第64話 犬コロが何をしようが無駄だ!


 「待て! 犬コロ!」


 俺はシャーロット・コンスタン。現在、黒い犬コロを追っている。木が乱立している林の中を走るのはめんどくせえ。足元も危ねえ。仕方なく、本当に仕方なく、俺は相棒の黒槍で林の木をなぎ倒しながら進んだ。黒鎧と黒槍を装備してきて良かったぜ。お堅いエア・バーニ――――クライシスだっけ? は俺の行いにぐだぐだ文句を言いそうだが。


 ――――ガァア!!


 ケルベロスは走りながらの急な方向転換で俺の方を向き、魔力を放出した。不意打ちとしては上出来だが相手が俺じゃ意味はネエナ。


 「おら!!」


 黒槍を振るい、魔力の塊を弾き飛ばす。黒槍の付与魔法は反射と防腐、無欠刃、属性魔法出力、軽量の五つだ。反射は俺より弱い魔力を弾け、防腐は槍が腐らないようにするため、無欠刃はもろい黒曜石の刃が欠けたり折れたりしないように、属性魔法出力は黒槍に宿っている属性魔法の雷魔法を出力し、纏わせられる。この槍を作るのに俺は三年間の武闘大会の賞金を使い込んだ。まぁ、昔から武器や防具を作るのは好きだったから不満はねえが。

 

 ――――ガァ!


 「ちっ! 木があると盾代わりにされて邪魔くせえな」


 ケルベロスは撃ち返した魔力の塊を林の中の大きな木を盾代わりにし、防いだ。さすがに全部の木を伐採するのは無理だな。ケルベロスはそのまま再度俺に背を向け、駆けだした。


 「追いかけっこにも飽きたぜ、雷槍ライトニング・スピア!!」


 黒槍は帯電を始め、黒い柄や穂先に電流が走る。俺の籠手は耐雷対策もしてあり、感電の心配はねえが、電流が飛び火して顔に掛かる事があるのが厄介だ。だが、今回は帯電させながら槍で戦うんじゃねえ。放出する。


 「うおらぁ!!」


 一度立ち止まり、黒槍の穂先に近い部分を握ってからの肩に柄を乗せるか乗せないか辺りまで引き、そして投げる。

 投げ込まれた黒槍はケルベロスの元へ飛んでいくが、相手は動く的だ。直撃はさせられねえ。だが、あれは黒槍だ。属性魔法の出力魔法が作用する。


 ――――ガァ?!


 ケルベロスの走っている先に落ちた黒槍は放出を始めた。範囲からして俺の方までは来ないな。黒槍から黒い稲妻が辺り一面に放たれる。ケルベロスはなんとかジャンプをし、避けようとするが稲妻はまるでケルベロスを避雷針にするかのようにどれだけ避けても追いかけ、ついには直撃した。


 ――――ガァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!


 「はい、狩人の勝ちだ、犬コロ」


 殴り合いで勝ったときよりは幸福感は少ねえが、まぁ、勝つってのは良いもんだ。負けなんかより全然良い。

 ケルベロスの焼け焦げた死体を見て、どこの部位が美味いか考える。毛皮は売れねえかな……。


 ――――ガァア


 「あ?」


 すると俺の目の前に居るケルベロスの三つ首の左右の首が痙攣を始めた。俺は少し後退り、距離を取る。


 「ちっ、めんどくせえな」


 ケルベロスの左右の頭は真ん中の頭から分離し、二匹の獣が出来上がっていた。分離能力があるとはな、なるほど、三つ首で三つの命か。


 ――――ガァア!!


 今度は逃げずに襲い掛かってきやがった。良いね。そういう方が。


 「俺は好きだぜ!!」


 ――――ガァ?!


 同時に飛びかかってきたケルベロス二頭に素早く拳で対処した。まず、左から飛びかかってきたやつを殴り飛ばす。大きな顔の中心に拳を一撃食らわしてやると、顔を歪ませ、何本もの木を倒しながら地面に倒れていった。そして重心が左に寄っている俺の右側面ががら空きなのをわざともう一頭に見せ、わざと噛みつかせる。だが、俺の鎧じゃあそんな大きな牙は通らねえ。


 ――――ガァ!! アア!!


 ケルベロスの牙は砕け、その一頭は大きさを考えずに地面を転げまわる。殴られた一頭は木に叩きつけられたせいか、すでに意識は無かった。


 「さて、どうするかな、殺すか、生け捕りか、生け捕りにしても喜ぶのはアモンだけか」


 ケルベロスに虫取り網で頑張っているであろうアモンを思い出しながら俺は、こんなでかいの運ぶの無理だろと思いながらも一頭だけ首根っこを掴むとズルズルと引きずっていった。アモンに世話になってる気もするし、しょうがねえなあ。


 「帰って酒が飲みてえ……あ、俺、飲めないんだった」


 いや、飲める。飲めるんだが、アモンが止める。まったく、飲めるのによ。

 俺は色々グチグチと考えながら林の中を抜けようと歩き出した。


 ――――


「待って~!」


 案の定、アモンさんはケルベロスを虫取り網を構えて追いかけまわしていた。私は低空飛行にし、アモンさんに近づいた。


 「あ、エア・バーニングさん~!」


 「今はクライシス・ドーペンだ」


 「クライシスさん~!」


 「そう! で、どうだい? 首尾は?」


 「頭にこの網を掛けたらいけそうなんです~!」


 「ならば手伝おう」


 「本当ですか~!?」


 「ああ、任せたまえ!」


 私はアモンさんにそう言うと、右手に魔力を込め、前方を駆けるケルベロスを狙い、風急突破を繰り出した。すると、ケルベロスは動きを止め、風急突破に耐えだした。


 「今だ! アモンさん!」


 「光壁!」


 アモンさんの光壁がケルベロスの周りに四つ生まれ、ケルベロスは身動きが取れなくなった。アモンさんは光壁に入る事が出来るので、ケルベロスに近づくと虫取り網をケルベロスの真ん中の頭に被せた。ほとんど被っていないがアモンさんは満足そうだ。


 「確保です~!!」


 ――――ガァア!!


 「きゃああ!?」


 ガッツポーズで喜んでいたアモンさんを雄叫びで後ろに後退らせたケルベロス。む、たしかに動きを止めただけで相手は傷一つ負っていないのだ。そうなってもおかしくなかったな。考えが足りなかった。待ってろ、アモンさん、すぐに助けて見せる!

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