第116話 まるで夢の世界だ


 「現れたぞ!」


 「魔物だ!」


 お、本当に来た。もう途中から本当は居なくて騙されたのかと思い始めていた頃、洞窟内で騒ぎが起き始めた。


 「アービスさん」


 「はい!」


 もう待ちきれませんと言わんばかりに俺が立ち上がるとコンロイドさんは少したじろいだが、俺は気にならなかった。さっさと討伐出来るならそれでいい。


 「洞窟内に居るそうです。お願いします」


 「分かりました! 行くぞ!」


 「は、はい!」


 「おっす!先輩!」


 「急に元気ですね」


 俺は三人を引き連れ、洞窟内に入っていく。ロウさんが居ない分、気を引き締めて行動するのだけを徹底した。


 「ナチとクロエちゃんは真ん中で頼む。前は俺。後ろはバリッドくん頼む」


 「おっす! 絶対背後は取られません!」


 逆にバリッドくんの元気は今、かなり心強いな。心配なのはナチだが一応実践訓練もしていたはずだ。


 「あの、アービス君、私、ゴブリンしか見た事ないんだけど大丈夫かな……」


 「大丈夫だよ、俺が居るからな」


 「うん!」


 励ますとナチはすぐに立ち直り、無い胸を張って歩き出してくれた。単純だがそれくらい単純だと助かる。俺の知り合い、単純な人多くて助かるよ。


 「ねえ、先輩、全然居ないんだけど……ていうかほかの兵は?」


 「そういえば見ねえな」


 俺達はそろそろあの鉱物がある場所に着こうとしていたが道中誰にも合わず、不信感が高まった。


 「この扉の向こうにいるかもしれないな」


 「アービス先輩! 俺が先に!」


 バリッドくんが勇んで進言してくれたが俺は首を振った。


 「いやいや、こんな危険なの任せられないよ」


 「アービス先輩……! 感激です! さすがです!」


 「扉ひとつ開けるのにどんだけ大袈裟なのよ」


 「ナメるなよ、この扉開けたら上半身吹き飛んだんだぞ」


 俺はジャックの上半身が吹き飛んだのを思い出し、顔を真っ青にしたが、クロエちゃんにはただの間抜けに見えたようですごいジト目を送られている。逆にナチが震えていた。


 「大丈夫だ、ナチ。その人はアンデットだったから生きてる」


 「はあ、よかったです……」


 「アンデットなら最初から生きてないじゃない」


 「そうですよ!アンデットて怖いやつじゃないですか!」


 「いや、怖くはなかった。イタかった」


 「アービスくん、噛まれたんですか!?」


 「そういう意味じゃなくて……もう開けるぞ!」


 俺はこれ以上の問答は時間の無駄だなと咄嗟に思い、扉を勢いよく開け放った。


 「誰も居ねえじゃん」


 「ほんとね。もしかして先輩騙されたんじゃ……」


 「王様がドッキリって呑気すぎるだろ」


 「元々そんなに殺伐してないわよ」


 確かに。俺が勇者パーティーに入っているだけでほとんどの国民は平和そのものかもしれない。

 それこそ、この前のケルベロス騒ぎや図書館の時くらいだろう。この国は魔王が再臨するというには平和すぎる。まるで魔王が本気で来ないのを知っているかのようだ。


 「アービス君! あれ!」


 「へ?」


 ナチの声の指さす方を見るとそこには黒い獣が立っていた。あれか。


 「こっちに来ますよ!」


 「うおおお! これ以上先輩に迷惑はかけられん!!」


 バリッドくんが走り出し、その獣に拳を振るった。その振るった拳が衝撃を生み、地面を抉りながら黒い獣の腹部に直撃させ、鉱物が刺さっている洞窟の壁に直撃させた。黒い獣は伸び切ってしまった。


 「弱くね?」


 「拍子抜けすぎますね。こんなののために呼ばれたんですか……」


 俺は別の場所を見つめ、他に居るのかと見たがやはりあの獣以外には何もおらず拍子抜けしてしまった。


 「ひっ!?」


 「どうし――なんでだよ!?」


 ナチの悲鳴に釣られ、黒い獣の方を見ると黒い獣はロウさんに変わっていた。ロウさんは口から血を履いており、俺達はみんな絶句してしまった。当たり前だ。殴った相手が共に来た仲間だったのだから。


 「そ、そんな! 自分は!」


 「分かってる! 大丈夫だ! バリッドくん!」


 「先輩……」


 「大丈夫、クロエちゃん。ナチ、治癒魔法頼めるか?」


 「は、はい!」


 俺は落ち着いてナチに頼むと、ナチは慌ててロウさんの元へ駆け寄り、腹部に手を当てた。緑の光が灯り、ロウさんを包み込んでいく。


 「ロウさん! ロウさん!」


 ナチが回復をしながら呼びかける。すると、ロウさんの身体が少し震えた。


 「ロウさん! 死ぬな!」


 「ロウさん!」


 クロエちゃんとバリッドくん、俺が呼びかける。俺はこれで死んでしまったら……などを考え、顔を青ざめていく。だが、俺の考えは杞憂に終わった。


 「ゲホッごぼっ!」


 するとロウさんは咳き込みながら意識を取り戻した。俺は安堵の息を漏らしながら肩を降ろした。


 「良かったぁ、ロウさん、大丈夫か?」


 「え、ええ……すいません、完全に操られていました……」


 「さっきロウさんが黒い獣に見えて……」


 「それはやつらが私にかけた幻術です。ここに来た時、細い男と派手な服の少女が居て気づいたら……」


 細い男と派手な少女……細い男か幻術を使うなら攫われたペロパリか。派手な少女は分からないが……。


 「とにかく一度王都に戻りましょう!」


 「それは不可能です。私たちが通しません」


 扉から戻ろうとしたがそこに居たのはコンロイドさんと数十人の兵士だった。


 「あんたら……!」


 「申し訳ございませんが王命ですので」


 俺は騙されていたらしい。

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