第36話 変な触り方をするな……!
キングオーガの待つであろう奥の場所に炎を宿した剣を持つアニスが先頭を歩き、俺とジャックは後ろを付いていっていた。しばらく無言の続く中、俺はある事に気づいた。
「なんか下に降りてないか?」
「地底入りしている」
それはマズイ。何がマズイって火だ。もしも火事になれば消すのは難しいし、もしも隠れ鉱山のような場所に繋がっているとしたら毒が煙に乗って村々を襲ってしまう。
「やばいな。これ以上、地下に入る前に火は消した方が良いだろ」
「それは分かるが灯りはどうする? 光の魔法だと一定時間だけだ」
確かにそうだ。懐中電灯のようなものは無いし、光魔法で永続的に光続けるものはない。
「暗闇を見通す力を持つ漆黒が先頭に立とう」
「暗闇で目が効くんですか?」
「地獄から這い出て来たからな」
自嘲するかのようにそう言ったジャックだったが、今、一番頼りになるのは彼かもしれない。変なやつだが、少し信頼してみよう。アニスも仕方ないかと剣を鞘に戻す。その際、まるで鞘が炎を掻き消しているかのように帯刀されていく。羨ましい。かっこいいなそれ。
「あ、何も見えない」
当たり前だ。光も差さない洞窟の奥なのだから。俺は急に訪れた暗闇に少し怯える。
「付いて来い」
するとジャックは俺の肩を叩き、先を歩いた。どうやら気遣われたらしい。結構良い人だなと思った。 それから、一本道だから大丈夫だろうとは思いつつもジャックの声を聞き逃さないよう耳を澄ましながら進んでいった。
すると背後から衝撃が走る。アニスだ。アニスは俺の背中に抱き着いてきた。
「怖いよー、アービス」
どんな棒読みだ。お前は怖い話も廃墟も大丈夫じゃないか。だが、俺はそんな無粋な事は言わない。俺はアニスの脇部分に手を回した。
「きゃっ!」
驚いた声が可愛い。いや、そんな事よりアニスめ、驚いただろう。驚かせようと思ったのだろうが、俺が驚かせてやった。
「放置するぞ」
「すまん!」
少し立ち止まっている時間が長かったせいか、ジャックに急かされ、俺はアニスを横に抱きしめたまま歩き出した。アニスはそれから大人しくなり、俺の身体に密着したままだ。まぁ、良いか、もしかしたら本気で怖くなったのかもしれない……。無いか。
しばらくして、謎の飾りが付いた大きな門があるとジャックに教えられた。知能は低いが派手な物が好きという典型的なお山の大将だな。
もしかしたら、その門を入った場所からまたどこかの地域へ上れるようになっていて、元々その地域に住んでいたオーガどもがこの場所から穴を掘ってこちらに開通してきたとか? あり得るな。バカだが知能がないわけじゃない。どこかに通じてるかもしれないと穴を掘った可能性がある。
そしてたまたまあの洞窟に開通したとか? あまり地理には詳しくないがこの森は昔からあるし、オーガが侵略してきた話も知らない。だが、地底からの侵略ならあり得るか? それならあの数の多さや、最近逃げてきたゴブリンたちにも説明が付く。
「漆黒が開門しよう、漆黒は万が一、不意打ちされても亡き者にならない」
俺があれこれ考えているとジャックがそう提案してきた。確かに攻撃を受けてもアンデットのジャックなら光魔法じゃない限り、死ぬのは難しい。
「僕に負けかけた分際で偉そうに」
「誤算、油断していたのだ」
「減らず口め。まぁ、開けたいなら開けろ、ほら、アービス下がるぞ」
黙っていたアニスはいつもの調子を取り戻すと、俺の腕を自身の身体に巻きつけながら後退していく。見えないせいで良く分からないが、何か柔らかい場所に腕が当たっている気がする。俺は少し手を上下にスライドさせる。
「んっ」
つい、動かしてしまったが、なぜかアニスがなまめかしい声を出した。なぜだ。俺は脇腹を触っているんじゃないのか? いや、巻きつかれたときに腕が少し上の方へ移動されたな。俺は何を触っているんだ。
「そこを触るなぁ」
やばい、この反応。触って居る場所が大体わかった。膨らみが無くて分からなかったが、多分胸だ。やばい、後で何を言って責められるか。わかったもんじゃない。どうしよう。
「開門」
俺がアニスの胸を揉んだ事を葛藤していると、ジャックは開門と言って扉を開けようとした。
なぜ開門と言って扉を開けるのか。それが分からない。だが、まぁ、ジャックの事もだんだんわかってきた。クールを気取っているがかっこつけたい人種なのだろう。あ、こんな事考えてたら葛藤せずに済むな。
「ふんっ!」
短い声が聞こえ、門が開かれる。この際、開ける時は普通、こういう場所に入るなら片方だけ開けて、静かに様子見の方が良いはずだ。だが、格好つけで目立ちたがり屋のジャックは両扉を一斉に開けてしまった。
すると、大きな扉が大きく開いた瞬間、何かの光が俺とアニス、ジャックを照らし出し、そして、謎の突風が俺を襲った。俺は風からアニスを庇うように背後にアニスを回し、風の影響で視界が悪い中、俺は目を半開きにしてジャックの様子を見て思わず、目を見開いた。
――――ジャックの上半身が吹き飛んでいたのだ。
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