第120話 犠牲になってしまったのだ

 

 王都に入った大通りで、俺たちは鎧を揺らしていた。みんながみんなこちらを見るが、大抵は騎士団辺りかと目を逸らす。嫌われているのではなく、特に活躍をしている様子が無いからみんな、関心が無いだけだ。だが、今回は負傷しているロウさんをバリッド君が肩を貸して移動しているため、悪目立ちしているのかもしれない。

 

 「先輩、箱揺れてますよ」


 住人に気を配りすぎて持っていた箱の様子にクロエちゃんが指摘するまで気づかなかった。危ない危ない。 

 俺は現在フルフェイスの兜と鎧に身を包み、近くの酒場の村で貰ったちょうど俺が抱えきれるサイズの正方形の箱を抱えて移動していた。これも悪目立ちの理由の内かもしれない。そして、その正方形の箱が少し揺れているのだ。俺はノックをして大丈夫か? とサインを送る。いや、適当にノックをしているだけだから伝わるかは定かではないが。


 「うおっ!?」


 すると箱が更にガタガタと揺れ出し、住人たちから小さな悲鳴が上がった。やばい。このままじゃ怪しまれてしまう。


 「こ、このニワトリめ! 大人しくするんだ!」


 とんだ大根役者のバリッド君が機転を利かして来てくれたが最早不自然さに磨きがかかってしまった。俺はなんとか気にせず歩き続けようした。


 「おい、そこのお前たち」


 そこへ男の声が耳に入る。多分俺たちの事なんだろう。俺たちは立ち止まり、その相手を見た。

 眼鏡を掛けた細身の男で、かなりシャープな銀の鎧に身を包んでいる。顔の感じは口うるさそうなイメージが伝わってくる感じだ。


 「お前たち、王の精兵どもだな」


 「は、はい。コンロイド様の部下です」


 「ああ、知っている。今、出撃している部隊は彼女のところだけだからな」


 王の精兵部隊は何個もあるのか。もしも戦う羽目になったらまずいな。


 「それで? コンロイドは居ないようだが……どうかしたか?」


 まずい。そうか。俺たち五人だけが帰還なんておかしいもんな。するとバリッド君に肩を貸してもらっているロウさんが顔を上げた。


 「洞窟警備は大変で、最近、鶏肉料理を食べれていないとコンロイド様が愚痴っていたので、部下として作って差し上げようかと思い、一度、帰還しました」


 「お前、ロウ・ジーランドだろ」


 「え? あ、えっと」


 まずい。まさか。この人、王の命令で……。


 「何を慌てている? 昔、一度だけ王城で挨拶したじゃないか」


 あ。普通に顔見知りなのか。ロウさんも微かにだが安堵したような声が漏れていた。ロウさんはフルフェイスの兜を外した。


 「申し訳ございません。あまりこういう兜は着ないので、視界になれなくて気づくのに遅くなりました。クリケット様」


 「様付けなんてよしてくれ。僕と君はこの王国でも珍しい知能派仲間なんだから」


 「きょ、恐縮です」


 知能派少ないもんな。うちの王国。アニスもクライシスさんもシャーロットさんは当たり前として、思考が脳筋に近い人が多いイメージだ。ガリレスさんは……まだ知能派なのかもしれないが。うちの師匠も脳筋寄りなところあるし。


 「そうかそうか。ふむ。だが、君が居るなら安心だろう。私は今日非番でね。なるべくプライベートを楽しみたいですし」


 「ありがとうございます」


 なんとかロウさんの王城人脈のおかげでなんとかなりそうだ。その格好でプライベートには一切見えないが。ここはさっさと会話を終わらせて俺の借家にでも逃げた――あだっ!?


 「おっとわりい!」


 「あ!?」


 唐突に肩にぶつかってきた筋肉隆々な男。男は意気揚々とそのまま走り去ってしまったようだが、俺の視線は思わず放した箱に行っていた。

 箱は地面に吸い込まれていき、その木で出来た箱は石畳の地面に落ちた瞬間、砕け散った。中から飛び出したのは金髪の女の子。ナチ。さすがのクリケットもあの涼しげな表情を変化させ、顔を強張らせていた。


 「こ、これは……!?」


 「ひぃぃいっぃいぃ!!」


 これは俺だ。もう仕方ないのだ。許せ。ナチ。


 「ニワトリって聞いていたのに!」


 「コンロイドがそう言ったのか?」


 「はい! 私たちはニワトリだと聞いただけです! まさか女の子だなんて!」


 そう。俺の作戦は知らないふりを突き通す。あえて上官のせいにすることで何も知らなかった兵士を装えるという最低な作戦だ。ナチも俺の態度に困惑しているのか。ポカーンとしていた。今はそれでいい。ここで何を言っているんですか! アービスくん! など言われた日には……。


 「何を言っているんですか! アービ――」


 言わんこっちゃねえ!! 俺は散らばった木材を踏み、それにこけたように見せかけ言いかけのナチの頭にチョップを食らわせた。


 「いだぁ?!」


 「だ、大丈夫か君?」


 「ええ、大丈夫です」


 「いや、君もだが、君が転んだ矢先に手刀を食らった彼女の方が……気絶している」


 「すいません! すいません!」


 ふう、どうやら、気絶してくれたようだ。助かった。だが、なぜだろう。背後からの仲間たちの視線が痛い。何かを訴えているような気がする。大丈夫だよ。後で助けに行くって。


 「それじゃあ君たちも彼女と共に王城に来てくれ」


 「え」

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