第31話 漆黒の覇気が効かないとは……
酒場のおっさんたちから話を聞いた俺はアニスをお姫様抱っこを継続させながら、村の周辺を回ってエア・バーニングさんを探すと、運よく見つけた。彼らは、村の周りにある森の上空で華麗なる空中戦をしているようだ。
「首痛くなりそう」
「僕は君がお姫様だっこしてくれているおかげで視線の先がずっと空だった」
「腕も首も痛いとか勘弁だ、そろそろ降ろして――――」
「アービスが僕を見捨てると言ってくる。でも、そうだね。僕は要らない物のようさ。だって僕は君に物のように突き飛ばさたんだからね」
どんな嫌味だ。暗に降ろしたらめっちゃ拗ねると言ってきやがるこの女。首と腕をとるか、アニスのご機嫌取りをするか。俺は悩んで腕と首を捨てた。
「あの銀髪、格好もやばいけど、何気、エア・バーニングさんと互角?」
俺が見えている光景では、エア・バーニングさんは攻撃を一切せず、あの銀髪の男が持つ両刃の長刀から繰り出される斬撃を避けているのみだった。
「いや、エア・バーニングのやつ、あんまり本気出してないな」
「ていうか落ちてね?」
俺はエア・バーニングさんが避けながら、だんだん森へと落下しているように見えた。まさか……。
「アニス、エア・バーニングさん寝てるかも」
「飛びながら寝るわけないだろ」
「いや、あの人、この前俺の家の前で立ったまま寝てたからもしかして……」
「……なら止めを刺される前に助けに行った方が良いな」
「えーとお姫様抱っこは――――」
「継続に決まってるだろ」
「ですよね」
お姫様抱っこをしたまま森の中を走るのはいささか危険だが、このお姫様の機嫌も大事だ。早くエア・バーニングさんの元へ駆けつけるため、俺は速度を上げる魔法を使い、前はアニスに任せ、なるべく下を見て走った。
「あ、見えてきた、河原だなあそこは」
アニスの言葉を聞き、俺も前を見た。するとそこには石が敷きつめられた河原だった。そこには今にも止めを刺されそうなエア・バーニングさんが横たわっており、銀髪男の長刀の先がエア・バーニングさんの首元にあてがわれていた。
「エア・バーニングさん!」
「……貴様ら、エア・バーニングの仲間か?」
「ああ、勇者パーティーのアービスだ」
叫んだ俺に気づいた銀髪男は睨みつけてきた。黒いマスクで分からないが俺の前世で言う厨二病系の男だった。黒いコートは男の足首までの長さで、手には指ぬきグローブ。すまないがダサい。
「漆黒の名前を知れるのは――――」
「強い奴だけ?」
「……その通りだ」
まんざらでもない反応。やはりこいつは厨二病。こういう映画のようなやりとりを好む習性があると聞いたことがあるが本当だな。
「なら僕も名乗る必要はないな、名乗らないやつに名乗る名は無いぞ。アービスは永遠に僕の名前だけを呼べ」
いや、それは怖いだろ。そんな適当な事言ってると、本当にアニスアニスって言い続けてやろうか。喜びそうだなこいつ……。
「エア・バーニング、この男は永久の眠りについた、やはり漆黒の力は――――」
「いや、それ、多分あんたの力じゃなくて寝不足で寝ちゃっただけだぞ」
銀髪男は俺の言葉に目を見開いた。まるで信じられない事を聞いたような顔だった。いや、そんな一撃も当ててないのに死ぬわけないだろ。
「なに? 俺の覇気に当てられ死んだんじゃ……」
「覇気だけで死ぬ奴は居ない」
というかあんたにそんな覇気は無いぞ。
「ふっ、漆黒は息をしていないのでな、そういえばあったなそんなもの」
「アンデットか?」
「……なぜバレたんだ?」
そりゃ息せず動ける生物はアンデットくらいだろうよ。メジャーなのは。というか、どうしてこの男は自分で出した情報で出された答えを聞いてこんなに驚くんだ。自分の発言に責任を持てないタイプか?
「アンデットなら光魔法だな、アービス降ろしていいぞ」
アニスはアンデットと知るや否や、そう言いだし、俺もやっと降ろせると安堵して、アニスを河原の石場に降ろした。
「漆黒を消し飛ばすほどの光魔法などあるはずが――――」
「
呟くように魔法名を唱えたアニス。すると、天から突然光の光線のような物が浴びせられ、光線は地面を抉り、そのままアンデットに向かって行った。
これは最上級光魔法で天から直射される光の柱を相手に浴びせ蒸発させる技だ。アンデットには効果バツグンで、これをかすりでも受ければ肉体は燃えて消える。
「漆黒に、そんなものは……くっ!?」
アンデットはカッコイイ事を言おうとしたが、思ったよりもスピードが早かった光の光線を横転して避けた。だが、俺はそれよりも河原の石が蒸発していたのを見逃さなかった。まずい、自然破壊はまずいぞアニス。
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