しかけてきた。アニスは王様らしく、背後にロウさんを連れていた。アニスが俺以外を自主的に連れているのは初めて見たかもしれない。
「ロウさん、こき使われる? 大丈夫?」
「あはは、大丈夫ですよ」
「ああ、この男は有象無象よりは使えるぞ。アービス以下だがな!」
絶対ロウさんの方が有能だと思うが……。まぁ、ここで否定してどうこうなるわけでもない。
「それで?」
「実は強運のガリレスさんからの報告が一切来なくて、行く前に頼んでおいた滞在レポートを貰いに忍び込んだ自分の仲間も彼を見つけられませんでした」
「え? まさか……」
「そうだ。やつは逃げたのだ。なので追って殺す」
「それは早急すぎる!? 違うだろ、何かあったんだろ。それにアモンさんも居るんだし逃げないよ」
「そうか、それは確かに。まぁ良い。とりあえず、僕は一度、王弟殿下に任せて僕たちも隣国へ行くぞ」
急すぎるだろ! と言いたかったが、アニスにとっては決定事項なのだろう。俺は諦めて黙って頷いて微笑んでみた。アニスもそれに呼応して笑ったが、意思疎通が出来ていないことは確実だ。
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