第81話 待ってたよ


 「見つけたぞ!」


 王都から離れた野原の道に馬車が二台走っていた。周りに馬に乗った見たことがある男たちが一頭ずつ乗馬して並走していた。

 私はヤグ君、ガリレス、女の子――ツイルさんを抱きかかえ、なんとか追いつけた。最初、ガリレスが駄々をこねたが無理くり連れてきた。


 「降ろすぞ!」


 「降ろされたらまず吐くからな」


 そんな宣言をガリレスにされても降ろさないわけにもいかない。

 馬車の走る進行方向の先に降り立ち、四人を降ろす。ガリレスとヤグ君は地面に腰を降ろし、激しく息を吐いていた。ツイルさんは平気そうだ。


 「おええええ!!!」


 「ガリレス、大丈夫そうだな」


 「え、ツイルはどこを見て言ってんの? めちゃくちゃゲロ吐いてんだけど?」


 「生きてる」


 「大丈夫の範囲が大幅すぎるだろ! ざけんな!」


 「何を怒っているんだ?」


 「怒りたくもなるわ……突然、空中旅行で、しかも俺、お前の足にしがみついてたからな」


 ガリレスは大丈夫そうだな。私は前の馬車に集中しよう。馬車は止まり、前の荷台からゴロツキどもが現れる。ロビウルスはまだ荷台の中か。


 「セイラを返せ!!」


 ヤグ君が声を上げるとゴロツキどもがこちらを睨みつけてくる。私はヤグ君の前に出て彼を庇う。


 「んだぁ? てめえら!」


 「そこを退けや!」


 「俺らをなめてんのか!」


 「魔術を使えるからって調子に乗るなよ!」


 ゴロツキ共が口々にそう威圧してきた。だが、私はそんな声は耳に入らない。ただ、二台目の馬車にしか目がいかなかった。


 「君たちに用は無い、そこを退きたまえ」


 「んだと!?」


 「そうだぜ、てめえら、俺たちを舐めたら死ぬぞ……相手は俺じゃねえがな」

 

 「ガリレスは戦わないのか?」


 「ツイル、俺が強かったら捕まらないだろ?」


 「そうか、なるほど」


 「なんか納得されるとそれはそれで腹立つな」


 ガリレスとツイルの会話を聞きながら私はゴロツキどもに向かって歩く。ゴロツキどもはそれぞれ武器を向け、威圧をしてくるが私にその脅しは効かない。


 「クライシス! 俺が相手をしてやる!」


 そこへ馬で駆けてきたのは大きな刀身を持つ剣を持ったホークだった。あの物腰柔らかだったホーク。本性を見せてきたか。


 「ホーク……」


 「クライシス! 覚悟!」


 「突風撃滅!!」


 「んぐっ!?」


 馬で私に斬り掛かってきたホークに風の塊を放つ。ホークは風の塊を斬り流そうとしたのか剣を振るう。だが、剣は風圧に押され、ホークは馬から背中から放り出され、落馬した。背中を強打したホークは僅かな動きを見せる。生きているようだ。騙されていたとはいえ、殺したいわけではない。


 「すまない、ホーク」


 私はそれだけ呟くとホークを跨いで先を進んだ。ゴロツキどもは咆哮を上げて、剣や鉈を振るい、私に斬り掛かってきた。


 「風急突破」


 「がやあああ!!?」


 「ぐああああ!!?」

 

 「あああああ!!??」


 私の周りに風が流れ、ゴロツキどもも吹き飛ばしていく。上空に巻き上げられ、地面に叩きつけられるゴロツキたち。


 「弓! 弓だ!」


 ゴロツキどもは私に近づけないと判断し、弓を用意し、それぞれ撃ってきた。だが、私の能力を舐めないでもらいたい。


 「炎壁突破フレウォ・ガスト


 右手で風を噴き出させ、左手の炎を宿した手を添えれば、風に乗った火が盾の代わりになり、木製の矢を全て燃やし尽くした。鉄製の矢も混じっていたようだが、炎風に巻き込まれ、私には着弾せずどこかしらに飛ばされていく。そんな光景をゴロツキたちは絶句をしたまま眺める事しか出来なかったようだ。


 「退いてくれ」


 「ひいい!!」


 「おらおら!! クライシスのお通りだぞ!」


 「小物臭いな、お前」


 「うるせえ! こっちは久々にスッキリしてんだ!」


 私の前から逃げていくゴロツキたち。私は彼らの事を気にせず歩く。背後からガリレス、ツイル、ヤグ君が付いてきているようだった。セイラ。待っていてくれ。


 「クライシス!!」


 「レドル……」


 そこへただ一人、スキンヘッドの男が乗馬し、突っ込んできた。

 彼にもお世話になった。裏でしていたことは決して許されることはない。だが、私は私なりに恩を返そう。


 「寝ていてくれ……風急突破」


 「うおおおお――――んぁあがあああ!?」


 レドルも吹き飛ばされ、落馬していく。私はホーク同様、手加減をした。これで勘弁してやるという意味だ。


 「セイラ……」


 「行こうヤグ君!」


 私はヤグ君の手を取り、空中に浮かび、二台目の馬車の荷台に降り立った。荷台の小枠から見えるその顔に私は安堵し、ヤグ君も嬉しそうな顔を浮かべた。私の視界にあのセイラが映る。


 「待たせたね、セイラ」


 私はいつも彼女に見せる表情豊かな笑顔で彼女を見つめた。そうすれば彼女は笑う。少しぎこちばく。でもその笑顔はいつもより嬉しそうだなと感じた。


 「待ってたよ、クライシス」

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