第40話 根性だけは一人前じゃねえか


 「なるほど、君はジャックくんと言うのか!」


 「……」


 「そうだよー! ジャックちゃんって言うのー! 良い子だよー!」


 「そうかそうか、で、君がアリシアさんだね!」


 「アリシアちゃんで良いよー! エアさん!」


 「エアさん?」


 「長いから! エアさん!」


 「そうか! それは良い! 私の事はエアさんで良い!」


 「わーい! ジャックちゃんも喜んでるよー! 足を地面に叩きつけてるー!」


 「本当だ、ジャックくん、君が私の命を狙う理由は分からないが、君が国民を巻き込まない限りはいつでも相手をしてあげよう!」


 多分、それ、喜んでるわけじゃないと思う。エア・バーニング、漆黒と雌雄を決しろだと思う。まぁ、想像だが。にしてもこの三人。いや、一人は感情が分からないから除くが仲が良いな。まぁ、エア・バーニングさんは元々子ども受けが良いからかもだけど。


 「まったく遠出の帰りじゃないんだぞ」


 「まぁ、どうせ、後は帰るだけだし」


 アニスの文句に俺がそう返せば、アニスはそうか、終わりか、やっと家に帰れるなアービス。とニコッと微笑みかけてきた。初日から五個の願い事フルバーストはやめてほしいなぁ。


 ――――


 俺たち一行が酒場の村にまで戻ると、他の四人は知らないが、俺は目を細め、困惑した。まず、最初に目に入ったのは野次馬たちだ。優しいおじさんまで居た。だが、見世物に俺はおいおいと言葉を零した。


 「おらぁ!!」


 「がはぁ!? なろお!!」


 「どうりゃあ!」


 「ぎゃあ!?」


 村の何もない広場のようなところで殴り合いをしていた人物たちが居た。シャーロットさんとオーガのドレイクだ。彼女と彼は拳だけを使って顔面を殴り合っていた。

 まぁ、ほとんどシャーロットさんの一人勝ちみたいな光景だったが、ドレイクというオーガは治癒能力が済むとすぐに立ち上がっては殴り掛かっては、攻撃が当たる前にシャーロットさんからのカウンター攻撃が入る。


 「ぢくじょう!」


 「へへっ! 顔面にはエンチャント魔法付けられねえからな、目の付け所は良かったが、相手が悪かったな!」


 「ぐぞお!!」


 「らぁあああ!」


 「がばぁ!?」


 ドレイクの顔面にシャーロットさんの重心を掛けた鋭い拳が顔面に入り、ドレイクは二転三転しながら地面に転がった。そして沸き上がる声援。


 「まだやんのか!?」


 「やるに決まってんだろうがぁ!!」


 「てめえ! 根性だけは立派なのは褒めてやるよ!!」


 「うるせえ! こうなりゃ勝って、てめえが泣いて謝るまで調教して――がぁあ!?」


 「て、てめえ! 恥ずかしいことを平然と言ってんじゃねえ!」


 シャーロットさんはドレイクが口走ろとしたのを瞬時に理解し、嫌悪に満ちた顔でドレイクの顔面を蹴り飛ばしていた。


 「ドレイクー! 負け負けー!」


 「あぁ?」


 不意に声を上げたのはアリシアちゃんだった。手を振ってこっちこっちとやればドレイクはアリシアちゃんと下半身だけのジャックを見て察したのか、はぁーあと大きなため息を吐いて地面に大の字になって寝転がった。


 「降参だ」


 「やっとかよ、鬼野郎」


 シャーロットさんもドレイクの降参に安堵し、俺たちに手を振った。こうして、俺たちは三人組を倒した。まぁ、実際にはシャーロットさんが一人倒して、一人はキングオーガ、一人は早々とした降伏だったが。初クエストにしては上々なはずだ。


 「で、こいつら、どうすんだ?」


 シャーロットさん動けるドレイクとアリシアちゃんを一応縄で腕を縛り上げて地面に座らせた。ジャックは普通に座っていた。一人、足だけで逃げても仕方ないだろうしな。


 「ふむ、結局のところ彼らは誰一人殺していないわけだが……」


 「へっ、殺したぜ、最上級魔術士のおっさ――――」


 「悪いが、その最上級魔術士の面汚しは死んでいないぞ、オーガ」


 「な!?」


 ドレイクはアニスに指摘され、酷く驚いた声を上げた。本当に死んだと思っていたのか。


 「顔面を潰されて重体らしいが死んでいない」


 「ドレイクー! ばーか!」


 「うるせえ! アリシア!! お前も足をバタバタさせるな! ジャック!」


 三人は言い合いを始めてしまったがどうすれば良いのだろうか。これ以上、何もしないなら返しても良いのだが。


 「そういえば、オーガ、お前を雇った女魔術士は誰だ?」


 アニスの質問を聞き、俺もそういえば聞かなきゃと焦った。シャーロットさんとドレイクの殴り合いを見てつい忘れてしまっていた。


 「あ? あー、ロータスか」


 「誰なんだ?」


 「知るかよ、俺も山で暇してたら声掛けられただけだしな」


 そんな派遣のバイト感覚で来るなよ……引き受けるなよ、暗殺任務。


 「役に立たないな、こいつら処刑で良いだろ、アービス、特にこのミミックは足のつま先から頭のてっぺんまで僕が苦痛と言う苦痛を――――」


 「やめろやめろ! 怖い怖い!」


 物騒すぎる事を言うな! アニス! だが、処刑はやりすぎだとして、収穫が名前だけってのもな。何か聞けることは無いか。そう思っていると不意にシャーロットさんがドレイクの胸元を掴んだ。


 「なんか他にあんだろうが! クソ鬼!」


 「知らねえつってんだろ! この不良女!」


 「んだと! てめえ!」


 あーあー、また喧嘩を始めたよ。アニスとシャーロットさんは喧嘩しても手が出ないが、シャーロットさんは男相手だと手が出るんだな。


 「あ、思い出したわ」


 「ドレイクくん、なんでも言ってくれたまえ」


 「いや、お前にドレイク君って呼ばれる筋合い無いんだが……」


 「さっさと言えや!! エア・バーニングが甘いからって俺が甘いと思うなよ!」


 シャーロットさん怖すぎだから! なんかエア・バーニングさんが優しい分、警察の尋問みたいになってるから、アメとムチみたいになってるから!


 「うるせえ、女だな……あー、そういや、魔王がどうのって言ってたな、魔王の幹部である魔物将軍を殺したエア・バーニングが許せねえとか」


 思いっきり魔王軍じゃねえか……。水面下で動き始めたと言う事なんだろうか。俺はこめかみに手をやり、頭痛の種が増えたことを呪った。

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