第39話 寝ている間に何が……


 「あのねー! 私とジャックちゃんはねー! 元々、まだ人間が住んでない森に居たんだー!」


 洞窟から入り口に行くまでの間、彼女ら三人の素性を聞くことにした。アリシアちゃんも暗視が出来るそうなので俺たちの先頭をジャックの下半身と共に歩きながら愉快そうに言葉を紡ぎ、まるで、子どもが学校であった出来事を語るかのような微笑ましさがあった。


 「ジャックちゃんねー! 昔、森に居たモンスターにやられちゃったんだー! で、死体を放ってたらいつの間にかアンデット化しててびっくりしちゃったのー!」


 そんなにほのぼのと言う事ではない。まるで今日新しい友達が出来たのー! みたいに言われても困る。だが、反応しないのも悪いし、苦笑いして質問でもしよう。


 「いつから?」


 「えー! わかんない! 自分がいつ生まれたかも知らない!」


 まぁ、魔物の生態に詳しいわけでは無いし、ミミックなんてさらに謎だ。どうして宝箱に擬態するかも、できるかも。ただ、トラップモンスターとして有名なだけだ。だが、擬人化したらこんなに可愛い娘になるとは驚きだ。アニスの前で可愛いなどと彼女を褒めたら烈火のごとく怒り狂い彼女を殺すだろうが。


 「ジャックとはいつから?」


 「ジャックちゃんはねー……いつからだっけ?」


 記憶力があまり無いのか。長すぎて覚えてないのか。アリシアちゃんはあれれー? と言いながら悩んでいる。まぁ、そんな事を聞いたところでなんだが。


 「じゃあ、あのオーガは?」


 「ドレイクはね! が連れてきたの!」


 「あの人?」


 確か、ジャックの話にも不鮮明な人物が話に出たな。擬態化の出来る能力を授ける力を持つ者。ここはアリシアちゃんから情報を聞くしかない。ジャックは未だに下半身だけだし、これ戻らないんじゃないか……。


 「あのねー! 優しい女の人でー! えーと! 優しい女の人!」


 「そ、それ以外は!?」


 「エア・バーニングを倒せって! で、ドレイクを補佐してやれって!」


 エア・バーニングさん? 元々はエア・バーニングさん狙いか。エア・バーニングさんが恨みを買っている相手はモンスターに魔王軍? だが、魔王はまだ再臨していない。なら他国か? 他国は最上級魔術士を恐れて攻めに来ないが暗殺を企んだかもしれない。

 モンスターを擬態化出来る能力を持ち、なおかつ、モンスターに授ける魔術士。そんな魔術師が未だ表に出ず暗躍している……? ダメだ、まったく考えがまとまらない。


 「アービス、どうせ今、考えたってこのミミックの小さい脳みそじゃこれくらいが関の山だ、オーガがその女側ならそいつに聞けば良い、シャロちゃんが殴り殺してなかったらだが」


 うわぁ、殴り殺してなかったとしても気絶とか治癒が間に合わないとか記憶が飛ぶくらいボロボロにされてたらどうしよう……。


 「そろそろ出口だ」


 「わーい!」


 外への光が見え、俺とアニス、アリシアちゃん、下半身だけのジャックは洞窟の外に出た。だが、出て思い出した。そこには――――大群のゴブリンが居た。森の中に棍棒や弓、短剣を持ったゴブリンがわらわらと居たのだ。


 「キングオーガが死んだのを察して森中から戻ってきたのか……?」


 「かもしれないな、まぁ、僕に任せろ、アービスに傷一つ付けさせないよ、ついでにそこのミミックも片付けたいくらいだ」


 「それはやめとけ」


 アニスの方がイケメンレベル高いな。女の子がこんな事を言われたら惚れちゃうんじゃないの? だが、俺だってゴブリン程度、身軽になれれば倒せる。

 俺は鞘から刀を抜くと両手で構えた。洞窟から出た俺の身体に風が当たる。いや、その風は――――。


 「風急突破ウィンド・ブレイク!!」


 森の中で勢いが良い声が響き、そして、ゴブリンたちは宙を舞った。空中に放り上げられるゴブリンたち。急な事でパニックになるゴブリンが多く、武器を放り出して、腕や足を一生懸命に動かしている。


 「炎突風フレイム・ガスト!!」


 再度、その声の主は魔法を唱えた。宙を舞うゴブリンを襲ったのは炎の風。風に巻き込まれた炎が宙を舞うゴブリンを丸焦げにしていく。俺の上空は真っ赤な炎が空を覆う状態になった。時折、火の粉が地面に落ちるが、幸い山火事にはならなさそうだ。

 しばらしくして、炎の風は霧散し、綺麗な青空が見えた。そして、俺たちの前に降りたったのはエア・バーニングさんだった。


 「すまない、起きたら河原にゴブリンが大量発生していてね、ついでに倒させてもらった」


 「あ、ありがとうございます!」


 「良いんだ、私も寝てしまったようだ、やはり徹夜はいかんな」


 俺の感謝に腕を軽く上げて、爽やかな笑みを浮かべるエア・バーニングさんの安心感。アニスもエア・バーニング、感謝すると一応、礼は言っていた。


 「それで私は漆黒君の名前を知るため、再戦をしたいのだが、倒してしまったかい?」


 「いえ、あの……あの下半身がそうです」


 俺が指を指した先を見てエア・バーニングさんは驚いた表情を浮かべるが、顎に手を置いて考え込んだ。


 「彼は上半身を分離する魔法を持っているのかい?」


 「そんな魔法無いです、色々ありまして……」


 「時間はあるが、立ち話をするほどではないな、道すがら話してやる、エア・バーニング」


 アニスはそう言うと、ため息を吐き、俺の腕にしがみつくと先を歩きだした。俺はアニスに付いていくように歩を進めた。

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