第60話文化祭初日!

 朝、生徒会と文化祭実行委員で見回ったが、特に目立った問題は無かった。

 俺のクラスが拠点としている教室へと戻り、幸喜らと話している時だ。

 校内放送が流れ始める。

 そして、粛々と続く校内放送を締めくくる言葉が告げられた。


「これより第46回文化祭を開催します」

 校内放送で告げられる文化祭の開会宣言だ。




 

 文化祭の日程は二日間。今日は高校に通う生徒だけが入場出来る日。

 俺のクラスでは駄菓子を販売しているだけで、特にこれと言った特徴なんて無く、店番をする人は最悪2人か3人も居れば何とかなるため、大半の人が他の出し物へと、向かってしまった。

 かく言う俺も、幸喜含めた友達と一緒に他のクラスの出し物へと足を向けて歩き始めている。

 ちなみに俺以外は、部活動での出し物もあるため、そこまで長く一緒に回れるわけではない。

 まあ、俺も明日は生徒会の方で、外部の人を招くこともあり、色々と忙しいんだけどな。


「最初はどこに行くんだ?」

 そんなわずかながらな、友達と一緒に回れる時間。

 俺はどこに行くか問う。


「取り敢えず、あれだな。メイド喫茶に行こう。混む前に、現役JKのメイドさん達に会いに行こう」

 幸喜含め、皆が皆そう言う。

 同年代の女子が特別なメイド姿で、接客してくれるなんて、美味しい思いが出来るのも今だけだしな。

 


 で、メイド喫茶に辿り着くも、残念なことに長蛇の列がすでに出来ていた。


「どうする? 他の場所に行くか?」

 俺が聞くと幸喜含めた男友達から妬ましそうに、こう言われてしまう。


「哲と違って、俺達は女の子と触れ合う機会なんて無いんだよ。っけ、これだからいつも可愛い女の子と一緒に居るような奴は……」


「いやいや、俺だって別に女の子と触れ合ってるわけじゃ……」

 反論しようとした。

 山野さんとかけい先輩とか、三鷹先輩とか。

 結構どころか、かなり可愛い人たちと友達として、お近づきな状態だなと、ぐうの音も出ない。


「はあ~。てか、哲。あんだけ、可愛い人たちと仲良くしてるけどよ。実際問題、誰が本命なんだよ」

 とまあ、メイド喫茶の待ち時間に色々と、根掘り葉掘りと、俺の女性関係を聞かれ続けること30分。


「次の方、どうぞ」

 メイド喫茶へ入り席に着く。

 女の子がメイド服でもてなしてくれるせいか、変にそわそわとしてしまう。

 とはいえ、山野さんのメイド服姿を見たせいか、心なしか余裕がある。

 ちなみに大盛況なので、居られるのは15分という制限時間付きだ。

 メニューを開き早速注文。


「お待たせしました。ご主人様~」

 やや恥ずかしそうにご主人様と言って、頼んだ飲み物を持って来るメイドさん。

 その姿に興奮する男ども。

 もちろん、その中に俺も含まれてしまっているのは言うまでもない。

 山野さんという存在がありながら、興奮してしまい妙な背徳感がするんだが?


「本物のメイド喫茶に行きたくなってきた」


「だな。俺も興味が出てきた」


「今度、みんなで行こうぜ。一人じゃ怖くて入れないが、みんな一緒なら行けるはずだ」

 高校生のお遊びではなく、本物のメイド喫茶に、行こう行こうと話をする。

 割と本格的に行こうと話しあっているが、俺はパスだ。


「金がかかりそうだから、俺は行かないぞ」


「哲。お前は可愛い人たちといつも一緒だもんな。メイド喫茶に行かなくても、常に可愛い人たちと一緒なんだからな。そりゃあ、行こうとなんて思わねえよな?」

 色々とメイド喫茶について話していると、幸喜の知り合いであるメイドさんが通りかかったのか、幸喜が冗談交じりに茶化す。


「メイドさん。メイドさん。あの、萌え萌えキュンってやつをくれないか?」


「は? ぶっ殺すよ?」

 お遊びのメイド喫茶。

 当然、ガチガチに媚びた商品は無い。


「っく、所詮は文化祭のお遊びってとこか。おし、お前ら、本当に行こうぜ?」

 とまあ、それからなんだかんだで、特別感を味わえるメイド喫茶を楽しむ俺達であった。




 そんな楽しい時間もあっという間に過ぎていた。

 で、気が付けば俺は一人ぼっち。

 理由は部活動の方の出し物に行ってしまったからだ。

 俺はまあ……入ってないので致し方ない。


「さてと、一人でうろちょろとするか」

 手持ち無沙汰になったこともあり、変に一人でうろちょろとし始める。

 以前、今まさに流れているこの時間を、潰すためという建前のもと、山野さんへ一緒に回りませんか? と誘った。

 しかし、今は生徒会長として、だらしない文化祭実行委員を見張るべく行動を共に。

 そして、その後は友達と回るという約束がある。


「はあ……回りたかったな」

 なんてくよくよしながら、歩み始めたその時だ。

 ひょこっと俺の前に現れた山野さん。

 妙なぎこちなさを感じさせながら、俺に口を開く。


「ま、間宮君。ちょっと、暇になったから回らない?」

 

