第62話 私は私のためにこれから戦う!
一度、クロエを家に帰し、私はある事を宣言することを決めた。
「私は英雄を辞めます!!」
というものだ。
中央街で私はそう宣言しようと、覚悟を決め向かったのだが中央街はなぜか騒然としていた。さらに騎士や魔術士がこぞって集まっていた。逆に一般市民は誰一人居ない。そんな彼らの前方に騎士団のツキュウさんが立っていた。
「エア・バーニング! よく来てくれた!」
「エア・バーニングだ!」
「エア・バーニングが来てくれた!」
ツキュウさんが声をかけてくると、その部下たちは私が来たことに感激しているようだった。私は彼女に手招きされ、騎士や魔術士たちの前へと出た。
「実はある事を宣言しに来たのだが……どうかしたのかね?」
「ある事……? すまないが、今は臨戦態勢に入っている」
「なるほど、私に出来る事があれ……」
いや、待てよ、ここで私がこうやって助け舟を出すのが間違いなのか? ならば……。
「そうか、頑張ってくれ、終わったら私の話を聞いてくれ」
私は助けたいという欲を押さえ、涙をこらえてそう言い、前方から去ろうとした。
「え!?」
ツキュウさんは私の発言に酷く驚いているようだった。私は英雄を辞めたのだ。すまない。英雄のような面をして戦う事は出来ない。今は勇者パーティーの一人で最上級魔術士、クライシス・ドーペンなのだ。
「エア・バーニング、身体の調子でも悪いのか?」
「いや、実はもう私はエア・バーニングじゃないのだ」
「哲学の話か……?」
「いや! 違う! 私はエア・バーニングではない!」
「ん?? どういう意味なのか、教えてはくれないか?」
「私はクライシス・ドーペン!」
「それがあなたの本名なのは知っている」
「そういうことだ」
「え???」
「いや、意味わかんねえよ!」
この切れ味の鋭いツッコミはシャーロットさんか。中央にずかずかやってきたシャーロットさんを見て私は微笑んだ。久々に見た気がする。やはり、仲間は良い。
「いや、ニコニコしてる場合じゃねえだろ、今、ここに三頭のケルベロスが向かって来てるんだとよ、見てみろ、あそこに居るアモンを、なんで虫取り網なんか持ち出してどうする気なんだよ、いやマジで……エア・バーニングからもなんとか言ってやれよ」
シャーロットさんの指さした方向を見るとそこには羊の着ぐるみを着たアモンさんが虫取り網を振り回していた。なんということだ。アモンさんは正気を失うほど興奮しているようだ。私が目を覚まさせねば!
「分かった、アモンさん!」
「は、はい~?」
「その虫取り網では小さいと私は思う!」
「小さい……なるほど! それは盲点でした~! 見たことが無いとはいえ、ケルベロスがこんなに小さいわけないですもんね~!」
「え!? そこじゃねえだろ!」
「だが、シャーロットさん、あれでは頭が一つ入るかどうかだ!」
「だから何だよ! 捕まえねえよ!? あの奇行をやめさせろって言ってんだよ! こっちが言っても、え!? 捕まえないとダメですよ~!? とか言い出す始末だしよ! それでおめえは私はエア・バーニングじゃないとかわけわかんねえだろ! 勇者とガキも居ねえしよ!」
なるほど、シャーロットさんは勇者様とアービスくんの穴を埋められるか心配しているのか、だが、大丈夫。
「私が付いている! 君ならできる!」
「何をだよ! 適当なことばっか言ってんじゃねえぞ!」
「適当ではない!」
「んだよ! どこがだよ! エア・バーニングじゃないとか言ったりよ!」
確かにあれでは言葉が足りなかった気がする。そうか、ここは直接ぶつければ良いのか。
「私は英雄をやめる!!」
「はぁ!?」
「な!? エア・バーニング、それはもう戦わないってことですか?」
うん? 戦わない? いや、だが、それでは魔王と戦えない。だが、英雄を辞めるのはクロエとの約束だし、私は過去から解き放たれたい。
「いや、魔王とは戦う」
「ケルベロスとは?」
「戦わない」
「え、ケルベロスは魔王軍だと思いますが」
「戦おう!」
でもそしたら英雄を辞めた意味が無いな……。そうか! こうすればよかったのだ! 私はざわめく騎士団や魔術士たちの方を向き、叫んだ。
「みんな! 私はこれから勇者パーティー関連の依頼しか受けない! そして、私の穴を騎士団や他の魔術士たちが一丸となって国防をすることを望む! 私がいつ、魔王軍との戦いに旅立つか分からない、ならば今からでも君たちが国防をするべきだ! そして、私はこれから
「な、なるほど、で、ケルベロスは……」
「倒す! 行こう! シャーロットさん! アモンさん!」
「いや、あのさ、うん、よくわかんないけど、分かったぜ!」
「はい~! 捕まえてやりますよ~!!」
私は戦う! だが、英雄としてではなく、勇者パーティーとして、兄として、仲間として、私は私のために戦う。そして、私は本当の意味でなりたい英雄になる! 贖罪は終わった!
「私に捕まれ! 二人とも!」
「へ?!」
「きゃ~!?」
二人の胴体を担ぎ、私は右腕から風魔法で宙を浮かび、そのケルベロスが居るであろう場所に向かった。
「いや、逆! 逆だ! エア・バーニング!」
「すまない!!」
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