第126話 助けてくれの一言くらい言え!


 「なんだと! 貴様ぁ!」


 シャーロットさんに嘲笑われたオヤジ騎士は憤怒の表情を見せてシャーロットさんを怒鳴りつけた。


 「隊長! シャーロット・コンスタンですよ!」


 「なに……?」


 激高したオヤジ騎士だったが部下の騎士からの情報伝達により、だんだん顔が歪んでいった。名前は知っているようだ。


 「それで? 最上級魔術士のシャーロット・コンスタンが何の用だ?」


 「お前がうちのクソガキを犬扱いしてたからよ。見物に来たんだよ」


 「そうかよ。ならこいつは反逆罪で拘束中だ。手出しするなよ。それにもうお前んとこのクソガキじゃねえよ。こいつは勇者パーティーじゃねえんだからよ」


 「知ってるぜ。王様が執拗にそいつの記事を書いた紙を中央街でバラまいて地面に落として無駄にしてたからな」


 手をひらひらさせながら煽るシャーロットさん。まずい。このまま殴り合いにでも発展したらシャーロットさんまで捕まってしまう。


 「シャーロ――」


 「その言い草はなんだ! 貴様も反逆罪で拘束するぞ!!」


 「ああ!? やれるもんならやってみるか!? てめえが王に報告する前に塵一つ残さず消せれば良いだけの話にしてやろうか!!」


 「くうう……」


 オヤジ騎士はシャーロットさんの凄まじい剣幕と怒号に押されたじろいだ。

 それで良い。シャーロットさんから手を出さなければ反逆罪にならない。俺のために反逆罪になる必要は無いのだ。


 「まぁ、良い、お前はそこで見ているしか出来ないんだからな。シャーロット。いや、お前、巷でこう呼ばれてるそうだな。シャロちゃ――あ……? あ……あああああああ!!!!???」


 そのあだ名を呼ばれてシャーロットさんがここまでキレただろうか。シャロちゃんという単語を聞いたシャーロットさんの行動は迅速だった。持っていた槍をオヤジ騎士が居る方向よりも少し上方向に投擲したのだ。その速度は正に目にも止まらぬ速さだった。槍は着弾を予想されないようにカクカクと方向転換を繰り返しながらオヤジ騎士に到達した。、

 そんな攻撃を受けたオヤジ騎士の腹部には槍が背中を貫通し、オヤジ騎士の背後の石畳の地面を抉り、穂先が地面に縫い付けられていた。そしてオヤジ騎士は腹部の鎧部分さえ貫通したその槍の柄と自身の腹部から垂れ流されている大量の出血を見て絶叫を始めた。


 「シャロちゃんって呼ぶんじゃねえ。三下」


 シャーロットさんの低く唸るような声がこの場を支配した瞬間だった。シャーロットさんのあんな怖い姿は見たことが無い。オーガのドレイクと戦った時でさえ笑顔だった人物なのに。今度は笑顔など無かった。

 だがそれよりも手を出してしまった。シャーロットさんも拘束されてしまう。俺はなんとか混乱に乗じて縄を切ろうとしたがやはり俺の魔力だけでは切れない。あの鉱石を食べて魔力が上がったはずなのに今はまったく頭が冴えていない。一時的な効果だったのか。


 「やぁれええ!! そいつを拘束ぅう! いや、殺せえええ!! おげえ!! がはっ!」


 血反吐を吐きながらオヤジ騎士は命令を下す。だが、兵士たちは動けない。当たりまえだ。あのシャーロットさんに立ち向かおうなど誰が考えれるのだ。


 「大体、うちのクソガキって言うのはな。勇者パーティーのクソガキって意味じゃねえんだよ」


 そう言いながらシャーロットさんはオヤジ騎士を睨みながらこちらに近寄ってきた。一体なんなんだろう。俺とシャーロットさんが出会って一ヶ月半くらいか。その間に俺はこの人たちとどんな関係になったのだろうか。


 「そいつはな。アモン、クライシス、俺。こんな個性だらけのやつらと付き合える言わば……あー、何? そうだな。簡単に言えば……腐れ縁候補のクソガキだ。つまり勇者パーティーじゃないからって今さらそいつ見捨てれるほどそいつを助けちゃ居ないし。こっちはアモン助けて貰ってんだ。それを忘れるほど馬鹿じゃねえんだぞ! ってことだ! この野郎!」


 そんな恥ずかしそうに言うシャーロットさんに俺はつい、感動して口元が緩み、こんな状況なのに笑ってしまった。

 シャーロットさんはそれを言い終わるころには俺の目の前に立っていた。そして貫通している方の槍を柄を持って無理矢理、引き抜いた。


 「ああああああああ!!!!」


 動かされたオヤジ騎士が苦痛の声を上げる。だが、シャーロットさんは気にせず穂先で俺の縄を切り裂いた。穂先が俺の手を切らないか一瞬心配したが、シャーロットさんの腕を信じていたので怖くはなかった。


 「無理しすぎじゃないですか?」


 「うるせえな! なんか俺が出て来てすごい不安そうにしてたお前が悪い! 普通助けてくれって顔するだろうが! まったくよ」


 「ありがとうございます」


 「けっ! これからは泣き叫んでも助けを呼ぶことだな。誰かは絶対助けてくれるだろうよ」


 俺はこの人たちだけは信用しようと心の中で誓ったのだった。やけくそ気味に言われたあの言葉が嬉しすぎた俺はちょろいのかもしれない。

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