第70話遊んで遊んで……そして、思いを伝えた。

 お昼を食べ終えた俺達。

 水族館で遊ぶまでは予定として決めていたが、これからは本当にぶらぶらと歩きまわって遊ぶつもりだ。

 この都市に無ければ、この世には無いと言えるくらいに様々なお店が軒並みを連ねているのだ。

 予定などなくとも、『あ! あそこ見よ?』と言った感じで容易に楽しめる。

 まあ、ちょっとだけどこら辺に何のお店があるのかは下調べしてあるけど。


「間宮君! あそこで服を見よ?」

 俺の手を引き、楽しそうにする山野さん。

 もう俺が山野さんの事をどう思っているのか、今日伝えたいことが何なのか。

 それが何なのか、絶対に分かっているだろう。


 だからこそ、


「ねえ、間宮君はどっちが良いと思う?」

 めちゃくちゃに可愛い事を言ってくる。

 どっちが良い?

 じゃなくて、間宮君はどっちが良いと思う? とか言われてみろ。


「山野さんは可愛いのでどっちでも似合いますって」

 どっちの服が良いか聞かれたのに、そっちのけになってしまう。

 で、さらに山野さんはずるい。


「雑すぎない? ちゃんと選んで?」

 意地でも俺に選ばせようとして来るのだ。

 どっちでも似合うと言ってお茶を濁すのを許さず、否応がな服選びを一緒にしようと強引だ。

 その強引さが、なんと言うか、


「しょうがないですね。とことん服選びに付き合います」

 一緒に過ごす上で、堪らなく楽しい。

 山野さんが可愛くて、どっちでも似合うと言った服をしっかり見やる。

 そして、どっちを着たら似合うか想像を膨らませ、似合う方を選ぶ。


「どっち?」


「右の方ですね」


「なるほど。参考になったし、似たようなのを今度探してみよ~」

 どっちが似合うか聞かれただけで、買うつもりは無いらしい。

 せっかく選んだのに、買わないのはつまらない?

 いいや、逆だ。

 無駄にあれが良いだとか、これが良いだとか、言い合うのも悪くないのだ。


「山野さん。あれなんてどうですか?」


「あれか~。これからの季節だと、肌寒さが厳しくなって来るし良いかも」

 二人であれこれ服を見て回る。

 なんだかんだで、満足いくまで服を見て歩いていた。


「服と言えば、正直に教えて欲しいんですけど……」


「良いよ、なになに?」


「今日の俺が着ている服。似合ってますか?」


「そこが気になるとは、中々にお茶目さんだね。というか、出会った時、間宮君も気合十分だ! って言ったじゃん」


「それって、服が似合うって意味だったんですか?」


「うん、そんな感じの意味で気合十分だって言ったよ。それにさ、私がおしゃれしてないから、一緒に歩くのは嫌~って言うタイプに見える?」

 確かに俺がダサくても、山野さんはきっと嫌がらずに横を歩いてくれるだろう。

 だがしかし、好きな人に恥はかかせたくないのだ。

 

「可愛い子と一緒に歩いているのに、俺がダサくてかわいい子に恥をかかせたくないだけです」


「そっか。それなら良し。でもさ、私に可愛い可愛いってよく言うけど、たまには綺麗だとか言ってくれても良いんだよ?」


「すみません。だって、可愛いので」


「また言った。まったくもう。そこは綺麗ですよ~って言ってくれても良いのにな~。あーあ。拗ねちゃうなー」

 山野さんにそっぽを向かれ拗ねたふりをされてしまう。

 なので、俺もわざとらしく大げさに謝るふりをしよう。


「すみません。もう可愛いって言わないので許してください」


「もう言わないんだ」


「はい。言いません。まあ、嘘ですけど。っと、あそこに寄って行きませんか?」

 

