第78話  お前は運がいいぜ!


 私とヤグ君はセイラの部屋を見てやはり荒らされていたかと驚きはしなかったが連れ去られていることが分かった。争ったような形跡も見られたため殺されたのかもしれないが、それは考えないことにした。


 「セイラ、今度はどこに行ったんだ……」


 ヤグくんが悲しそうにそう呟いた。また、とは。そういえば家族と言っていたな。


 「セイラは前も攫われたのかい?」


 「ああ、セイラはうちの守り神だ」


 「守り神?」


 「俺は元々帝国の近くの山にある村の民で、ドラゴン信仰をしてたんだ、それで守り神のドラゴンに供物として毎年、食物を与えてたんだ」


 ヤグ君は楽しそうにそう語りだした。まるで思い出を一つ一つ掴み取るように。


 「それでいつものように捧げに行ったら、変なヤツらが守り神様を人間に変えたんだ」


 「人間に!?」


 「そう、人間に。セイラはドラゴンなんだ」


 それはアービスくんが教えてくれた謎の鉱石の効果と合致する。

 だがそれよりも私はセイラがドラゴンだった事に驚きを隠せなかった。だが、私は彼の話を聞く必要がある。無駄な質問はせずに黙ってヤグ君の話に耳を傾けた。


 「それで村の人たちをモンスターで襲って、連れ去ったんだ。なんとか俺は必死に追いかけてこの国の隣国にたどり着いた。そこでジルドに文句を言いに行ったんだけど、結果は返り討ちにあっただけ。そしたらジルドがお前も従業員として一生懸命働けばあのドラゴンを返してやるって。それで店に来たらセイラを紹介されて、セイラは俺の事村の一員程度に思ってたろうから会っても気づかれなかったけど……」


 なんというひどい話だ。ジルドという男が本当にドラゴン――セイラを彼に返すつもりだったかは分からないが人を攫っておいてその態度、許せるものでは無い。


 「君はよく頑張った、ここからは私が戦おう」


 「本当か!?」


 ヤグ君は目を光らせて嬉しそうに私を見上げた。私は親指を立てる。それに反応してヤグ君も親指を立てた。


 「だが、ここから探す手立てが無いな……」


 「あるぜ、俺が居るからな」


 私の悩みを吹き飛ばすように背後から聞き慣れた男の声が聞こえた。


 「ガリレス?」


 振り向くと黒いコートに身を包み、所々に包帯を巻いたガリレスと同じく腕に包帯を巻いた女の子を連れてこちらに笑いかけていた。

 

 「おうおう、俺も奴らに借りがあるからな、見つけ出してぶっ殺してやる。あいつら、俺の黒いコートを適当に置きやがって! 型崩れしたらどうすんだ!」


 「そこなのか、お前は……」


 ガリレスの傍に居た女性が眉をひそめて苦言を言うと、ガリレスは、大事なんだよ! とだけ言い、私の方を向いた。


 「ガリレス、ありがとう」


 「気にすんな、面倒事に関わるのは慣れちまったよ」


 そんな事を言うガリレスは初めて見た気がする。ガリレスは昔からの知り合いだがかなりの面倒臭がりやだった。変わったなこいつも。


 「その女の魔力の残滓ざんしが残ってそうなもんはないか?」


 「残滓……」


 彼女が魔力を使っているとこなど見たことが無い。ならば。


 「ヤグくん、セイラは君の前で魔法を使ったことは無いかい?」


 「あ、あるよ、供物を上げるとお礼にその年に雨が降らなかったりしたら降らしてくれるんだ」


 「ならそれを浴びたことは?」


 「急に降らせるからあるよ」


 なぜかその一言だけ、本気で嫌そうだったが好都合だ。


 「ガリレス、この子から魔力は取れるか?」


 「ああ、お前の表面に付着してるぜ」

 

 ガリレスはそう言うと、ヤグくんに近づき、頭を撫で、黒いコートから紙を取り出しヤグ君を撫でた手を押し付けた。すると、紙に薄い青の大きな丸と濃い茶色の小さい丸が現れた。


 「なんだこれ?」


 「こいつはお前の魔力分布だ、濃い色はお前の主魔力。魔力は低級だな。だがこの付着してる魔力は付与魔法扱いで薄い色だ。丸がデカイのは魔力自体の効果がでかいから。そして主魔力を消せば! ほい、その女の魔力探知機の出来上がり!」


 自慢たっぷりにそう言うが、ヤグ君はさほど反応を示さず、ただ一つ気になった事をガリレスに聞いた。


 「効果って?」


 「反応そこだけかよ! そこまでは知らん」


 「そっか、でもセイラ、俺たち村人を守ってくれてたんだな……」


 ヤグ君は嬉しそうにそう呟いた。彼女は優しい女性だ。ドラゴンだろうと関係ない。彼女を山に戻してあげよう。

 そういえばなぜ山ではなく海に行きたがったのだろうか……。


 「おーお、ここら辺にまだ居るな、微弱だけど」


 「探しに行かないと!」


 そうだ。今はそんなことはいい。今は彼女を探しに行かなければ!待っていてくれ!セイラ!


 ――――


 「勇者様!私たちは悪党を懲らしめに行ってくる!」


 階段を降りた先に居た勇者様に宣言すると、勇者様は片腕を上げた。


 「アービスが関係ないなら僕は動かない、勝手にしてくればいい」


 相変わらずなお人だが止められなくて良かった。だが、ガリレスが一度立ち止まり、勇者を見下げた


 「本当に勇者向いてねえな! そこは付いてくるんじゃねえのかよ!」


 「黙れ、ガリレス、本当ならお前を殺してやりたいが先程の放置で許してやる」


 「じゃあ、お返しにアービスの旦那の居場所を見つけてやるよ」


 「なっ!?」


 ガリレスの一言にアニスは目をひん剥き、かなり驚きの表情を浮かべていた。ガリレスはそれを見てニヤニヤと笑いだす。


 「あ、お返しだけじゃダメだな、ほれほれ、さっきの謝罪をしろ、勇者」


 「許してくれ、僕が悪かった、すまない、さあ!アービスの居場所を教えろ!」


 「マジかこいつ!早すぎるだろ!」


 意外と早く謝った勇者様に私も含め驚いたが、勇者様はガリレスから受け取った場所を見てウキウキとその場から離れていった。


 「マジで良いのか?あれが勇者で?」


 「私は構わない! なぜなら彼女は何かに一途なだけなのだから!」


 「それは素晴らしいかもしれねえけど、人類の存亡に一途になってほしいよな、民にとっては」


 「そこはアービスくんに任せてある」


 そう。精神面を彼が守っている限り、彼女は決して悪に堕ちない。そんな考えの元、言いきった私はガリレスから借りたセイラの魔力の紙を頼りに走り出した。

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