第189話 日和見のおっさん


 その場所は豪華な住宅だった。ロスト・シティでかなり浮いていると言っても良い。警備も厳重で、複数の警備兵が巡回している。ロスト・シティで賄える兵は基本、傭兵もしくはゴロツキだ。だが、あのおっさんなら全員傭兵でもおかしくないな。

 大きな庭を通り、おいおい野郎が白い豪邸の玄関を叩いた。しばらくして、扉が開き、前髪に長い髪が垂れたメイド服の女性が俺たちを一瞥し、お辞儀をした。


 「初めまして。クロイド様の給仕をしております。ドルファと申します。はい」


 「どうも。クロイドのおっさんから聞いてないかな? ガリレスってもんだけど」


 「聞いております。その名を名乗る貧乏くさい男が来たら通せと」


 「なんて奴だ。こんなイケメン捕まえて」


 「いや、貧乏くさいのは本当だろう。髪はボサボサ。無精ひげは生えている。どこの浮浪者だお前は」


 「そんな浮浪者に救ってもらったのはどこのどいつだ!」


 「そんな可哀想な子は居なかったで良いじゃないか!」


 「良くねえよ!」


 「充分、助けてやっただろうが。私が居なかったら隣国と王国の間の森で土に還ってたぞ」


 勢いのあまり、ツイルと取っ組み合いの喧嘩を始めてしまいそうだったが、不意に隣でボーっとこちらを見ていたドルファさんを見て、冷静を保った。


 「ごほんっ……案内してくれ、お願いします」


 「分かりました」


 特に指摘も無くドルファさんは淡々と頭を下げて俺たちを中に招いてくれた。後ろから三バカも付いてくる。というか、三バカが急に大人しくなったような気がする。


 「お前ら、急に大人しくなったな」


 「せいせい、俺たち、このグループじゃ、下の下だ。大きな顔してこの屋敷に入れるわけねえ」


 「おうおう、ドッグ、俺たち、場合によっちゃ、この人に下手な口聞けねえぞ」


 「おらおら! モンキの言う通りだぜ」


 「いやいや、良いから。今更、敬語とかよ」


 「そうですよ~! 私たち、友達じゃないですか~!」


 「それはちょっと違うけどな?」


 それは大げさだ。これからこいつらと遊びに行ったり、飲みに行ったりするわけではないんだから。俺たちはあくまで調査でって。まぁ、アモンの性格や考え方的に数時間一緒に居ただけで友達認定なのだろうか。


 「おいおい! 俺たち、友達だってよ!」


 「せいせい! 超嬉しい~!」


 「おらおら! よろしく~! ガリっち!」


 「次そのあだ名で呼んだら殺す」


 「お、おらおら、すんません」


 「ここがクロイド様のお部屋です」


 茶番をしている間におっさんの部屋に着いたようだ。ゆっくりと扉が開き、本棚が壁に側しておいてあり、奥の場所の机でふんぞり返っている人物が居た。五十代くらいのおっさんだ。赤いローブに毛髪のない頭。だが、その眼力はただ者ではないだろう。


 「よう、おっさん」


 「俺の名前を忘れたか? 教えてやろう。クロイド・ベンゾウ! ロスト・シティで一番の権力者であり、監視者! その正体は!」


 「日和見して読書にふけるおっさん。北のガキどもの制圧に失敗した回数は二桁か?」


 「よくわかったな。私とお前は歳が離れていても親友の様だな」


 「馬鹿野郎。あんたの依頼で何回、北のガキ共の隠れ家を見つけてやったと思ってるんだ。全部棒に振りやがって」


 「そんな事もあったかもなぁ……」


 「……まぁいいや、ほら、アモン、ツイル、あれがこのロスト・シティの一角であるクロイド・ベンゾウだ。隣国の中心街から左遷された案山子だ」


 「初めまして~! 案山子さん~!」


 「案山子、よろしく頼む」


 「君たち、名前覚えらえられない病か何か?」


 「せ、せいせい? ボス」


 すると背後から三バカがひょっこり顔を出し、おっさんに挨拶をしていく。するとおっさんは少し微笑んで立ち上がる。


 「ああ、君たち、よく彼らを連れて来てくれたな」


 「おいおい、そんな褒められるほどじゃないっすよ~!」


 「おらおら! まぁ、最近、活躍してなかったんで!」


 「うむうむ、君たちのような自主的に働く子たちは気に入っているよ。さて、もう夜遅いからな。客間を貸そう。君たちも泊っていきたまえ」


 「あざあす!」


 俺たちはそんな感じで自己紹介を終えると、おっさんに偽装書類の礼を言い、別個に用意された部屋へ移動した。三バカは一階に降り、客間へと向かっていった。どうやら、俺たち、三人は別々の個室らしい。


 「じゃあ、お前ら、夜に出歩くなよ。後、夜更かしはダメだからな、明日も朝から探しに行くんだから」


 「はい~! ガリレスさん、保護者みたいです~!」


 「気分は完全にそれだな」


 「貴様が保護者だと? おい、金」


 「そんな即物的なガキなんてヤダわ、さっさと寝とけ。アホ」


 保護者役から解放されるため、俺はさっさと個室に入り、魔法を仕掛けた紙をそこらへんに散りばめて置いた。俺の周辺に誰か来たら分かるための魔法だ。

 個室は綺麗なベッドと鏡。チェスト。そして、水浴び用の水が流れる場所が設置されていた。松明の灯りは付けない。そういえばあの二人に灯り消せって言ったけか。まぁ、寝る時は消すか。


 「ふう、今日は疲れた。いや、久々に休めるな」


 俺はベッドに横たわり、右手を顔の部分に覆い、だらんとした。ああ、水浴びでもしたかったが、少し寝るとするか。俺は目を瞑った。

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