第123話 このメイド腹立つ
俺は自分の家の二階にある大きなベッドに座り、腹部の傷に消毒液を掛け、包帯を巻きながらどうするかを考えていた。クロエちゃんは下でロウさんの手当てをしていた。それをメイドのセルディアさんが手伝っている。ナチの治癒があったとしても全てが治るわけじゃない。痛み止めのような役割しかない。最上級魔術士クラスなら分からないが。そんなナチは空いている部屋のベッドに寝かせた。客室を使ってはいなかったがセルディアさんが管理してくれていたようで綺麗だった。
「ああ~!」
なんだかひたすら面倒な気分になり、俺はベッドに寝転がった。ふわふわのシーツを優しく握りしめる。いつもアニスと寝てるからいつもアニスの手がある位置を握ってしまった。アニス、そういえば大丈夫なのだろうか。置いてきてしまったし。
「あー、抱ける女が居ないとつまんねえなぁ」
ん? 俺は何を言ってるんだ? そんなわけないだろ。まずアニスを抱いたことどころか、女を抱いたことなど無い。
「もう下の女で良いかな。後輩だし。手軽だろうし」
なぜこんな言葉が次々と出てくるんだ。俺は一体どうなってしまったんだ?! まさか、あの鉱石のせいか? 鉱石を食べて思考が変わってしまったということか?!
「あああああ!! どうしたんだ俺はいっ「そうだ。俺の煩悩よ。解放の時だ。全ての女をこの手に――――」っておい!?」
俺の声が二重に聞こえたわけもなく。そう先ほどからのクズのようなセリフは俺では無かった。俺は声の主を見つけ、眉間に皺を寄せた。声の主はそっぽを向きながら澄まし顔だ。
「おいこら」
目を背けた声の主は俺のツッコミを受け、ため息を吐いた。その声の主はうちのメイドのセルディアさんだった。彼女は黒いロングヘアを地面スレスレの位置までしゃがみ、口に手を当てながら俺に声を当てていたらしい。だが、セルディアさんはバレたにも関わらず、焦りも見せずに澄ました目でこちらを見ながら立ち上がった。
「はい。なんでしょう」
「なにしてんだあんた」
「ちょっとした余興です。私、こう見えて腹話術が得意で……やぁ、僕、アービス、王都の女は大体食ったぜ」
めちゃくちゃ危ないセリフを言ってくるセルディアさんだが、得意という割には口がめっちゃ動いてしまっている。なんか頑張ってる風なのはわざとなのか。おちょくってるのか。
「口めっちゃ動いてるじゃないですか」
「むっ、当たり前です。私はメイドで腹話術師じゃないんですから。腹話術師を雇えば良いじゃないですか。この守銭奴」
「なんでそこまで言われなきゃいけないんだよ!? 後、勝手にやり始めたのあんただからな!」
「そんな事やってません。記憶操作魔術でも食らいましたか? 情けないですね。私ならそんな魔術食らいませんよ」
「そりゃそうだろうよ!? 数分前に自分でやり始めた事を人のせいにできるくらいの記憶力なら改ざんの余地が無いだろうからな!」
俺はひとしきり文句を言い放つ。だがこの畜生メイドは特に表情を変えずに突然右耳の裏に手の平を当てて眉を上げて右耳をこちらに向けてきた。なんかすげえ腹立つ顔してるんだけど。口を半開きにしてはぁ? みたいな顔すんな。
「なんで聞こえてないんだよ……」
「すいません。アービス様の滑舌と私の耳の相性が良くないようで」
どうしてこうも腹立つメイドなんだ?! 俺はどっと疲れてしまい、ため息を吐いた。これ以上、このセルディアさんとコントをしていたら頭がおかしくなりそうだ。
「そういえばロウさんは?」
「下の方なら大丈夫です。今はアービス様の愛じ――おっと失礼しました。浮気相手様が看病されていますよ」
「愛人でも浮気相手でも無いから! まず彼女も結婚もしてねえから! はぁはぁ」
「何はぁはぁしてるんですか? 叫んだら欲情するのは止めてください。私はメイドですからご主人様の命令に従わざる終えません。ですが、私に手を出したらあなたの髪の毛が一晩で消えている事でしょう」
「手を出すわけないし、その地味な嫌がらせはマジでやめろ」
俺はセルディアさんのふざけた問答に疲れ、本気で眠ってしまおうかと目を閉じた。だが、ロウさんもクロエちゃんもバリッド君も無事で良かった。ナチは俺のせいで気絶しちゃったけど。まぁ、傷一つなくて良かった。
「今日はもうこのまま夜を過ごした方が良いな」
外の見える枠から空を見るともうすっかり暗くなってしまっていた。クロエちゃんはクライシスさんの家に戻して。ロウさんは家に泊めようか。ナチも今から村になんて帰れるわけもないし泊めるしかないな。まぁ、一日気絶しているならあのまま朝まで放置で良いか。
「今日は乱こ――」
「しません」
セルディアさんの言いたいことが分かった俺は言い切る前に防ぐ。言いたいことを言うだけ言いやがって。まったく。仕事をしっかりしているから大目に見ているがナチが起きていたら大変だ。あの純真な心と思考がこのメイドによって壊されてしまう。それだけは阻止しなければと思う俺だった。
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