第1話 幼馴染はヤンでるのか
俺はあれから赤ん坊として生を得て、五歳になっていた。この世界での俺の名前はアービスだ。俺は一から人生をやり直している感じがして、少しエンジョイしていた。いや、かなりエンジョイしていた。
この世界はやはりゲームのような世界で、前世の世界のような娯楽は何も無かったがそれでも頼れる農夫の父と甲斐甲斐しく俺を育てる綺麗な母に俺は満足しきっていた。
村は小さくも大きくもなく、俺の現在の両親の父親の方は名をシュタロと言い、牛や豚を育てる牧畜農家だった。たくましい身体に男らしい黒髪短髪のごつい顔は爽やかな笑顔も似合っていた。
母の名はセルフィーと言い、家事や料理を担当しており、時たま、服を縫って作成して村の人に贈っていた。
俺は優しく誠実な両親が大好きだった。家事を手伝ったし、父親の手伝いもした。更には村で色々なお手伝いをしていくうちに可愛がられるようになっていた。
そんなある日、我が家に他の村から移り住んできたという家族が挨拶に来た。うちの両親に負けず劣らずの優しそうな夫婦。その両親に挟まれて紹介された同い年の子ども。
俺のこれからの物語で一番厄介な女―――アニス。それがその子どもだった。
「よろしく頼む、僕は勇者になるんだ!」
その一言を聞き、五年前ここに転生する前に聞いた情報を思い出し、まじまじとアニスを見た。アニスは男の子の様な外見で髪は黒く短い髪で、顔だちも中性っぽい印象だ。しかも男の子の様な格好で中世の布で出来た袖のない服を着ており、短いズボンを履いていた。
一瞬男の子だと本気で思った。だが、そんな事がどうでもいいと思えるほど、アニスはやばかった。
「ねえ、アービスくん、僕と遊ぼうよー」
これが出会った頃のアニス。俺は記憶保持をしていたため、まるで姪と遊んでいるような気分で遊んでいた。だが、こちらも身体は子どもだからこちらの世界の鬼ごっこやかくれんぼなどは手を抜かず、全力でやらせてもらった。
だが、ここで少しアニスが変だなと思った。最初は村の子ども全員で遊んでいたはずなのに急に俺と二人きりじゃないと不満気な顔を時節、見せるようになった。
「アービスくんって長いからアービスで良いよね?」
そう言われたのは九歳の頃、俺は最初からアービスで良かったのにと笑って言うとそれからまるで呪文の様にアービスと何度も連呼していた。俺はここでかなりアニスがおかしいことに気づいた。
「ねえ、アービスさぁ、僕の事好き?」
十二歳の頃、成長してアニスもかなり女の子らしくなっていた。胸が薄めだったり口調だったり男の子成分はまだ残ってはいたが、かなり可愛い。だが、俺は異性として見れず、友達として彼女に接していたため、この質問には戸惑ったがきっと友人としてということだろう。俺も本当に俺は友人たちに好かれているのだろうかと悩んだことがあったなと思いだしたからだ。
俺はうん! 好きだよ! と笑ってそう言った。アニスはかなり照れており、顔を真っ赤にして何かをぶつぶつ呟いていたがそれは聞こえなかった。
「アービス、どうしてその子とばっかり話すのさ? その子の事が好きなの? 僕は? ねえ?」
これは十五の頃、俺は引っ越してきた金髪ロングの女の子と仲良しになっていたが、それをなぜかアニスは表情の全てを落としきった顔で俺にそう言って迫ってきた。俺は思わず、そんな事ないよ、好きってわけじゃないって言うとアニスはニコっと笑った。目だけは本気で怖かったままだが。
俺はここで完全にアニスはおかしいと分かった。
「ねえ! アービス! 聞いてよ!」
ある日、俺が十八になり、剣術や魔法を一時間かけて、王国まで行って学んではいるが、いつ勇者になるんだ俺と疑問を抱いて居た頃、アニスは元気よく俺に抱き着き、身体の匂いを嗅いでくる。これは十歳の頃から始まった癖だ。これをしないと落ち着かないんだという。
「ん?」
「僕、学校で勇者認定貰ったんだ! 明日、勇者になる儀式を王国に行ってしてくるんだよ! あ、でも、安心して? 他の人はどうでもいいけど、僕は勇者になったら絶対アービスをパーティーに入れて冒険するんだぁ……」
俺の匂いを嗅ぎながらそう言ってくるアニスの言葉は俺の耳に入らなかった。
俺はこいつに嫉妬していたのだ。こいつは、魔法、剣術、体術、全てにおいて反則だらけだ。魔法を撃てば山の山頂は削れ、剣術では俺の師匠も相手にならない。体術も同様。
「そうか、良かったな」
と言いつつ、心の中で、俺は俺は勇者として生まれてきたのに俺には勇者認定されなかったのか!? と俺は少し不満気だった。
来る前は勇者なんかやりたくないと思っていたが、この世界にかなり愛着が沸いた俺は両親から聞かされる魔王再臨の話や、魔物の増殖などの話を聞いて、両親や村、この国の人たちを守りたいと思った。それは転生前の警官になりたいと思ったとき以来の将来の夢だった。
そのために魔術学校で勇者認定試験を受けたが、それに受かるのは五十年に一人だと言う。
五十年周期で勇者は変わる。そして前回の勇者認定から五十年後、勇者になったのは俺ではなく、アニスだった。
「ちっくしょう……話が違うぞ、あのクソ男……」
俺は転生させた男を思い出し、憎悪が沸き出してくる。俺が勇者じゃなかったのか、確かにアニスも勇者だと聞いていた。だが、勇者が五十年周期のものなら俺が勇者になるのはまさか五十年後? ふざけてるのか?
俺はその時、気づかなかったが俺に抱き着いたまま動かないアニスが感情のない目でこちらを見上げていた。
「また僕以外の事考えてる……」
そんな呟きが確かに近くで聞こえたはずなのに。
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