第38話 強盗犯には死を


 「ジャックちゃーん! なんで下半身だけなのー?」


 キングオーガを倒した空洞内の隅に、アリシアという少女となぜか老人、さらにはやつれた人たちがひとかたまりで気絶していた。誘拐されたわりには元気なアリシアはジャックの下半身をツンツン、指で突いて、面白ーいと笑っていた。

 こんなにオーガに攫われていたのか? ならなぜ事件にならなかったんだ……?


 「アリシアちゃん?」


 「なんで名前知ってるのー? お兄ちゃん?」


 アリシアは俺に呼ばれてこちらを向くとスキップをしながら俺に抱き着いてきた。俺の腰までしか身長がないため、俺の片足にだが。

 だがしかし! うおお! すごい、柔肌だ! これが幼い子の弾力! しかもお兄ちゃんって言われるの結構いいな!


 「アリシアちゃんだっけ? 強盗犯だっけ? 僕の物を奪う強盗犯だよね? 殺して良いかな? 良いよね?」


 俺の背後から物騒な事が聞こえ、俺は恐る恐る背後を振り返ると、アニスが感情の一切を無くした顔でアリシアを見つめていた。


 「ア、アリシアちゃん、離れよっか……!」


 俺は足に抱き着くアリシアちゃんを必死に剥がそうとするが、なかなか剥がれずにさらに腕を回され、足も絡みつかせ、猿のように俺の足にしがみついた。


 「えー? なんでー? お兄ちゃ――――きゃっ!?」


 「離れないとお前を殺すからだ、クソガキ」


 俺の足に抱き着いていたアリシアをいとも簡単に引きはがし、首根っこを掴むと宙に浮かせていた。今にも地面に叩きつけそうな勢いだぞ!?


 「お、おい、アニス、大人げないぞ」


 「は? 君はいつから少女趣味に目覚めたんだ? そんな幼い子に抱き着かれて嬉しかったかい? 君はさっき、僕が抱き着いた時よりも嬉しそうだったね? へー、こんな柔らかい肌が良いんだね、良いね、小さい子は、ナチもそうだけどさ、小動物系が好きなの? 踏んだら死んじゃいそうだよ? こんなのが良いの?」


 お前に抱き着かれた時はお前の強さに昔の俺を自嘲していて喜べなかったというか! ただお前はすごいなって気持ちが上回ってしまっただけというか! 心の中で言い訳が溢れるが口から洩れたのは。


 「す、すいません」


 「謝られても困るよ、今からこの小動物を消し炭にするから待っていたまえ」


 「た、助けて! お兄ちゃん!」


 アリシアちゃんの悲痛な叫び声が聞こえるが、それを聞いたアニスが更に不機嫌になりながら睨みつけた。まずい、それでは逆効果だ。分かっている、ジャック、そう足をバタバタさせなくてもアリシアちゃんを消し炭にはさせない。


 「ちょっ! あ、あれだ! アニス! 言う事をさっきの含め二回にしてやる!!」


 俺の渾身の命乞いのような提案。だが、アニスに効果は――――


 「嫌だ、僕はそんな事でで怒りが収まる気がしない、僕はね、アービス、僕と君を邪魔する奴を許せないんだ、僕と君だけの世界に入るやつは死を持って償ってもらう」


 嘘だろ!? この手が通じなかったことなんて無いのに! 本気か!? 本気なのか! アニス! というかその子が俺たちの世界に入ってきた事ないし、お前と俺だけの世界ってなんだ!! だが、ここでそれを論議しても仕方ない。分かった。俺は骨も肉も断つ覚悟を決めた。


 「三つだぁ!!」


 「え?」


 「三つ願いを聞いてやる!!!」


 ギャルのパンティーなら三枚貰える計算だぞ! どうだ!! 俺の譲歩は!!


 「なんでも三つ?」


 「ああ! 三つだ!」


 「なんでも五つ?」


 「ああ! なんでも五つ……? あれ? 増えてませ――――」


 「アービス! 僕のアービス! 大好き、大好き、大好き、大好き、大好き!!」


 なんか機嫌が良くなったらしい。アニスはアリシアちゃんを地面に叩きつけると俺に飛びついた。いや、五つは結構命取りになりそうだが、まぁ、背に腹は代えられない。


 「いたいよー! ジャックちゃーん、怖かったー!」


 ジャックの下半身が心配そうにアリシアちゃんの元へ行くと、アリシアちゃんは泣きながら下半身に抱き着いている。絵面の方が怖いが、アリシアちゃんが怖かったのは本当だろう。


 「何してもらおうかな! 僕の頭の中で興奮が収まらないよ! もうここで聞いて――――」


 「帰ったら! 帰ったらね!」


 興奮気味のアニスを治める。まずいな。何をされるんだ。こいつの言う事は突拍子もないことばかりだから油断ならない。


 「よし、ならすぐ帰ろう!」


 「ここの調査とかは良いのか!?」


 「それは勇者の仕事じゃないよ、倒れている人も後で騎士団かなんかが調査と救出をするさ、僕らの仕事は謎の三人組を片付ける事、キングオーガを片付けただけでも特別報酬が欲しいくらいだよ、まぁ、彼らも戦闘不能だし、ミミック如きが僕に勝てるわけがない、だろ? 強盗犯?」


 「私のことー? うん! 無理ー!」


 「ミミックだったのか……」


 なるほど、消えたマスターと客、吸い込まれたジャック。ミミックは擬態する生物でダンジョンの宝箱に化けていて、化けている宝箱に引き込むと言うが、体内で留めてもおけるなんて初耳だ。


 「ミミック、お前のとこの間抜けオーガも今頃、筋力女に捕まっているはずだ、ここを出て三人ともお縄にさせてもらうぞ」


 「ドレイクもジャックちゃんも情けないなー、しょうがない! わかったー!」


 「ふふっ、僕の物を奪おうとした強盗犯だが、どこぞの淫売と違って物分かりと諦めが早いところは大好きだよ」


 アニスがまた知らない淫売の人の話をしているが誰なんだろうか。まず、あまり風俗店が発達していない王国にそのような職種の人が居るのに驚きだ。きっとすごくエロエロしい人なんだろうな。


 「むっ、ほら、アービス、行くぞ」


 アニスは俺の手に手を回すとこの鉱物がある広場から上へ上っていった。相変わらずジャックは戻らず、アリシアちゃんにツンツンされながら後方から付いてきていた。

 

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