第57話 私のコレクションがああああ!! しかも無料でええええ!!


 「そういえば、丸腰のまま来てしまったな」


 「あ、確かに、アニスは大丈夫だが、俺は武器が無いと上級魔法しか使えないしな……」


 「私の商売道具が置いてある馬車に寄るかい? 襲撃が怖くて王都から離れた場所に隠しているんだけど」


 そうか、確かに隣国から歩いてきたわけじゃないだろうしな。それにどんなものが売っているのか少し、興味が湧いてきた。


 「それに移動も出来るから時間の無駄にはならないし、なにより安くしとくよ」


 「そこは無料にしろ、商人、誰のせいでこんな面倒に――――」


 「分かった、分かった、じゃあ、無料であげよう、もう、しょうがないな、勇者様は」


 チェーンさんはアニスに笑って近づくとアニスの頭を優しく撫でた。アニスの表情が少し怒っているように見えるのは気のせいだろう。


 「ならさっさと行くぞ!」


 不機嫌な顔を浮かべたアニスはチェーンさんを急かし、その商売馬車のある場所に向かった。そこは王都から東にある小さな村の外にあった。黒くでかい馬二頭が白い布を被せた荷台に繋がれていた。強そうな馬だな。そんな馬車の上ではやせ細った黒い燕尾服を着た老人が眠りこけていた。

 チェーンさんはそれを見てため息を吐くと、手を叩き始めた。


 「おい、じい、起きろ、行くぞ」


 「ふごお、へっ!? 冥途にですか?! 嫌じゃ! まだわしは冥途どころかメイドのお姉さんとも付き合えていないのに! ま、まさかメイド天国!?」


 どんな妄想してんだ、無理だろ、昔は知らないが今更メイドと付き合いたいは理想を語るを通り越して、誇大妄想に囚われていると言っていいだろう。後、メイド天国ってなんだ。


 「冥途には一人で勝手に行ってくれ、ただの移動だ、移動」


 「なんじゃ、移動かいな」


 チェーンさんが面倒そうにそう言えば、老人は落胆したような声を上げた。どんだけメイド天国に行きたかったんだ。


 「おお、そこの子どもたち、わしはチェーンお嬢様の執事でゴリゴリと申す、ゴリで良いぞい」


 「それは……ファーストネームなのか? ラストネームなのか?」


 「ラストネームに決まってるじゃろ! なんで見ず知らずのガキどもにファーストネームで呼ばれなきゃあかんのじゃ!」


 「なんでそんなぶちギレてんだよ!?」


 「誰がガキだ、じじい、冥途どころか、存在ごと抹消するぞ」


 「なんじゃと! クソガキ!」


 この爺さんも情緒不安定で怖いけど、アニスの発言も怖いわ、どっちも沸点低すぎるだろ。ていうか、どんな力が作用したらそんな事出来るんだよ。


 「じいと話しても得るものは無いぞ、さぁ、二人とも、馬車の荷台に入れ」


 チェーンさんに言われ、ゴリゴリじいさんから離れたアニスと俺は馬車の荷台に入ると、そこは案外広い空間で、武器、防具、アイテムが入った木箱が何個も置いてあり、木箱に座っていいというので木箱に座り、適当に開いてみた。


 「うわ、これ、黒曜石で出来たナイフだ」


 黒く光る刀身が輝いていてかっこいい。これで使いこなせたら良いんだが。俺は長物の剣しか覚えて来ていない。警察学校でも警棒の訓練しかしたことがないので使える自信はない。


 「それはシャロちゃんに上げた槍と同じだよ、優勝祝いであげたのにそれからずっと使ってくれて嬉しいよ、並みのエンチャント魔法じゃ耐久性を保てないけど、シャロちゃんはそこら辺は天才だから、壊さずに使ってくれて嬉しいよ」


 鼻高にそう語ってはいるが、正直、シャーロットさんが槍を使っているのを試合以外で見たことが無い。まだ、そこまでの強敵が居ないせいかもしれないが、彼女の戦闘は基本素手での殴り合いが多い。

 一応、一通り見たがやはり師匠から貰った武器と同等のものは無さそうだ。そうこうしているうちに馬車も動き出し、案外揺れが酷くてじっくり見れなくなってきた。だが、丸腰もダメだと思い、仕方なく、学生時代訓練に使っていた武器に似た形状の両刃の西洋剣を握った。


 「良いね、君、それは誰でも使える癖のない武器だからね、見栄を張らずに自分の使える武器を選べるのも才能だよ」


 「ど、どうも」


 なんかめっちゃチェーンさんに褒められた。あれかな、お前の身の丈じゃその程度がお似合いだと言われているのだろうか。そう思ったら少し悔しいが考えすぎだろう。


 「アービスをバカにするなよ、アービスはどんな武器だって使えるさ」


 だが、深読みしすぎて暴走したのはアニスだった。そこらの木箱の蓋を開け、武器を選別しだした。


 「え、あの、アニス? もう決まったからよ」


 「そんな武器ではだめだ」


 「いや、これで良いんだけど……」


 「この商人は安い武器なら無料でやっても痛くも痒くもないと思って、それを勧めてるんだ、お前の身の丈にはそれくらいがちょうど良いとバカにまでしてな」


 ええ!? 俺の深読みより深いんだけど、深海のさらに奥まで行ってるじゃねえか!


 「そんな事考えてるわけないだろ」


 「商人は口が上手いからな、ほら、これならどうだ」


 「うおおお! そ、それは最近手に入れた高い奴じゃないか!」


 アニスは見つけた武器を俺に渡す。それは虹色に光る短剣だった。見たことが無いから分からないが高いらしくチェーンさんが慌てていた。だが、その前に。


 「俺、短剣は使えないんだが……」


 「つ、使えないんじゃしょうがないな、それを戻せ、勇者様」


 「なら僕が貰う」


 「な、なんで!?」


 「僕は必要がないだけで貰わないなんて言ってないぞ、ほら、アービス、構う事は無い、なんでも貰ってしまえ」


 「鬼か!?」


 チェーンさんはアニスの言葉に落涙しながら、やめてくれええ! と叫ぶが約束だろ? とアニスが微笑むと声にもならない声で泣き始めてしまった。なんだこれ。

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