第83話 一緒に暮らそう


 なんだろう。浮遊感がある。私は浮いているのだろうか。それにしては低空飛行だ。それに上半身が上がってるし、私の身体に何か暖かい平なものが当たっていた。これはおぶられているのか。


 「クライシス、ゆっくりしてくれ」


 「そうだよ! クライシス!」


 目を閉じまま意識を取り戻した私に気づいたセイラが優しくそう呟き、その隣でヤグ君が元気よく私を労った。まさか、セイラかヤグ君が……。いやヤグ君は無いな。


 「セイラが私をおぶって――」


 「いや、そんなわけねえだろ」


 私の想像を覆したのはガリレスだった。というよりガリレスが私をおぶっていた。周りにはツイルさんとヤグ君も共に歩いていた。


 「おぶれるわけないだろ、お前みたいな体格良い奴をこんなお姫様みたいな子が」


 「すまない、元の姿ならクライシスを乗せられるんだが……」


 セイラの悔しさに満ちた声が聞こえてくる。私はその言葉だけで満足だ。セイラに微笑みかける。


 「構わない、その言葉だけで嬉しい。ありがとうセイラ」


 「そ、そうか、まぁ、今度はおぶれるよう頑張ろう」


 「ああ、頼む」


 私がそう頼めばセイラは嬉しそうに頷いた。基本的に人を助けるのが好きな性分らしい。私に似ているのかもしれない。


 「いや、俺は構うんだが?俺も重くないわけじゃないんだぞ?」


 「もちろん感謝しているよ、ガリレス」


 「嬉しくねえけど、あそこで倒れられててもな……」


 そう言うガリレスを素直じゃないなと感じつつ彼がロビウルスの血で濡れている事に気づいた。そうか、彼が助けてくれたのだ。


 「体に血が……」


 「気にすんなって言っただろ?」


 「あ、ああ、そうだな」


 ただ私は彼の発言に頷く。それが彼に対する誠意だ。彼を哀れむことも感謝で打ちひしがれることもしない。きっと彼はそういうのは好きじゃないだろうから。


 「そういえば、ゴロツキたちは……?」


 「それがよ、不思議な事にあの来るのが遅い騎士団が……まぁ、いつも通り遅れてやってきて後始末だけしてくれるとよ、まぁ、お掃除は苦手だから良いんだけどよ」


 「では後で感謝せねばな、誰が来ていた?」


 「堅物クリケット」


 クリケットさんか、騎士団に三人居る最上級魔術士の一人だ。だが、彼の性格は真面目で勤勉。気難しい性格だ。


 「では謝れないな、彼はプライドが高いから」


 「ああ、どうせ、それが私たちの仕事だ、逆に首を突っ込んだことを謝罪しろとか言い出すぞ」


 「だが彼は根掘り葉掘り聞いてくるはずだ……どんな説明をしたんだ?」


 「それはほら、あいつ、女に弱いから……美女が二人も涙目上目遣いで説明したらな? あいつ、顔真っ赤にしてもういい! 分かった! とか言い出してよ、傑作だったな」


 「ち、違うぞ、クライシス、私は好きでやったわけじゃない! そこの男がお前を病院に運ぶのが遅れると言うから!」


 セイラは恥ずかしそうにそう弁明する。私は分かっているよとだけ返し、頭に手を伸ばし、軽く叩けばセイラはまったく、恥ずかしいと憤慨していた。


 「ちなみに私はノリノリでやりました」


 そう言ってウキウキしながら言うツイル。彼女もドラゴンなのだとか。ドラゴンというのは個性豊かなようだな。


 「お前はあの店でも上手くやれてたと思うぞ」


 「馬鹿な、私があんな汚い男どもに触れられて嬉しくなるわけないだろ」


 「じゃあ俺は?」


 「ギリギリ性格が汚い」


 「誰が救ってやったと思ってんだ!?」


 「元をたどればお前だが、大本はそこの男では?」


 「いや、私は途中で――――」


 「そうだ! こいつは途中でへばったんだぞ! 止めは俺だ!」


 「そういうところが汚いと言っているのだ」


 「私はもちろん、クライシスとヤグ、お前たち二人だ」


 割って入ってきて私とヤグ君を褒めるセイラ。最後のヤグ君には確かに助けられた。


 「え!? 俺も!?」


 「ああ、ヤグ」


 「最後に私も助けられたありがとう、ヤグ君」


 「そ、そんな……俺、嬉しいよ」


 「おい! 俺は!?」


 「ああ、助かったぞ」


 「そんだけ!?」


 ガリレスはその後も文句を言いながら私を病院に連れていき、私はまたですか!? と担当医に怒られてしまった。


 ――――


 病室のベッドにヤグ君とセイラが椅子に座って私の横で看病してくれていた。ガリレスとツイルさんは帰ってしまったが、まぁ、彼らは彼らでやることがあるのだろう。


 「俺は山に帰るけど、セイラは……」


 「私はドラゴンに戻れないからな、どうすれば良いかな」


 「ん? なぜ? 私の方を見る?」


 「クライシス! 純粋にもほどがあるぞ!」


 ん? どういう意味なのだろうか。だが、ふと頭の中に浮かんだ言葉を私は口に出していた。


 「一緒に住むかい?」


 するとセイラの顔が真っ赤になっていき、爆発した。


 「んんんんんんんん!!!! い、良いのか!?」


 「あ、ああ、構わないよ、好きなだけ居ると良い、私と君は遊び相手なのだから! 友人だな!」


 「え、ああ、うん、だけど嬉しいよ」


 「ク、クライシス……」


 「な、なんだヤグ君」


 なぜか二人に呆れられた。その後、入院している間、私は色々買ってあげねばと頭の中の紙に買い出しリストを描き、退院した時の事を考えた。

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