「あれ? だらしない文化祭実行委員を見張ってたんじゃ……」


「なんか、けい先輩が変わってくれた」


「どうしてですか?」


「さ、さあ? で、今、大丈夫かな?」

 まあ、理由はなんであれだ。

 思いもよらない山野さんと文化祭を回れる時間。

 答えは当然きまっている。


「ちょうど、友達たちが他のとこに行って一人で、うろちょろとしようと思ってたので有難いです」

 山野さんと回れて、うれしい感じが変に滲め出ないように話す。

 たぶん、抑えなかったら超気持ち悪い顔だ。

 それほどまでの高ぶりを、感じている俺と山野さんは、肩を並べて歩き出す……。















 


 けい先輩Side


 朝、私はやまのんから、哲郎君との関係を疑われるメッセージ爆撃を受けた。

 まあ、気持ちは分かるわ。

 だって、好きな人が自分以外の異性と、ちょっとただならぬ雰囲気を、出しているものなら勘繰ってしまうのは当然だもの。


「でも、さすがに私もそろそろ嫌なのよね……」

 後輩たちの面倒くさいしがらみに囚われつつある。

 そんな私はちょっとしたお節介を焼こうじゃないの。

 もう、本当に面倒なのよね……。

 どうすれば、このしがらみから逃れられるか頭を悩ませ案を練る。


 だが、あまりいい案は思い浮かばず、いつの間にか文化祭は始まり友達と、一緒に楽しみ始めていた時よ。

 だらしない文化祭実行委員をめっちゃ鋭い目で見張っているやまのん。

 そんな彼女とすれ違った後に、友達が部活動の出し物へと向かってしまい、一人ぼっちになってしまった哲郎君。


「いけるわね」

 思い立ったが吉日。

 私は一刻も早く、巻き込まれつつあるしがらみから逃れるべく、友達に断りを入れてやまのんの元へとUターン。


「ん? けい先輩どしたの?」


「腕章を寄越しなさい」


「ん?」


「もうね。あなた達にはうんざりなのよ。それに、私の事を疑っているのでしょう? だから、腕章を寄越しなさい。そして、あっちで友達と別れて暇そうに歩いている哲郎君の元へ行きなさいって言ってるのよ? わかるかしら?」

 

「こわいんだけど……」

 人が真剣に手伝ってあげていると言うのに怖いとは酷いと思わないかしら?

 まあ、いいわ。


「ほら、早く行きなさい」


「う、うん」

 やまのんから強引に生徒会長と書かれた腕章を奪う。

 そして、それを身に付けた。

 まあ、以前生徒会長をしていた私だもの。

 やまのんの代役としては十分でしょうし、教師も文句は言われないわ。


「久しぶりね」

 手放したばかりのイベント時に使っていた生徒会長と書かれている腕章へぼそりと呟く。

 それを身に付け、私の勢いに呑まれて、しどろもどろなやまのんの背中を叩く。


「私はこういう立ち位置。良い? あなたが思っているような事は決してないから安心なさい?」


「……ほんとに?」

 まだ疑うのは、さすがに酷くないかしら?

 せっかく、自分の遊ぶ時間を減らしてまで、格好つけたというのに。

 そうね。こんなにも優しくしてあげているのに、疑うやまのんにはこういう言葉がお似合いね。


「そう言う風に言われ続けて、私が本気で好きになっちゃっても知らないわよ?」

 物凄い意地悪そうな感じで言ってやった。


「そ、それだけはダメだからね? うん、ありがとね。けい先輩!」

 そうして、やっとの思いでやまのんを向かわせることに成功し安堵する。


「はあ……。これだけ手伝ってあげているといのに、あの二人のしがらみは解決しそうにないのよね……。まったく、困った後輩達ね」

 迷惑をかける子ほどかわいいと言う。

 まったくもって、その通りで、あの二人は本当に放っておけなくて、可愛いのよね。

 そんなことを考えながら、私は久々にやまのん代理の生徒会長として、だらしない文化祭実行委員を見張りについた。




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