第117話  この痛みに耐えられない


 騙されていたことにショックを受けている暇はない。コンロイドと精鋭兵士たちは倒さねばならない。俺は距離を保ちつつ、腰にある刀の柄を握った。


 「ナチはロウさんを頼む」


 「はい!」


 ロウさんは未だに動けないようで、地面に横たわりなんとか上半身を壁に寄り掛けていた。無理はさせられない。


 「バリッドくん! 他の兵士を頼む!」


 「先輩は!」


 「突っ込む!」


 「え?!」


 驚いた声が背後で聞こえるが俺は気にせず走り出す。地面を蹴りながらの咄嗟の移動であちらを少し動揺させられたようだ。あちらは少し動きを鈍くしていた。


 「ああぁあああ!!」


 コンロイドに向けて刀を斬り抜いた。だが、コンロイドさんも棒立ちと言う事は無く、腰に差していた銀の剣を抜いて俺の斬撃を防いだ。


 「君は事態を理解していないようだな。君たちに帰る場所など無いぞ?」


 「……」


 王に騙されたということは王都に帰れば捕まる。もしくはその場で消されるかだ。だが、俺には残していた女が居る。悪いが何があっても王都に帰らねばならない。


 「きぃえい!」


 「くっ!?」


 他の兵士が槍で俺の脇腹を突こうとしているのに一度、コンロイドから離れようとしたがコンロイドは身体の重心を前に掛け、刀をさばけないようにされてしまった。


 「うおおおおおお!!!!」


 「ぎゃあ!?」


 だが、槍を突こうとした兵士は何かが俺の背後から飛び込んで来た物体に吹き飛ばされてしまった。飛んできたのはバリッド君だ。バリッド君が着地した地面は少しばかり抉れていた。やはりパワー系か。バリッド君がカバーできない部分はクロエちゃんが近接魔法で対処した。遠距離魔法だと外れて壁に当たってしまった場合、崩れる可能性があるからだ。クライシスさんの妹なだけあって、風の剣を出し、対処していた。そういえば初めて会ったときも火魔法も使っていたな。彼女も火と風の魔法が得意なのだろうか。

 だが、そのおかげで俺はこの女と差しで集中できる。


 「うおおお!!」


 「ぐっ……!」


 バリッド君の登場で気を持っていかれていたコンロイドさんに刀を押し込むと今度は逆にコンロイドさんを押し込んだ。


 「王様は何を企んでいる?」


 「さぁな。私たちは実行部隊だ。王の真意などは知らぬ!」


 手に力を込めたコンロイドは俺の刀を下の方に斬り払い、俺は柄を持っていた右手を頭上に上げてしまい、胴体ががら空きになってしまう。しまった。


 「ふんっ!」


 その隙を逃さなかったコンロイドは俺の胴体に突き出した。だが、俺はなんとか逃げようと右方向に体制を崩す。


 「ああぁ!!」


 「アービス君!!」


 ナチの必死な声を耳に入れながら、大丈夫だという声を上げるのさえ億劫になるほどの痛みを堪えつつ、自身の状態をなんとか冷静に努めながら確認を得ていく。

 まず致命傷は避けられた。だが、左腹部をコンロイドの剣が貫いた。そのまま俺を斬り裂かこうとしたのを理解した俺は右手で腰の鞘を抜き取り、これ以上中心に斬り進められないようにコンロイドの剣にぶつけ、力を入れた。


 「あがきが過ぎるな」


 「げほっ! 悪あがき……なら……得意だ……からな」


 「ふんっ!!!」


 「んんっ!!」


 左腹部の痛みに耐えながらコンロイドの攻撃に耐えるのは思ったよりも至難の業だった。この鞘が頑丈で良かった。ここで勝負を付けねばならない。

 上げた右手の中にある刀をくるりと回す。これが西洋剣と刀の違いだ。刀は片手でも扱えるほど軽く、安易に方向転換が出来る。なんとか腹部で行われている剣と鞘の鍔迫り合いの最中に俺は上に上げていた右手の中にある刀身を下に向ける。


 「がぁ……あああ!!」


 痛みと精魂を込めた叫びによる下段に向けての突き。それはコンロイドの鎧の空き目を見ごとに通り抜け、左肩を貫いた。上空に血が噴き出す。

 だが、刀身は腕を貫通はしたが、その腕の下にあった鎧の内側に弾かれてしまい、その衝撃で俺は刀から手を離してしまう。だが。


 「あぁあああああああ!!!!」


 その攻撃の痛みはコンロイドに悲痛の叫び声を上げさせ、コンロイドは剣から手を離し、肩から脇に刺された刀を必死で抜こうとしていた。


 「ぐぅぅう!!」


 いつの間にか膝から崩れ落ちていた俺は左腹部に刺されている剣を柄から抜こうとしたが思った以上の痛みが走り、思うように抜けなかった。手が血で濡れていたせいもある。


 「はぁはぁ……ぐっ! ふんっ! あああああ!!」


 痛い。痛すぎる。激痛だ。抜こうとすると頭と目が赤く染まり、まるで光が点滅するような錯覚に襲われてしまう。俺はこれを抜ける自信が無い。だが、抜かねばならない。すでに目の前で刀を自身の肩から抜く寸前になっているコンロイドを見つめながら内心焦りを覚えていく。

 他に援軍が欲しいがバリッド君もクロエちゃんもさすがは精鋭を集めたと言う事もあり、多数対一でなんとか互角に持ち込むので精一杯のようだ。

 

 「アービス君! 治癒石ヒール・ロック!!」


 俺の焦りを止めたのはナチだった。ナチが放った投石は俺に直撃し、周りに緑色の結界を生み出した。治癒魔法の一種だ。だんだんと痛みが無くなっていく。


 「ふんっ!!」


 それでも多少は痛みを感じたが俺はコンロイドの剣を抜くと地面に放り捨てた。だが、腹部に手を当てるので精一杯で動くことがままならない。ナチには感謝してもしきれないが状況は変わらないか。

 そう考えているとコンロイドも俺の刀を放り捨て、負傷した肩を押さえながらナチの方を見た。


 「神官が居たか……消えろ!! 呪縛の鎖スペル・チェーン!!」


 コンロイドは俺を治癒したナチを睨みつけ、負傷していない左手を向け、呪文を放つ。最上級魔法だ。まさに呪いをかけられたかのような鎖が十本ほどナチに向かっていった。


 「ナチ! げほっごほっ!?」


 俺はなんとか立ち上がろうとしたが、すぐに態勢を崩し、地面に横たわってしまった。俺は何度も繰り返すが立ち上がる事は出来なかった。


 「ウォール!!」


 咄嗟にナチも光壁の下位互換の上位魔法、壁を唱える。石の壁がナチの前に現れるが。鎖はその壁を無慈悲に突き崩した。

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