第121話 素晴らしい後輩
「お、俺達は……」
「君たちも被害者のようなものだろう?」
「それはそうなんですけどね?」
でも全員、王城なんか行ったら即往生すんだろうが。まあ、この世界、仏教無いから往生はしないかもだけど。
「ならば事情聴取とコンロイドを裁くための証言を王にしてくれ」
「いや、それはやまやまなんですが……」
「私が連れていきますので!」
助け舟を出してくれたのはロウさんだった。さすがロウさん。頼れる男だ。
「だが、君は病院にいった方が良いのでは……?」
確かに。こんなボロボロの案内人を認めるわけにはいかないのか。どうするロウさん。
「すごい傷に見えますけど、実はこれ、ニワトリの前菜ようにか山菜採りしてたら転んだだけなので軽傷です!」
腕とか顔の至る所から出血するほどの転倒は無理があるだろ。針山に突っ込んだみたいになってるぞ。
「え、そうなのかい?」
「はい! 見た目だけです。なのでこの方達の護送はお任せ下さい!」
「分かりました。そこまで君が言うのなら。君は王城内部に務めているので私より適任でしょうし」
「お任せ下さい! クリケット様!」
「様付けはやめてくれ。私の事はクリケットでいい」
「それは恐れ多いです」
「ははっ、そうか? 仕方ないな。好きに呼んでくれ」
「はっ!」
「では私たちは王城に向かいます」
「気をつけて」
そう彼らは会話を交わし、クリケットは俺達とは別方向に歩き出した。
ふぅ。なんとか窮地を脱せた。
「あ、君たち」
な、なんだ?
先程歩き出したばかりのクリケットは立ち止まり、こちらに声をかけた。
「はい?」
やはり応答したのはロウさんだったが、どうやらクリケットさんは全員に用があるようで俺達の見えない顔を見渡した。
「君たちは王城に行くから安全かもしれないが、先程、足を切断された男性が発見されてね」
「え!?」
こののほほんとした王国にあるまじき事件ではないか。いや、裏では変な思想や団体が動いているから遅かれ早かれ起きた事件なのかもしれない。
「斬られた男性は無事だがね」
「すごいですね」
「ああ、悪運の強い男だよ。犯人は島国製の武器。そう、ちょうど君のような武器を持っている男で長髪。片腕がないそうだ。現在、騎士団で調査中だ」
隻腕に俺と同じ武器?長髪?それはテンカイ師匠ではないか?なぜテンカイ師匠が足を切断なんか……。
「隻腕で足を切断とはかなりの使い手ですね……」
「ああ、しかも両足を一気にだ」
師匠なら出来る。信じたくないがそれは師匠だ。
俺は脳裏に大人しく時に荒々しい師匠を思い出す。何かに巻き込まれたのだろうか。
「とにかく君たちも気をつけたまえ。後、君たち、風呂に入りたまえ。魔物臭いぞ」
それだけ言い残し、クリケットさんは反対の方向に消えていった。魔物臭い? 洞窟に居たせいだろうか。
そういえばナチも置いていったが、ロウさんに任せるということなんだろうか。一度、王城で話したくらいでこれほどの信頼を勝ち取るとは。ロウさん半端ないな。俺はナチを脇で抱える。
「怖いですね、先輩。隻腕って聞かなければ先輩かと思いましたよ」
「なんでだよ。俺がそんなことするわけないだろ」
「なんかしそうに無い人が変なことしたりしますよね……ペロパリさんとか」
ペロパリと一緒にされるのは非常に不愉快だ。だが、クロエちゃんは憧れの詩人が事件を起こしてショックだったのかもしれないな。図書館であんだけ揉めたのが既に昔のようだ。
「ペロパリは……」
「いいんです! 私、本人のファンだったわけじゃないですし!」
「そっか、まあ、良い男は他にも居るよ」
「自分のこと勧めてるんですか?」
「なんでそうなるんだ……」
クロエちゃんは俺を自意識過剰か何かかと思っているのか?
「先輩が自意識過剰さんじゃなくて良かったです」
「ははっ」
思われていた。クロエちゃんは俺に手厳しすぎる。
俺は乾いた笑いを生み出しながら自分の借家を目指し、中央街から王城へ行くための坂道まで来たのだが、俺は誤算していた。そうだ。あの家に戻るには王城をニアミスしなければならない。
「この鎧のまま、いけるか……?」
しかもナチを抱えているため、怪しさ満点だ。俺は少し悩みながら、王城の門を見る。衛兵が何人か歩いている。
「俺が行きますよ、先輩」
珍しくヒソヒソ声で話しかけてきたバリッドくんを見つめ考える。何か策があるのだろうか
「秘策でもある?」
「いえ、ですが、騎士団のクリケットさんは先輩の事は言ってませんでした。つまり王は公に先輩を捕らえよとは命令していません。ですが先輩が通れば、王に知らされる可能性があります。ならば騎士団メンバーの息子が来たなら邪険にはされないはずです」
「バリッドくん。思慮もパワーもあって無敵だな」
「先輩にも見習って欲しいです」
「クロエちゃんは一言余計だな……!」
「いえいえ! 滅相もありま――ありません」
大声を出したのを自身で口に手を抑え、自重した。俺は偉い後輩をもったものだ。逆に尊敬する。クライシスさんなら言い切った後に気づきそうな案件だ。
「では俺に任せてください」
バリッドくんはそう言って単身、門の前に乗り込んでいった。
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