「ゲームセンター? うん、良いよ。遊んで行こっか。あ、でもお金を使い過ぎないようにちょこっとだけだよ?」




 何となくで遊んで行くことになったゲームセンター。

 クレーンゲームとかで無駄にお金を使う気はないので、やるならアーケードゲームだよねとか話しながら、俺達は気楽に歩いていた。

 そんな時の事である。


「間宮君。こっち!」

 手を引っ張られて、人気がないエリアに引っ張られた。

 携帯のカメラが高性能になった事によって、今となってはだいぶ下火になってしまったプリクラが設置された場所だ。


「どうしてここに?」


「みっちゃんが居たんだよ。せっかくお出かけだし、茶々を入れられたくないでしょ?」


「なるほど。にしても、クレーンゲームとかは凄い混んでるのにここら辺は空いてますね」


「あ、せっかくだし、撮ってく?」


「……良いんですか?」


「もちろんだよ!」

 みっちゃんとの鉢合わせを防ぐために逃げ込んだプリクラエリア。

 せっかくなので、二人でプリクラを撮る事に。

 お金を入れると、モード選択画面が表示される。


『みんなでわいわいモード(3人以上はこっちを選んでね!)』


『カップル専用モード(2人なら絶対こっち!)』


 二つの選択肢が画面に表示された。

 でまあ、山野さんはちょっぴり恥ずかしそうに『カップル専用モード』の方をタッチした。


「ふ、ふたりだしね。こっちじゃないとダメでしょ?」


「そ、そうですね」

 モード選択が終わると、早速機械がアナウンスを始める。

 なんと言うか、カップルモードと言う名は伊達じゃない。

 普通に恋人を想定したポーズを早速取らせようとして来やがった。


『さあ、まずは女の子! 男の子に抱き着いてみよう! 10、9、8、……』

 進んでいくカウントダウン。

 そんな中、山野さんはと言うと


「指示だからちゃんとしないとだめだよね? えいっ!」

 抱き着いて来た。

 柔らかい体で抱き着かれ、めちゃくちゃ緊張しながらカントダウンは進む。

 そして、一度目のシャッターが切られた。


『次はお姫様抱っこに挑戦してみよう! 準備があるだろうから、少し長めのカウントダウンを開始するよ! 15、14、13……』


「山野さん。失礼します……」

 

「え、あ、うん」

 お姫様抱っこをするべく体に触れる。

 生まれてこの方、お姫様抱っこをしたことが無い俺は思いっきり山野さんのお尻を触ってしまう。


「間宮君のすけべ……」

 か細い声。

 もう正直に言うと、めちゃくちゃに可愛いくてやばい。


「すみません」

 お尻から手をずらす。

 そして、グイッと自分の力だけで山野さんをお姫様抱っこした。


「重くない?」


「重くないです」

 結局、お姫様抱っこ以外にも、俺と山野さんは文字通りカップ専用なポーズを取らされる。

 それから撮った写真を二人で落書きしてた後、機械から印刷されたプリクラが排出されるのを大人しく待つ。


「絶対に他人には見せられないのが出来上がりそうだよね」

 山野さんの言う通り、本当に他人に見せるのが恥ずかしいくらいの写真が出来上がったのだ。

 そんな時であるポケットに入れていた携帯の着信音が鳴り響く。

 電話をかけて来たのはみっちゃんだ。一応、掛かって来た電話と言う事もあり、山野さんにすみませんと目配せしながら電話に出る。


「何の用だ?」


『哲君。文化祭の売上をしっかり出すのを手伝って欲しいんだけど、家にいる?』


「今、忙しいんだが?」


『そっか。じゃあいいや!』

 自由奔放過ぎないか?

 ブツッと着られた電話の後、俺はおかしい事に気が付く。


「あの……みっちゃんを見てプリクラがあるエリアに逃げ込んだんですよね?」


「あ~うん。間宮君とプリクラ撮りたかったからね。嘘ついちゃった。でも、このプリクラが過激なポーズを取らせてくるやつだって事は知らなかったからね?」

 プリクラを一緒に撮りたくて嘘を吐くなんてされてみろ。

 普通に可愛すぎて許せてしまうし、普通にプリクラを一緒に撮ろ? と言われるよりもドキドキだ。


「あの、つかぬ事をお聞きしますけど……。こういう風に何かがしたい時、俺に嘘を吐くのって……今日が初めてですよね?」


「私って、間宮君が思ってるよりも悪い子なんだよ?」


「……ほんと悪い子です」










 気が付けば夕暮れ前。

 俺と山野さんは遊びに遊んで疲れ果てている。

 横を歩いている山野さんは満足げに俺に話しかけて来た。


「ふ~、遊んだ。遊んだ。ねえ、そろそろ遊び尽くしたし、帰ろっか。ねえ、そろそろ昨日、伝えたい事があるって言ってた事を教えて欲しいかな~なんてね?」


「……静かな場所に行きましょうか」

 返事はなく、コクリと頷くだけの山野さん。

 そんな彼女と俺は騒々しい繁華街を後にした。

 俺が思いを告げるために選んだ場所。

 そこは、俺達が住んでいる街にある静かな見晴らしの良い公園だ。


「ん~、いつ来ても静かな穴場だよね~」

 すっきりとした秋晴れの日の夕暮れ時の公園。

 手を大きく伸ばし体をほぐす山野さん。


「そうですね」


「ふぅ~。よしっ。で、伝えたいことって何なの?」

 誰も居ないのは分かっているが、もう一度だけ周囲を見渡した。

 確認を終え、俺は真ん前に立つ山野さんの目だけをしっかり見る。

 昨日の夜に考えた告白の言葉。

 気が付けばそんなの吹っ飛んでいて、ただただ単純な思いが形になっていた。






「好きです。付き合ってください」






 飾りっ気のないシンプルな言葉。

 それを聞いた山野さんは、微笑みながら返事をくれる。






「はい、こちらこそ!」






 ある秋の日の夕暮れ時。

 こうして、俺と山野さんは恋人になった。








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