第41話 国外追放だ!


 「よし! 考えた! お前ら国外追放な」


 魔王と関係のありそうな話は置いておき、この三人組の処遇についてシャーロットさんが無邪気にそうな声で提案した。

 なぜそれでニコニコしている理由は俺には分からないが、この寝不足と暴力の快楽で頭がハイになっているシャーロットさんが何をしてもおかしくない気がする。


 「では、王様に進言し、彼らを国外まで警備しながら連れていくということかい?」


 「エア・バーニング、そんなめんどくせえことやってらんねえだろ?」


 「では、私たちが連れていくかい?」


 「いや、もっとめんどくせじゃねえか」


 「では?」


 「投げ飛ばす」


 「無理に決まってるだろ、筋肉女」


 アニスが即否定をした。だが、確かに国外までかなりの距離がある。投げ飛ばしただけで国外まで飛ばせるはずがない。


 「別に国外近くまで飛ばせればいいだろ、俺の籠手には筋力向上のエンチャント魔法も付いてるし」


 「それじゃあ、また攻められたらどうするんだ?」


 「んなもん、また殴り飛ばせば良いだろ、な? オーガ?」


 「ああ!? そん時はてめえの頭、噛みくぐぁあ!?!?」


 ドレイクは言葉を発している途中でシャーロットさんに顎を蹴り上げられてしまう。縄で腕を縛られているので抵抗出来ないがこれではこちらが悪者だ。


 「なんという無茶苦茶な脳筋なんだ……」


 アニスの意見には少し賛同する。考えた方が豪快にもほどがある。


 「シャーロットさん、マジで言ってます?」


 「マジ、マジ、おい、ガキ、大きい縄ねえか酒場で聞いてきてくれよ、俺、酒場壊したから弁償とか言われても困るんだよ」


 「いや、一軒だけじゃないですか、酒場町なんですから他にも……」


 「馬鹿野郎、俺がどんだけこの街で喧嘩や騒ぎ起こしたと思ってんだ」


 知らん。知りたくない。後で国民に勇者パーティーは暴れ者の集まりと言われれば気にするが、今、現在、そんなメンバーが起こした武勇伝と言う名の不祥事問題は聞きたくない。


 「おい、とにかく早く行って――」


 「アービスを使い走りにするのは許さないぞ」


 渋る俺に近づいてシャーロットさんが威圧を掛けようとしたが、それを守る様にアニスは腰に手を当て、シャーロットさんの前に立つと、シャーロットさんは分かった分かったと言いながら、エア・バーニングさんの肩を叩き、エア・バーニングさんの背後に行くと背中合わせのような格好になる。


 「頼むぜ、エア・バーニング」


 かっこよさげな声で発せられるかっこいいセリフに、エア・バーニングさんは目を見開いて驚いていたが、この相棒に頼むような演出を醸し出しながらのその言葉にエア・バーニングさんは目を伏せ、少し笑う。


 「ああ、分かった」


 雰囲気に飲まれたエア・バーニングさんは首を縦に振ってしまった。

 アニスの料理勝負の時もそうだが、エア・バーニングさんは結構、自分が好きそうな雰囲気に飲まれやすい性質なのだろう。なんでも雰囲気や空気に飲まれるわけじゃないだろうが、空気を操る側が空気に操られやすいのはどうなんだろうか。


 「では、少し待っていたまえ」

 

 ゆっくりと歩き出し、先ほどの酒場に向かうエア・バーニングさん。完全に今現在の彼の中での自分は相棒のために行動する男である。


 「さーて、どこに飛ばそうかな~!」


 空を見上げて投げる素振りをしだすシャーロットさん。投げる素振りが縄を持って回転したまま、縄を離して飛ばす奴だった。大きな縄ということは三人一緒に投げる気か!? 


 「た、楽しそうですね」


 「当たり前よ! 三人一気に国外までぶん投げれるなんてなかなか無い体験じゃねえか」


 「あっても嬉しくないですよ」


 「放っておけ、アービス、その女は頭のタガが外れた野獣だぞ」


 「誰が野獣だ!」


 「そういう本当の事を言われてキレる辺りが野獣だ」


 「お前も投げ飛ばしてやろうか!」


 「ほう、君は世界一周旅行がお望みか?」


 「んだと、この野郎!」


 また始まった。この二人は本当に喧嘩が多いな。犬猿の仲とはこの事かもしれない。まぁ、どちらがサルでどちらが犬か分からないが、どちらに例えて二人に行っても怒られるだろう。

 いや、アニスに犬の方を言ったら、ご主人様のためになんでもするワンとか言って、めちゃくちゃ甘えてきそうだ。可愛いけど今でさえ、スキンシップが激しいのにこれ以上は勘弁だ。


 「ドレイクー! 私たち、お空飛べるってー!」


 「馬鹿野郎! 飛べるんじゃねえ! 飛ばされんだよ! しかもわけわかんないとこに落ちるの確定で!!」


 「えー! 私、故郷の森が良いなー!」


 「そんな奇跡が起こるのはお前の頭の中だけだ! アリシア!」


 「私の頭の中で奇跡が起こるってどういうこと?」


 「もういい! マジで誰か助けてくんねえかな!」


 「まだ仲間っていたのー!?」


 「居ねえよ!! バカ!!」


 こちらでも言い争いが始まってしまった。どこのグループもこういう言い争いがあるんだなと思う俺だった。しばらくして、エア・バーニングさんが大縄を持ってやってきた。


 「シャーロットさん、マスターが今度、付けと一緒に払ってくださいお願いしますと言わていたぞ」


 「んだよ、お願いなら聞かなくて良いだろ」


 鬼かあんた。あの気弱そうなマスターを思い浮かべ、不憫すぎるだろと思っていると、シャーロットさんは着々と彼ら三人をロープで縛り上げた。


 「んじゃま! さようならだ!」


 そう爽やかそうにウィンクをして、シャーロットさんが縄の先を持つとシャーロットさんの怪力が発動し、三人は遠心力、向心力などがかかり、シャーロットさんを中心に回転していった。


 ――――――――ぎゃああああああ!!!!


 「また会おう! アリシアちゃん! ジャック君! ドレイク君!」

 

 ――――――――アァアアアアアアアアアアア!!!


 「僕のアービスにもう近づくなよ、ミミック」


 ――――――――キャアアアアアアアアアアアア!!


 なんか感動の別れっぽくなってるけど、絵面が酷いぞ。聞こえてないだろ。

 回転する物体からドレイクとアリシアちゃんの悲鳴が聞こえる。アリシアちゃんは可哀想だと俺は心の中で思いながらすまないと思った瞬間、シャーロットさんは斜め上に手を離した。


 三人の塊は斜め上の方向の空に飛ばされ、段々見えなくなっていった。すごいなシャーロットさん。いや、籠手のエンチャント魔法がすごいのだろうか。とにかく俺たちは三人を見送った。シャーロットさんは清々しい笑顔だった。

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