第35話 僕を愚かと言うとは


 オーガたちはジャックに向けて棍棒を振り回し、俺はそのジャックに向かって振り下ろされる手に向かって飛び上がり、腕を斬り裂く。もちろん、腕を切り離せるほどの剣技は俺には無いが、オーガは斬られた痛みで怯む。そこへ、ジャックがオーガの首を取る。

 他のオーガが俺の背後を取ろうとすれば、後方のアニスが炎を纏った黄金の剣で、魔力を斬撃の様に放出し、背後を取ろうとするオーガを倒す。


 完璧なフォーメーションだ。正直、俺の剣技じゃ傷一つ付けられないかと思ったが、師匠から貰った刀は上質で硬く刃こぼれをしない。師匠には心から感謝した。

 それと、このフォーメーションを初対面のジャックを加えてここまで完璧に出来るのは、ジャックが相当の剣士だからだ。援護がなくても彼は攻撃を避ける。師匠と同じ、いや、師匠の方が強い。だが、そこらの剣士じゃ相手にならないだろう。それに加え、ほぼ反則能力を持つアニスを入れれば敵なしに決まっている。

 そんなフォーメーションを築きながら、俺たちは前へ前へと前進していった。

 

 「逃がさん」


 前線に居たオーガの一体が、その光景を見て逃げ出そうと後ろを振り返った瞬間、ジャックは生失を撃ち、そのオーガを先ほど消したオーガのように黒い球で消し飛ばした。


 「ガァアアアアアアアアア!!」


 もうこうなればオーガたちはがむしゃらに戦うしかない。

 そして、前線に居るオーガの一体は仲間が近くに居るのを忘れるほど狂ったのか、仲間の顔面に棍棒を当てながら振り回し、ジャックに向かって振り下ろした。もちろん、当たらない。


 だが、そこから狂気が伝染した。なんと顔面に棍棒を食らった背後のオーガが怒り狂い、棍棒を振り下ろしたオーガの後頭部を殴り飛ばしたのだ。そして、それを振り上げた瞬間、また別の仲間に当たる。

 そうこうしているうちに、オーガたちは仲間割れをし始めたのだ。棍棒でお互いを殴り合うオーガたち。俺たちは少し離れて様子を見ていた。


 「馬鹿な種族だ、さっきの酒場のオーガの方が理性的なのはどういうことだ」


 やることが無くなったアニスは特に疲れた様子を見せずに話しかけてきた。


 「帝国領土に住むオーガの方が賢いのか?」


 「変化なし、同輩のドレイクは擬態能力を貰った時から変化した」


 「貰った?」


 真っ先にアニスが食いついた。俺も気になるには気になるが、擬態化能力を授ける魔術師か……聞いたことが無い。


 「肯定だ」

 

 「皇帝から貰ったのか?」


 「いや、否定だ」


 「皇帝から貰ったんじゃないのか?」


 「肯定だ」


 「帝国の皇帝?」


 「否定だ」


 「は? ならなんで皇帝なんだ?」


 言葉って難しいね。分かるよ、前世の日本語も難しかったよ。でも、さすがに勘違いが酷いから訂正しておこう。ちなみに俺が気づいたのはジャックが厨二病でわざわざ小難しい言葉に変換して言ってくるのを分かっているからだ。


 「了解の意味での肯定だと思うぞ、アニス」


 「むっ、最初からそう言え、バカアンデット!」


 「勘違いした己の愚かさを――――」


 「なんだと!」


 「ぐうっ!?」


 ジャックがアニスに口答えしようとした途端、アニスはジャックの頭を目掛けて剣を振ろうとしたが、俺が胴体に抱き着いて止めた。決して抱き着きたかったからじゃないぞ!


 「うわぁ!? アービス! 恥ずかしいだろ! いや、良い! もっとやれ!」


 突然興奮し始めたアニス。俺はがむしゃらにアニスの柔らかい身体をゴスロリ衣装の薄い生地から感じ取りつつ、後退り気味のジャックを見た。


 「落ち着けって、アニス! ジャック、悪いがお前の言い方のせいでもある」


 「それも肯定、だが、漆黒はこの喋り方で定着している、治すのは不可」


 素直な人だった。ジャックはやはり話が分からないやつじゃないらしい。というより、擬態化した際、オーガが知性を持ったようにどこか変質したのかもしれない。アンデットは元々ゾンビのようなものだし。

 すると、アニスはぶつぶつ言いながらも諦めたのか、ジャックから顔を背け、ふくれっ面をしていた。そんなに愚かって言われたのが癪に障ったのか。


 「そろそろ行進を」


 難を逃れたジャックは誤魔化すようにそう言って来た。

 俺はまだ暴れてるんじゃないかと先ほどのオーガたちを見れば、すでにオーガたちは自滅しており、死屍累々になっていた。オーガの攻撃はオーガの頭を潰す。なるほど。彼らは自分の弱点を知っているから頭を執拗に狙ったんだな。そう思ったのはほとんどの死体の頭部が潰されていたからだ。

 ジャックから詳しい話を聞きたかったが、ジャックは仲間を捕らえられている。こんなところでのんびりしたくはないだろう。それはアニスも察してなのか、気まぐれなのか、俺たちの前を歩き出した。


 「僕が前に行こう、灯り代わりになってやる、これ以上湧かないということは居ないということだし、まさか、オーガが待ち伏せしているとも思えん、オーガの王は図体ばかりの王とはよく言ったもんだな」


 「そうだな、は図体ばかりの王だからな」


 キングオーガ。この先に待っているであろうオーガの王。普通のオーガよりも大きく強い。だが、知性も知能も他のオーガと大して変わらない。脅威なのはオーガよりも即効性の治癒能力だ。図体ばかりの王とはそういうことだ。脅威じゃないかとも思えるがそれは本人だけで、彼は統率が取れないため、今のオーガたちで手勢は滅んだという事に俺たちは安堵していた。

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