第30話 恐るべきは仲間なのかもしれない
酒場の男から聞いた話を話していこうと思う。というかツッコミどころが多すぎて、俺は話を聞いている間に何度、頭に疑問符を浮かべただろう。
――――
まず、シャーロットさん、エア・バーニングさん、アモンさんの三人は早朝にも近い時間にこの酒場にやってきたらしい。見ていたおっさんは帰ろうとしてたところだったらしい。
「シャロちゃん、今日は店じま――――」
「あ?」
「なんでもないです」
マスターが店じまいを伝えようとしたが、シャーロットさんの鋭い眼光と眠気に耐える顔、そして目の下のクマに怯え店じまいはやめにしたらしい。迷惑な事だ。
三人はそのままカウンター席に着いてしまった。左にエア・バーニングさん、真ん中にアモンさん、右にシャーロットさんだ。
「店じまいと言っていなかったかい?」
「気のせいだ、エア・バーニング。マスターは店自慢の酒を出してくれるって言ったんだよ」
「え~! そんなの出されてもシャロちゃん飲めないじゃないですか~!」
「うるせえ! 飲めるよ! 気合いだ! 気合い!」
「いや、シャロちゃん、止めといた方が……」
「なんでマスターまでシャロちゃんって呼んでんだ!!」
「す、すいません! シャーロット様!」
「様付けするな!」
「ひいい! すいません!」
シャーロットさんはいつにもましてイライラしていたらしく、アモンさんやマスターに当たり散らしていたらしいが、俺にはいつもじゃないのか? とかマスターが不憫すぎるとしか出てこなかった。
「あの、本当にお酒出して良いんですか?」
「良いつってんだろ」
「やめときましょうよ~」
「うるせえな、飲めるったら飲めるんだ!」
「飲んでも飲まれるなだよシャーロットさん」
「俺は飲まれた事なんてねえよ、酒にも敵にもな」
シャーロットさんはそう言って周りの反対を押し切り、マスターがしぶしぶ酒をグラスに入れ、差し出すと、喉に入れようとした瞬間。
「おう! お前ら! ここには最上級魔術士ってやつは居るか?」
シャーロットさんが飲もうとしたのを邪魔したのは先ほどシャーロットさんにボコられていたオーガで、その後ろから銀の長髪男とちょうどアニスのような恰好をした女の子が入ってきたらしい。
「んだよ、おめーら、生憎、ここにはてめえらの望む最上級魔術士は居ねえよ、勇者パーティー御一行の最上級魔術士三人なら居るがな」
「へー! ビンゴじゃん!」
「悪いがお前らみたいなのの依頼は受けねえんだよ」
「いやいや、依頼じゃねえよ」
男はヘラヘラ笑いながらシャーロットさんに近づいてきて、両肩に両手を置いたという。この時点でシャーロットさんを知っている客たちはあーあー、やっちまったなと自身の席から退避していった。
「てめえ、誰の肩に手を置いてるか、分かってんのか?」
「シャーロットさん、ここは穏便に――――」
「エア・バーニングだな」
「君は……」
殺気立つシャーロットさんを止めようとしたエア・バーニングさんを呼び止めたのはオーガの背後にいた銀髪の男だった。エア・バーニングさんは立ち上がって彼を見つめた。どうやら何かを感じ取ったらしい。
「漆黒の名を知れるのは強者のみだ、エア・バーニング」
「そうか、なら、君は私が相手をしよう」
「ほう、逃げるかと思っていたが、さすがは英雄だな」
「私は英雄だから君と戦うんじゃない! 君の名前を聞きたいから戦うんだ!」
「……?」
男はその時点ですごい変な物を見る目でエア・バーニングさんを見たらしいが、俺も敵にそんな事を言われたら同じような目で見るだろう。
なぜ急に少女漫画のようなセリフを言ったのか。眠いからいつもより変なのかもしれないが。だが、相手も変だからどっこいどっこいかもしれない。敵の方は中二病真っ只中の中学生みたいだな。一人称、漆黒は痛すぎるだろ。
「では、表に出よう、ここでは迷惑が掛かるからな」
「分かった、漆黒もお前以外に興味はない」
「私も付いてくー」
エア・バーニングさんは男と女の子を連れ、酒場を出たらしいが、そこからはどこに行ったかは分からない。
「ほら、ねーちゃん、俺らもやろうや」
シャーロットさんの両肩から手を離し、今度は右肩の方にだけ肩を置き、寄り掛かってきたゲスな笑みを浮かべるオーガ。シャーロットさんは一度、ため息を吐き、そして――――肩に置いてある手を左手で掴み、自身の身体の前の方へ引っ張り、立ち上がった。
「なっ!?」
オーガは驚いていたらしいが、予想は付く。オーガの腕を容易く引っ張り動かしたのだ。力自慢のオーガには衝撃的だったのだろう。驚いていたせいで判断が遅れたのか、何もせずにただ引っ張られ動かされていたらしい。
立ち上がったシャーロットさんは体勢を崩したオーガの後頭部を掴むと、勢いよくカウンターに顔面を叩きつけ、離し、もう一度、叩きつけた。カウンターはオーガの顔面で砕かれる。顔面では無くカウンターが割れるとは。だが、オーガの顔面は血だるまになっていたらしい。悲惨だ。
正直、聞いてて俺は自分の顔を押さえた。想像するだけで痛そうだからだ。アニスは僕にだってできると言っていたがシャレでは無いんだろう。見たくはない。
「ひぃい~~~!!」
そんな惨状を見て上げられた悲鳴はアモンさんだったとか。まぁ、あの人、あんまりそういうの見た事ないのは明白なので、仲間にビビられてんじゃねえか! などというしょうもないツッコミは入れなかった。
「それで? どうする? あんちゃん、まだやんのか? 今ならさっきのヘンテコ野郎と嬢ちゃん連れて帰れば許してやるよ」
シャーロットさんはそう言い放つと、オーガの後頭部を離し、地面に放り捨てた。
「ふ……ざけ……んな」
「へー、お前、オーガか」
オーガは顔を押さえ、立ち上がった。なんとオーガの顔が回復していたらしいのだ。傷がどんどん無くなっていくのに客たちは驚いたらしいが、シャーロットさんは目を見て気づいたのか、大して驚かなかったとか。
オーガはその性質上、肉体の治癒が早い。だが、疲労も回復するわけじゃないし、即死させればもちろん死ぬ。
「アモン、一応、勇者とガキを呼んで来い」
「良いんですか~?」
アモンさんはなぜかオーガに聞いたらしく、オーガは良かったな、女、俺は猛烈に今、そこのねえちゃんに夢中だから勝手にしなと言っていたらしく、アモンさんは安心してこちらに来たらしい。
背中から襲われなくて良かったね! アモンさん! 敵に言われたことを素直に受け取りすぎだと俺は思います!
息まいていたオーガだったが、一方的に色んな場所を下敷きにしながら殴り飛ばされ、店外へ。そして、俺たちと出会う。
シャーロットさん、オーガの攻撃、さっきの一撃以外当たってなかったらしいし、一騎当千は伊達じゃないってところだな。怒らせないようにしよう。俺はその話を聞いてそう思った。
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