第61話お化け屋敷をもう一度

「山野さん。どこに行きたいですか?」


「うーん。間宮君は?」

 山野さんと一緒に文化祭は回れないと思っていた。

 が、しかし幸運なことに回れる事となった。

 どこへ行こうかと話ながら、山野さんと文化祭で騒がしい校内を練り歩く。


「それなら、お化け屋敷に行きませんか? あの、入り口の人がどう考えても、出口に回れるはずがないのに、出口付近にいたあのお化け屋敷です」


「うん、あの謎を是非とも解明したいかも」


「決まりですね」

 こうして、俺と山野さんはお化け屋敷へと向かった。

 今日は生徒だけで文化祭が開催されており、一般の人はいない。

 それゆえ、お化け屋敷の列もそこまで長くはなく、すぐに俺達の順番が回って来た。


「あ、どうもどうも。この前、安全基準を確かめてくれたお二人さんじゃないですか~。超パワーアップしたので期待しちゃってくださいね?」

 どこがパワーアップしたのか気にしながら、お化け屋敷へと入場した。

 明るさは規定があるため、前と変わらず。

 だが、内装は更に凝ったものになっている。

 さらには、クーラーをわざと利かせて、室内の温度が低く背筋が凍りそう。

 確かにこれはパワーアップしてるな。

 とか、考察しながら歩いていると、顔を伏せたお化け役の生徒。


「いらっしゃ~い。ねえ、私って綺麗?」


「はい、綺麗ですよ」


「うん、綺麗、綺麗」

 二人してお化け役の子を適当にいなす。

 横を過ぎ去ろうとした時だ。


「……うわっっっ!!!!」

 大きな声で驚かされた。

 経験済み。とはいえ、ビクンと背中が震える。


「あはは……。分かってても驚いちゃったよ」


「本当です。で、こ、この前はあの子が出口付近にもなぜか居ました」


「そ、そうだね。絶対に今脅かしてきた場所から移動するのは無理。というか、後続の人たちを脅かせられなくなっちゃうし」


「じゃ、じゃあなんで出口付近でも現れたのか……」

 そんな時だった。

 生ぬるい風が頬に当たった。


「うおっ!」


「ど、どうしたの間宮君?」


「頬に生ぬるい風が……」


「え、この前はそんなの無かったのに?」

 パワーアップしているお化け屋敷。

 生ぬるい風が気味悪さを加速させていく。

 これは気を引き締めないと、山野さんの前で失態をしてしまう。


「ひゃっ!」


「ど、どうしたんですか? 山野さん」


「首筋に霧吹きで水を吹きかけられちゃったよ……」

 基本的に衣類を濡らす、汚すはNGなはず。

 だからこそ、物理的な影響は少ないと思っていた。

 しかし、逆を言い返せば、濡らさない、汚さないであればOK。

 部屋の温度、生ぬるい風。

 そして、霧吹きは濡れるには濡れるが、すぐに乾くのでOKが出たに違いない。


「ヤバいですね。これ」


「うん……」


 バンッッッ!!!!

 ロッカーの中からいきなり大きな音が鳴る。


「きゃっ」

 山野さんの体が跳ねる。

 同じく、俺の体も跳ねていた。


「……間宮君。置いてかないでよ?」

 明るさは十分。

 でも、それでも置いて行かれれば怖い状況。

 俺こそ、山野さんに置いて行かれたら心細いに決まっている。

 待て、これはチャンスじゃないか?


「置いて行ったら、それはそれで面白い?」


「ちょ、間宮君の意地悪」


「置いて行かれたくなければ、それ相応の態度があるんじゃないですか?」

 余裕を見せつける。

 正直に言うと、怖いんで手でも握りますか? とか言いたかった。

 でも、そんな臭いセリフ言えるわけがない。

 それゆえ、回りくどく山野さんから手を握って貰おうと画策しているわけだ。


 ガンッッ!!!!!

 手を握らせられそうな時だった。思いがけない大きな音が鳴り響く。

 山野さんに手を握って欲しいという事に、気を取られていた俺は、盛大に肩をビクンと上下にし驚いてしまう。

 声こそは、でなかったが、ビビりと言うのが相応しい俺の様子。

 一方、山野さんは今回はそこまで驚いていなかった。


「余裕ぶってる間宮君? その驚き様はなにかな~なんてね?」


「……た、たまたまですって」


「ほれ、ほれ。怖いなら、私の手を握らせてあげても良いんだよ?」

 っく、逆転された。

 俺から握らせてやろうと思っていたのにな。

 が、あれだ。

 山野さんは冗談で言っており、本気で手を握って来るとは思ってい無さそうだ。


「ま、まあ。そこまで言われたら仕方ありません」

 ギュッと握ってやった。

 しかも強く。それでいて、指を絡めてやった。


「あ、え? え?」

 本人も握られるとは思っていなかったのだろう。

 呆けたように口をちょこんと半開きにしているのが堪らなく可愛い。


「まさか、本当に握られるとは思ってませんでしたか?」


「そりゃそうだよ。しかもさ~、指まで絡めて来るとか卑怯者!」

 からかったという体裁。

 このまま手を繋いでいるのはおかしいので、離そうとした。

 

