第69話山野さんとお昼を食べる

 水族館で互いにストラップをプレゼントしあった。

 家に帰ったら、絶対に意味もなく眺め続けるのは確実な程に嬉しい。

 こうして満喫した水族館。

 時間的にはお昼にはほんの少しだけ遅く、二人でこれからお昼ご飯。

 なにも節約はお金だけじゃなく、時間も節約できる。

 二人して、お昼時は絶対に飲食店は混んでいて待たされると思い、わざと時間をお昼時からずらしたわけだ。


「山野さん。正直に聞きます。どこで、食べたいですか?」


「正直だね。ん~、普通に高校生っぽい所で良いよ。おしゃれなレストランはそのうち行けば良いんだしさ」

 ナチュラルに今ではなく、未来の出来事について話す山野さん。

 その未来がなんというか……ただならぬ関係性を前提としたモノだ。

 それがなんと言うか嬉しい。

 でも、それ以上に思いをはっきりと伝えきれていないこの状況で言われるのはもどかしい。

 今すぐにでも、気持ちを伝えたくなる中、適当なファミレスを見つけたので山野さんに話しかける。


「じゃあ、あそこで」


「そうそう。無理しておしゃれなとこに行っても失敗するだけ。今日はあそこで食べよっか」

 

「おしゃれなお店にはそのうち行けば良いんですし」


「うん。そのうちね?」

 なんの洒落っ気の無い普通のファミレス。

 午後のピークタイムを過ぎているとはいえ、日曜日の威力は凄まじく少しだけ席が空くのを待った。

 で、席が空いたので案内されて座る俺と山野さん。


「よいしょっと」


「それにしても、外食って山野さんとはあんまりしないので新鮮な気分です」


「まあ、お部屋で一緒にご飯を食べまくってるからしょうがないよ。で、間宮君は何を食べるの?」

 メニューを机の上に広げる山野さん。

 広げて貰ったメニューを二人で見ながら、食べる物を決めて行く。

 結果、たらこのパスタ(サラダ付き)とミートソースのパスタ(サラダ付き)、フライドポテト。

 あとはドリンクバーを頼んだ。

 

「飲み物を取りに行くけど、間宮君は何が良い?」


「あ~、自分で何があるのか確かめたいので、山野さんの後で行きます」


「りょーかいっと。じゃ、行ってくる」

 席を立ち、ドリンクバーへと飲み物を取りに行く山野さん。

 手持ち無沙汰になってしまった俺は周囲を見渡す。

 飲食店に入ると、もしかしたら知っている人が……いるかも知れない。そう思ってしまうのは俺だけじゃないはずだ。

 結果、こういう山野さんとの楽しいひと時を邪魔して来る奴の顔はなかった。


「お待たせ。普段は飲まない奴を取ってきちゃった」


「確かに山野さんはあまりそう言うのは買わなさそうです。じゃ、行ってきます」

 エナジードリンクが流行り始める前からあった元気になりそうなイメージを持つ、炭酸が入ったジュースだ。

 さて、俺は何を飲もうか……。

 席を立ち、ドリンクバーへ。

 よりどりみどりのジュースたちの中から、俺が選んだジュースはコーラ。

 コップに注いで、席へ戻ると俺がプレゼントしたストラップを眺めていた山野さん。


「間宮君からのプレゼントだと思うとやっぱり嬉しい。ありがとね」


「いえいえ、こちらこそ山野さんからストラップを貰えて嬉しいです。にしても、あの水槽は凄くなかったですか?」


「あのビル群と重なってペンギンが空を飛んでいるかのように見える水槽の事? それなら、なんと言うか、都会なのにペンギンが居て都会じゃない見たいでほんと凄かった」


「あの水槽ってどうやって上まで運んだんでしょうね」


「確かに、どうやったんだろ?」

 ファミレスで頼んだ料理が届くまで、さっきまで居た水族館についての話をしながら待つこと数分。

 店員さんが俺達の前へ料理を運んできてくれた。


「お待たせしました~。こちら、たらこのパスタとミートソースのパスタ。サラダとフライドポテトでございます。以上で、注文はお揃いでしょうか?」


「あ、はい」


「では、お会計の際はこちらをレジまでお持ちください。では、ごゆっくりとおくつろぎくださいませ~」

 机に置かれた料理。


「いただきます」


「じゃ、私もいただきますっと」

 いただきますをしてから、それらを口にし始める俺達。

 モグモグと俺はたらこのパスタを山野さんはミートソースのパスタを食べる。


「やっぱり、外で食べるご飯って美味しいよね。こう、作る手間が無いから楽ちんだもん」


「分かります。自炊をするようになってから、前よりも外で食べるご飯が美味しく感じるようになりました」


「うんうん。やっぱり、自分で作ると時間と手間がかかるからね~。そう考えると、外で何もせずに出て来る料理って本当に美味しいんだよ」

 話しながら食事をする。

 山野さんとはもう数えきれないほどしてきた行為。

 でも、やっぱり、


「外でご飯を食べるよりも、やっぱり山野さんと一緒にご飯を食べる方が美味しく感じます」


「あはは、このこの~。良いこと言っちゃって……。あ、間宮君。たらこのパスタを一口交換しよ?」


「あ、良いですよ」

 一口を交換するために、お皿ごと渡そうとする暇もなく、


「はい、あ~ん!」

 フォークで綺麗に巻いたパスタを俺の口元へ運んで来た。

 まあ、何だかんだでこういう風に食べさせて貰うのは初めてじゃない。

 夏祭りでのリンゴ飴。

 味見して? と言われて、差し出される料理。

 散々してきている事なので、自然と口元に運ばれた料理をパクリと口にする。


「美味しいです」

 なのにだ。

 顔が熱くなっていくのがよく分かる。

 ……だって、だって、昨日、俺は知ってしまった。

 俺の事を山野さんがどう思っているかについてを。

 だからこそ、今までしてきたのはただ単純に味見して貰いたいだとか、食べて貰う際に器ごと渡すのが面倒だとか、そう言う理由じゃ無くて……。

 

 俺に意識して貰いたいといった理由で、してきたのではないかと考えてしまう。


「顔が真っ赤だよ? あ、もしかして気がついてくれたの?」


「な、なんの事ですか?」


「分かってるっぽいし、教えてあげない。で、間宮君。一口あげたんだから、私にも一口くれないとだよ?」


「わかりました」

 恐る恐るフォークでパスタを巻いて、山野さんの口元へ運ぶ。

 それをパクリと口で受け取った山野さんは大胆不敵に笑う。




「間宮君の事をなんとも思って無いで、食べさせてあげたのは一回だけだよ?」

 





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