第122話 ちょっとした会話
坂道の木陰に隠れながらバリッドくんの勇姿を見つめる俺を含めたロウさん、クロエちゃん。そして気絶しているナチ。
「お、いったぞ」
目の前でバリッドくんが一人の衛兵に話しかけている。お、なんか、手振り身振りし始めたぞ。
「大丈夫なんでしょうか? 私がいった方が……」
「ロウさんが行っても王様に報告が上がりそうだし、ここはバリッドくんを信じるしかないですよ。衛兵がバリッドくんに集中し始めたら静かに素早く通り過ぎましょう」
あんな出来た後輩を持てて俺は幸せだ。そんな幸せを噛み締めながら目の前で頑張る後輩を応援する。
頑張れ、頑張れ。
「あ、衛兵笑ってますよ」
「よし、行くぞ」
俺の合図とともに音が立つ鎧をみんな脱ぎ捨て、バリッドくんの後ろ姿を見つめながらそそくさと王城前の通りを通り過ぎた。
最初に見える勇者パーティー宅の住宅路に入り、入ってすぐのシャーロットさん宅の芝生の上で安堵の息を吐いた。
「ああ、良かった。なんとか通り過ぎれたな」
「バリッド君に後で何かお礼忘れないでくださいね。先輩。そして、バリッド君を紹介した私にご褒美ください。合鍵でいいですよ」
「……覚えてたらな」
「バリッド君、可哀想に」
お前の方だ。バリッド君には勿論お礼するさ。正直、助かりまくりだ。
「おいおい、人の家の芝生でドスドス歩きやがって。人魚にしてやろうか?」
そんな脅しが聞こえ、俺は少し背筋がピンッとしたがその声には聞き覚えがあることを思い出し、人物を把握して安堵した。
「俺の人魚姿見たいですか?シャーロットさん」
「反吐が出そうだ。まあ、芝生ごとき、そんな気にしねえけどよ」
そう言いながら家から出てきたのはシャーロットさんだった。赤髪を束ねたポニーテールに黒い半袖のシャツと短パン姿だった。薄らと額に見える汗から鍛錬中だったのだろうか。
「お前、どこに居たんだよ。急に居なくなったとか勇者が騒ぐから探すの手伝っちまったぞ」
「すいません、ちょっと傷心してまして」
「あそ、で? そいつらは?」
そんなに興味が湧かなかったらしい。俺の傷心はほぼスルーされたも同然だ。だが深くツッコまれても困るからそこは良かったと思おう。
「いえ、ちょっと色々ありまして……」
「なんだよ、言えねえのか?」
「まあ事情がありまして……」
王様に嵌められた話を無闇やたらにしていいものか悩む。逆にクロエちゃんたちのように巻き込んでしまっては申し訳ない。
「あれ? ロウ・ジーランドじゃん」
初見でわかるとはシャーロットさん。記憶力良いな。
「覚えていてくれたとはありがとうございます」
それは俺に対する嫌味ですか?ロウさん。
「だって勇者ん家であったよな?ガキも覚えてたろ」
覚えてませんでした。
「お、覚えてましたよ……?」
「え!?」
「え?」
デジャブだ。ロウさんに凄い驚かれた。なんかここで覚えてなかったとか言うと情けないだろ!
「ふっ、まあ、いいや。俺は忙しいから面倒かけんなよ」
鼻で笑われてしまった。バレたな。
シャーロットさんはそう言うと家の中に戻ろうとした。だが俺はシャーロットさんに聞きたいことがあった。
「そういえば、アモンさんは大丈夫ですか?」
「平気平気。ピンピンしてるぜ。後、お前、魔獣くせえからなんとかしろよ」
シャーロットさんは家に引っ込む前に俺の質問に腕を振りながら答えてくれた。最後の魔獣臭いは失礼だと思う。だが、クリケットさんにも言われた。そんなに目立つ匂いなのだろうか。
「シャーロット様に言わなくても……?」
「うーん、とりあえずは。変に殴りこまれても嫌ですし」
巻き込まずに済むならシャーロットさんもその方がいいだろう。
「うーん」
すると俺の服に鼻を付けて鼻を執拗に動かすクロエちゃん。俺は疑問符を浮かべる。
「どしたの?」
「先輩臭いのかなって。先程のクリケットさんは指定してなかったので全員かと思ったのですがシャーロットさんは先輩を見て言っていたので、どんな匂いかと」
「で、どう?」
「先輩の匂いがします」
「どんな匂いだ」
「タラシの匂いです」
「最悪だ……」
匂いで感知されてはタラシも裸足で逃げ出すだろう。だが俺はタラシではないのでクロエちゃんの嗅覚は良くないな。
「今、失礼なこと思いませんでした?」
「失礼なこと真正面から言われるよりは良いでしょ……」
「どうなんでしょう。陰口なら聞こえないのでいいのですが、不安にはなりますね」
「そこらへんはよく分からないなあ」
学生時代俺が陰口を言われていたような事を誰かから聞いた気がするが、その時、俺はどう返答したっけか。
「私は陰口を言うくらいなら言いに来いって思いますね」
「ロウさん言われてるの?」
「例えばです。私は自身の評判に疎いのでなんとも」
「まあ、ロウさんがそういうの嫌いなのも分かるよ。詰まるところ、陰口するような卑屈な人間にはならないようにだな」
「兄のようにまっすぐ過ぎても困りますけどね」
「どちらにしても極端だからな」
俺らは少し楽しげに会話をしながら、俺の家を目指した。
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