「あの、山野さん?」


「え? なあに?」


「あの~、そろそろ離して貰っても良いですか?」


「間宮君が握って来たんじゃん。正直に言うと、これからも怖そうだし、握らせて欲しいかな~なんてね?」

 儚げに微笑む山野さんはそう言って俺の手をぎゅっと握る。

 手汗がだらだらと流れて来るのが分かる。 

 そんな手を握りたい人は少数派なので、山野さんに聞いてしまう。


「俺の手、汗だくで気持ち悪くないですか?」


「ううん。平気、平気。私の方こそ、なんか普段人と手なんて握らないから、変に緊張して超汗出ちゃってるし」


「確かに人と手なんて滅多に握らないか……」

 自然? と手を繋いだ俺と山野さんはお化け屋敷を突き進む。

 音や仕掛けを掻い潜り、出口につきそう。


「いよいよだね」


「はい」

 入り口で驚かしてきたお化け役の子が何故か出口でも脅かしに来る。

 どうやっても、移動が間に合うはずがない。

 前回はこっぴどく驚いたこの仕掛け。

 今度こそ、謎を解き明かして見せようではないか。

 意気揚々と最後の仕掛けへと向かおうとした時だ。


 後ろから誰かが俺の背中をつつく。

 山野さんじゃない。

 きっと、振り向けば驚かされる。

 でも、振り向かないのはそれはそれで詰まらない。

 山野さんも背中をつつかれたのだろう。

 視線をこちらに向けて、一緒に振り向こうと目で伝えて来た。

 それに頷き、俺と山野さんは後ろを振り向く、するとそこには……。

 入り口で驚かしてきたお化け役の子と同じ顔。


「ねえ? 私って綺麗?」


「そこそこだな」


「ふふふ。酷い人……。ねえ、あっち見て?」

 指さした先にはどうせ何か仕掛けがある。

 分かっていた。

 分かっていたと言うのにだ。

 俺達は言葉を失う程に驚いてしまう。


「「「ねえ? 私達、綺麗?」」」


 なにせ、まったく同じ顔がさらに3つあったのだから。


 その場でへたり込む山野さん。

 そして、青ざめてわなわなと震えながら俺に言う。


「あれ、あれ? 立てないんだけど……」

 立とうにも立てない。

 お化け役の子たちがそれを見かねて俺に小声でささやく。


「おんぶか。お姫様だっこでもしてあげるチャンスですよ!」

 確かに。

 いや、まったくもってそうだ。

 腰を抜かした山野さんが立ちあがる前に動く俺。


「やまのさん。おんぶしますね。さすがにこのままだと、後続の子たちがやってきちゃうので」

 お化け屋敷。

 最後の最後の仕掛けで、立ち往生する俺達。 

 後ろからやって来る人たちは見ても嬉しくない。


「う、うん……」

 腰を抜かした山野さんがギュッと背中に抱き着いて来た。

 明らかに柔らかい感触を背中に感じながら、俺はお化け屋敷の外へ出て行く。

 暗がりから、明るいところへ出る。


「あははは! さすがスペシャルコース。彼女さんは腰を抜かしちゃったみたいっすね!」

 出口で待機しているお化け屋敷のスタッフに茶化された。

 そりゃ、この姿を見れれば、お化け屋敷をやっている側は大満足だ。


「同じ顔が4つ。あの人たちって、もしかして姉妹ですか?」

 いくつも並んだ同じ顔。

 その謎について聞いてみた。

 たぶん、俺が考えた通りに姉妹であっているはずだ。


「お、正解! そうそう。あの子たちは姉妹。ま、クラスは別なんだけど、お化け屋敷のクオリティのため。他のクラスから借りて来てんだぜ?」


「にしても、4人もいるとは……」


「ん? あいつら、3姉妹だぜ?」


「4人いましたよ?」


「おいおい。冗談はよせやい。俺はこれからも、最後の仕掛けに驚いた人に感想を聞いたり、種明かしをしたり、しなくちゃだから、帰った、帰った! てか、彼女さん。足を擦りむいてるんで、ちゃんと保健室に連れていくんすよ!!!」

 半ば強引に追い出された俺達。

 地面にへたり込んだ時、盛大に足を擦りむいた山野さんを保健室に連れて行くべく歩き出す。

 でも、やたらと山野さんは大人しい。


「どうしたんですか? 大人しくしちゃって」


「ま、まみやくん。本当にあの子たちは3つ子なんだよ。だって、顔は見たこと無かったけど、3つ子の存在自体は割と有名なんだよ。しかもさ、出口前で4人いたじゃん?」


「いましたね」


「入口の子も、たすと5人いるんだよ……。五つ子ともなれば、学校では絶対に耳にするはず。でも、耳にして無い……。という事は……」


「え? いやいや、そんなわけが……な、ないですよね?」




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