第34話 漆黒の剣技を見よ
洞窟の奥に居たのは数えきれないほどのオーガだった。グレーの皮膚を持った二メートルから三メートルほどの腰に布を巻いただけの巨体が、何体も棍棒を持って洞窟の奥から現れたのだ。
「お前らの仲間じゃないのか……?」
「漆黒の同輩であるドレイクは帝国領の山脈オーガだ。こいつら王国領のオーガとは関係は無だ。それにしてもこれほど繁殖しているのに放置していたのか」
ジャックは呆れた様な声を出す。そんな事を言われても困る。実際問題、こんな近くの洞窟にこんなオーガの大群が居るなんて思わなかった。
「オーガが居るなんて聞いたことない。ここの森は小型種ばかりだから、あの酒場村の荒くれたちでも対処出来ていたはずだ」
「まったくだ。これではどんどんアービスとイチャイチャする時間が減るじゃないか」
耳が痛い話だ。しかもこの辺りから王国領までかなり近い。どうなっているんだ。どこから湧いたんだ。後、このクエストが終わった後、アニスとイチャイチャする予定はない。
「最近、小鬼が多勢で移動しなかったか?」
確か、エア・バーニングさんが昨日、村を襲った五十匹のゴブリン相手に戦っていたと言ってたがそれと関係あるのだろうか。
「昨日していたな。でもあれは旅に出るゴブリンたちで、直線方向にあった村を襲うもんだからエア・バーニングさんが倒したって聞いてる」
「ならば見当違い、それは逃げ出す小鬼たちだったのだ」
なるほど、それなら合点が付く。逃げ出すゴブリン。つまりこのオーガどもは王国が気づかないうちに入りこみ、元から住んでいたゴブリンを追い出した。だから洞窟にゴブリンたちは入ってこない。
「鬼ども。こちらの人員増強に驚愕し、様子見を決めていたがもうそれも我慢の終着を迎えたらしい」
ジャックの指摘通り、まるで意を決したかのように動き出したオーガたちはこちらに向かってのそのそと棍棒を振りあげていた。だが、そんな状況で俺は我慢の限界を言い換えたジャックの言葉にツボってしまった。
「が、我慢の終着……ぷっ」
やばい、笑いを押さえるのに必死になってしまう。俺はなんとか我慢し、前を見た。笑っている場合じゃなかった。大群で雪崩れ込むようにやってくるオーガ。
鞘から刀を抜き、両手でしっかりと持った俺は右足を前に、左足を後ろにやり、刀を俺の顔の正面に構える。アニスは俺とジャックの背後で炎に燃えている剣を構えた。
「同輩が捕えられている。貴様らもこの脅威は見逃せない。漆黒と休戦」
「分かった」
「アービスが良いなら僕も構わないよ」
ジャックの言う通り、休戦する理由には充分だ。俺とアニスが了承したと同時に、ジャックは両刃の長刀を右手で持ち、左手を向かってくるオーガたちに向ける。
「闇に滅しろ、
アンデット専用なのか聞いたことが無い魔法を唱えたジャック。するとオーガに向けられた両刃の剣の先から黒い球体が生まれた。禍々しいその球体に俺は息を飲んだ。
「そ、それは?」
「静観しろ」
思わず聞いた俺にジャックはそれだけ言うと、剣を直線に突いた。すると黒い球体は発射し、オーガの一体に直撃した。
オーガの群れは何が起きたか分からず、動きを止め、そのオーガを困惑した様子で眺めている。そして俺もその魔法に目が釘付けになった。
「この魔法は全てを飲みこむ。それはどんな生物も抗えない」
その言葉通り。一体のオーガに直撃した黒い球はだんだん大きくなっていき、最終的にオーガは上半身を包まれてしまった。オーガはそれでも覆われていない足を使って、逃げるように後ずさっていく。だが、黒い球は歯止めを知らずに大きくなり、そのオーガの仲間が助けようとしたのか、腕を伸ばす。すると、広がっていくその球体に腕を覆われてしまい、そのオーガは逃げ出そうとするが腕が抜けないらしく、地団駄を踏み出した。
その光景を見ていた他のオーガたちは驚き、洞窟の奥に振り向かずに後退していく。
そしてとてつもなく広がった黒い球は洞窟の壁も多少巻き込みながら、最初に直撃したオーガを中心に収束していき、そして――――消滅した。
「ギャオオオオオオオオオ!!!」
身体の全てを覆われたオーガは消え去り、そして、右腕のみを取り込まれたオーガは右腕を削り取られ、わめき出す。
それが開戦の合図だった。
「闇に消え損なったか」
削り取られた腕を押さえ、うめき声を上げるオーガを見ての発言だろう。
ジャックはいつの間にやら展開していた黒翼で、闇に消え損なったというオーガの元へ瞬時に飛んでいき、オーガの治癒能力が発動しかけた瞬間、ジャックの長刀がオーガの首を斬り裂いた。
オーガの首はどんどん胴体からズレていき、その大きな首が洞窟の冷たい地面に転がった。
「闇に消えたな」
満足そうな声を上げたジャックはそのまま地面に音もなく着地し、オーガの群れを見つめていた。後姿しか見えないがその姿は正しく剣士だった。
「ギャオオオオオ!!」
激高したのはオーガたちだ。仲間を殺され怒ったのだろう。
四メートルほどのオーガが一体、棍棒を振り上げて走りだし、まるでもぐら叩きのように棍棒を振るう。だが、後方に素早くバックステップを取ったジャックには当たらない。何度距離を詰めて、振るおうと当たらない。
挙句の果てには、夢中で振り降ろした棍棒を洞窟の地面にめり込ませてしまい、オーガはその隙を突かれ、ジャックの長くリーチのある長刀の斬撃を浴びてしまう。そして、そのオーガの首がやはり冷たい地面に音を立てて転がっていく。
少々残酷だが、彼らの治癒能力を防ぐに即死させるしかない。
「ジャックふざけた名前なのにすごいな」
これは俺だ。ちょっとディスってしまったがもちろん、感嘆の声だ。
「僕にだってあれくらい出来る」
「アニスは灯りを絶やさないでくれ、後で褒めてやるから」
「むぅ、仕方ないな」
自身も切り込もうとばかりにアピールをしたアニスを何とか止め、俺は刀を構えて走り出した。アニスもそれに続く。敵をどんどん奥へ奥へと追いやるためだ。そうすれば親玉にも会えるだろう。それにあの技術の剣技を持ちながら一度多勢に無勢で負けている。ここはフォローに回らなければ。
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