第63話 ケルベロスはすばしっこい
ケルベロスが三頭。地面を揺らしながら三メートルほどの黒い三つ首の獣が駆けていた。
「そこまでだ!
「案外大きくないですね~!」
「だが、三つの首はそれぞれ知能があるらしい。
私はケルベロスたちが王都を目と鼻の先に捉えた林道で出くわした。アモンさんとシャーロットさんを地面に降ろし、地面スレスレで飛びながらの風急突破。
右手から放たれた風がケルベロスたちを襲ったが、二頭は攻撃を受けながらも横っ飛びで避け、右に左に、林の中に逃げ込んでいってしまい、攻撃を受けた一体もさすがは希少モンスターと言うべきで、ゴブリンを浮かす程度の力を持つ風急突破では吹き飛ばず、動きを止めただけだった。
「アモンは左! 俺は右! エア・バーニ――――」
「私はエア・バーニングじゃない!」
「めんどくせえな! クライシスはそいつを頼んだ!」
クライシスと呼ばれるのは久々だ。私はクライシスとして戦場に立ち、笑顔を消した。もう、英雄のような爽やかさは要らない!
シャーロットさんとアモンさんはそれぞれ林の中に入り、ケルベロスを追いだした。アモンさんはやはり捕まえる気なのか。捕縛魔法を使うと飛行中に言っていた。あまり無茶をしないでほしいが……。私はこちらに集中するとしよう。
「火を使えば林道が燃える……ここは
――――ガアアアアアア!!
風急突破よりも風速を強くした最上級魔法、突風撃滅。これは風急突破の上位互換で風の高密度な塊を打ち出せる。範囲は狭いが当たればケルベロスを吹き飛ばせる。
だが、ケルベロスは大きくジャンプをし、風の塊を避けてしまう。地面が突風撃滅によって深く抉れてしまう。
「早いな、火魔法が使えれば……」
――――ガァアアアアアアアア!!!
「くっ!?」
ケルベロスは滞空した状態で落下をしつつ、真ん中の頭の口から魔力の塊を打ち出してきた。属性無しのただの魔力攻撃だが受ければただではすまないな。
「はぁああ!!
右手を魔力の塊に向けて風魔法を放つと右手から小さな風の渦が右手から現れ、魔力の塊を包み込む。風壁はその名の通り、風の防壁で魔力の塊は風の渦の中で内爆した。
――――ガァアアアアア!!
とっくに着地していたケルベロスは雄叫びを上げ、三つの頭から同様の攻撃を絶えずに撃ち出してきた。どうやら数で押せばいいと考えたな。甘い!
「とうっ!」
右手を地面に向け、風魔法を使い、宙に飛び、魔力の塊を避けた。私が居た地面は抉れてしまっていたのが申し訳ないが、私は英雄ではない! 二次災害が起きない事であれば目を瞑らせてもらう!
「風急突破!!」
――――ガァア!
まずは風急突破でケルベロスは数秒動きを止める。これは風魔法でも攻撃力は無いが範囲が広い。ジャンプして避けれる攻撃ではない。
案の定、ケルベロスは再度飛び上がったが、風急突破に当たり、側面から地面に叩きつけられる。
「今だ! 突風撃滅!!」
叩きつけられて動きが鈍っていたケルベロスに避けられるはずもなく、攻撃は当たり、地面は大きな音を立てて、ケルベロスごと抉られていき、ケルベロスは横腹を見せ動くのを止めた。
「希少生物だったが、すまない」
地面に着地した私は潰れたケルベロスを見て目を瞑り、謝罪をした。私は殺生が好きなわけでは無い。それは英雄じゃなくても関係ない。
――――ガァ
「ん?」
背を向け、アモンさん辺りが無茶をしていないか、援護をしに行こうとした瞬間、背後で声が聞こえた。私はすぐに後ろを振り返ると、二頭の黒い獣が襲い掛かってきていた。一頭はすでに私の顔に噛みつく寸前だった。
「な、なんと!? ケルベロス! 分離したのか!?」
私はなんとか食いつかれる直前に両腕を合わせ、顔から首を守った。だが、その牙は私の両腕に突き刺さっていた。私は目の前が痛みでブレる。ケルベロスにこんな能力があったとは! だが、こんなところで!!
「くたばるわけにはいかないのだ! はぁあああああああ!」
詠唱無しで両腕に力を入れる。右手には風が、左手には炎が宿る。そして、私は唱える。私の最高魔術。
「|
両手から湧き出した風と炎。それを纏った両腕をケルベロスの口で思い切り開閉させた。ケルベロスの頭が横に真っ二つに斬られ、地面で胴体と共に燃え尽きた。
――――ガァアアアアアア!!!
「ふんっ!!」
最後の一頭が私がまだ身体を起こしていないうちに仕留めようとしたのか飛びかかってきたが遅い。私は瞬時に膝立ちをし、両腕を振るった。
風と炎の剣の斬撃波がケルベロスの大きな黒い胴体を上下に斬り裂いた。ケルベロスは私の横の地面に墜落すると上半身と下半身が燃え尽きた。
「なんだったのだ……?」
風炎剣を霧散させ、私は先ほど倒したケルベロスを見に行くと真ん中の頭を残して二つの頭が消えていた。
「ケルベロス、分離が出来るとは……やはりモンスターについてもよく学ぼう」
私は英雄をやめたら魔王討伐までに経験や知識を蓄えようと思っている。それが仲間を救う事なら私は喜んでしよう。さて、散った二人を援護せねば。
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