第125話 国家反逆罪……?


 朝まで睡眠を取れたのが不思議なほど、次の日の朝方は憂鬱だった。俺はロウさんやクロエちゃん、ナチを説得した。一人で師匠の元へ行くためだ。ここならクライシスさんやシャーロットさん、アモンさんに頼れるし、安全だ。これ以上、巻き込むわけにはいかないと思ったがゆえの提案だった。もちろんみんなは反対の意を示したが最終的にナチがみんなをなだめてくれた。


 「アービス君。帰ってきてくださいね」


 「ああ、絶対だ」


 俺はナチを抱き寄せると抱擁をした。ナチが少し涙目なのが内心罪悪感を生んだが仕方ない。ナチに負担は掛けられない。

 そして、クロエちゃんが寄ってきた。


 「先輩、この家、自分の家のように使いますね……」


 「あ、うん。好きにして」


 あくまでそのスタンスなのか。と苦笑しながら了承したが、クロエちゃんは自分から俺に抱き着いてきて、独り言のようにつぶやいた。


 「嘘です。帰ってきてくださいね」


 「ああ。分かってる」


 まるで最後のお別れのような挨拶をみんなと交わした。セルディアさんはまた女性を連れて帰ってくるんですね。と余計な事を言ってきたがスルーした。

 そして俺は一人準備をし、師匠の元に駆けつけようと玄関を出た際、待っていたのは十人ほどの騎士団だった。


 「どうかしたんですか?」


 「お前アービスだな。お前昨日の両足切断事件知ってんだろ?」


 この部隊のリーダー風な中年の男が話しかけてくる。騎士団ではなく飲んだくれのオヤジが鎧を着ているようにしか見えない。俺は昨日クリケットさんがしてくれた事件を思い出す。クリケットさんが言うには隻腕の刀使いが首謀者と言っていた。つまり師匠の事だ。


 「昨日、騎士団のクリケット様から聞きましたよ」


 一応、権力では騎士団が上だ。勇者パーティーも特別特権だが、王に進言などは出来ず、騎士団の団長以下最上級魔術士だけが進言できるという政治特権を持っている騎士団の方が少しばかり上なのだ。


 「そうかそうか。ならば早いな。お前を拘束する」


 「なっ!?」


 「待ってください。そんな横暴な事はこの王城情報管理の私が許しません! 事情を先に説明してもらいましょう」


 俺を拘束しようとしたオヤジ騎士を止めたのは見送りをしに来てくれていたロウさんだった。なんとも頼りがいのある啖呵だ。


 「むっ。お前、王城に仕えているくせに知らんのか?」


 「なんですか?」


 「王様が命じられたのだ。勇者パーティー、アービスと騒ぎを起こした主犯であるテンカイ二名が師弟関係にあるのは彼らの通っていた教育機関の生徒たちからの情報で明白。彼らは国家転覆を狙うために騒ぎを起こしている。その共謀者であるアービスは勇者パーティーからの追放を決定。そして、拘束を命じる……とな! つまりそこのガキはもう勇者パーティーを外されたんだ!」


 「なに!? んなむちゃくちゃな!」


 あの王様。まだ俺が死んでいない事に気づいて強引策を取ってきやがった。しかも国家転覆を企んでいるとでっち上げまでしやがって! 完全に俺を追い詰める気だ。


 「ふふふ。だから王城の者であろうが私を止める事は出来ない! クソガキ! お前は国家反逆罪だ!」


 「国家反逆罪だと……」


 前世では国家のために尽くそうとし、この世界でも国家のため働こうとしていた俺が犯罪者だと……。


 「先輩が拘束なんておかしいですよ!」


 「そ、そうです! アービス君は何もしていません!」


 「けっ! こんなに女侍らせて良い思いしやがって……」


 背後からクロエちゃんやナチがオヤジ騎士に反論を浴びせる。オヤジ騎士は俺に向かって吐き捨てるように嫉妬に満ちた声色と目で俺をなじった。俺は彼女たちに手を掛けるつもりなのかと一瞬、刀の柄に手をかけようとした。


 「王命で動く俺を殺す気か? ならお前はこの場で死罪だな。お前を庇うやつらもだ」


 俺はその言葉を聞き、ゆっくりと柄から手を離す。クソ野郎が。俺はオヤジ騎士を睨みつける。するとオヤジ騎士はゲスな笑みを浮かべた。


 「さぁ、来い、クソガキ。騎士は忙しいんだからな」


 後ろの二人が居る以上、迂闊な真似は出来ない。俺は大人しくオヤジ騎士に付いていくことにした。オヤジ騎士は誇らしげに俺の腕を引っ張り、縄を両手に掛けた。騎士団専用の特殊魔法具で並みの魔術士では外せない上に最上級魔術士であっても時間が掛かる代物だ。


 「朝早くに起きて王命の札を見てラッキーだったぜ。しかも不用心に家に居やがるし。俺にも運が向いてきた!」


 そう言いながら俺の縄を引っ張り歩くオヤジ騎士。背後では俺が逃げないよう五人ほどが歩いていた。にしてもこんなのに一部隊を任せているとは。騎士団でまともなのは相当上の奴らだけなのかもしれない。


 「はっはっはっ! おいおい、今度は勇者犬じゃなくて騎士犬か?」


 するとオヤジ騎士の歩く前に槍を持った黒い鎧を着た女性が俺を笑いながら立ちはだかる。シャーロットさんだ。

 にしても勇者犬は酷いな。いや、俺にとっても酷い記憶だが。


 「お前、誰だ? 邪魔するならただじゃおかんぞ!」


 おいおい、それはモグリすぎるだろ。この人知らないとか。


 「おいおい、てめえモグリか? 俺を知らねえのかよ? 世間知らずの騎士様は本当に困るぜ」


 たまに意見が被るよなこの人と。シャーロットさんは知らないとのたまうオヤジ騎士をバカにしたような表情で嘲笑った。

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