第52話おっちょこちょいな彼女はとてもマニアックな格好を見せつける

「ん、誰だ?」

 山野さんがお部屋に遊びに来ている中、自分の部屋に居ながらもかすかに聞こえるインターホンの音。


「ちょっと、見てきますね」


「うん、いってらっしゃい」

 リビングに行き、モニターを確認するとインターホンの画面を見るとみっちゃんが立っていた。


『どうしたんだ。みっちゃん』

 インターホンの通話ボタンを押しながら話す。


「哲君にお裾分け。お姉ちゃんが作ったお菓子だよ」

 インターホンのカメラに向かってタッパーを見せつけて来た。

 中には美味しそうな何かしらの具が入っているパイらしきもの。


「で、どうして持ってきたんだ?」

 インターホン越しに話し続けるのもあれなので、ちゃんと玄関を開けて直接みっちゃんと話す。


「哲君が昨日、お姉ちゃんがお菓子の話をしてて、お菓子は未だに手作りしたことが無い。本当に美味しいんですかね? とか言ってたんでしょ? で、そんな哲君のためにお姉ちゃんがわざわざ作ってあげたんだってさ」

 言われてみればそんな話をアイロン掛けをしている際に話した記憶がある。

 わざわざ、手作りのお菓子を食べた事が無いからと言って作ってくれるなんて思いもしていなかった。


「と言うか、なぜにみっちゃんが届けに来たんだ?」


「お姉ちゃんが直接渡すのが恥ずかしいからって。というか、そのローファーは誰のかな?」

 ローファー、いわゆる学生靴を見てみっちゃんが言う。

 うちの高校は一応、革靴が規定となっているが、あくまで規定であり運動靴やスニーカーで通学してもお咎めなしだ。

 そのため、俺は普段からスニーカーで通学しているのをみっちゃんは知っているし、何よりも明らかに俺の靴のサイズでは無いのが見破られている。


「山野さんだ」


「へー、哲君を振ったのにまだ接点はあるんだ。お友達では居ようね。って言って何の悪びれもなく付き纏われてるんだ」


「あのなあ。だから、振られてすらいないって言ってるだろ? いい加減、人の話を聞けって」


「大丈夫。哲君は嫌なことがあれば目を背けようとするときには大抵、物事を認めようとしないのは良く知ってるから」

 ……まあ、実はそうなんだよな。

 小さいときから、目を背けようって時には認めようとしないのは俺の悪い癖。

 さすが幼馴染であったみっちゃん。俺の事を良く知っていると言いたいが、今回は普通に目を背けようとして無いんだがな。


「はあ……。と言うか、用が無いなら帰れよ。な?」


「あ、私の事を面倒だって思ってるでしょ。まあ、私もそう思うけど、ここは譲れないんだよ。哲君は脈なしな山野先輩の事を諦めきれない。で、お姉ちゃんはそんな哲君に好意を寄せている。こんなミスマッチを見逃せるわけないじゃん!」

 元気だな~。

 本当に元気だ。


「む、軽く聞き流しているようだけどさ。よーく考えてみなよ。普通、アイロン掛けを教えるために後輩の男の子の部屋に上がる? その時にちょっと、手作りのお菓子を食べた事がないと話したからと言って、作ってあげる?」


「けい先輩はそう言う人だろ」


「うわー、ここまで露骨なのに見向きもしないなんて哲君は男として最低だね」

 実際問題、けい先輩は本当に俺に好意など持ち得ていないだろう。

 俺が山野さんに好意を寄せているのも知っていてさりげなくエールを送ってくれているような人だからな。


「いい加減にそろそろ帰ったらどうだ?」

 ちょうど、そんな時であった。

 お隣の玄関からけい先輩が出て来て、みっちゃんの頭を小突く。


「まったく、私が渡してきてあげるから! と言って勝手に飛び出したのは良いけれども、やっぱり変なことをしてたのね」

 

「そりゃあ、作ったは良いけど、直接渡すのは恥ずかしいって感じでお姉ちゃんの奥ゆかしさを哲君にアピールするために……」


「だから、何度も言っているでしょう? 哲郎君の事はこれぽっちも良いと思ってないと。ったく、いい加減にしなさい。じゃ無いと、お母さんにお小遣いを下げれば勉強に身を入れるかも知れないと言うわよ?」


「そ、それだけは勘弁して。っち、二人がくっ付くまで私は諦めないからね!」 

 負け惜しみしてこの場を去って行くみっちゃんであった。

 そして、去った後、けい先輩が申し訳なさそうに俺に言う。


「変な妹で申し訳ないわね」


「いえ、そう言えばあいつは昔からああいう奴だったなと。最近は思い出したので別に気にしてません」


「馬鹿なのよね……あの子。多分だけれど、あなたの事を物凄く嫌がらせじみた感じで構うとか色々としてたでしょ?」


「まあ、してましたね。悪意がある助言とかを。まあ、生徒会選挙で俺が役員に選ばれるだなんて不服な事が起きればみっちゃんに恨まれるのは仕方がないとしか言いようが無いんですけどね。でも、あいつ変に善人な所があって、嫌がらせのせいで山野さんとの関係が終わったと思い込んでる。で、そんな俺を不憫に思って罪滅ぼしとしてけい先輩をあてがおうとしてるんですよね……」


「ほんとに馬鹿ね」

 妹の馬鹿さ加減にあきれ果ててるけい先輩は呆れるのも程々に、俺の目をジーッと見つめてから言い放つ。


「もう、あれよ。みっちゃんがうざいのは仕方が無いわ。これは、私とあなたがくっ付くか、それとも、あなたとやまのんがくっ付くかするまで終わらない。だから、あんまり他人の恋路に首を突っ込むのもどうかと思うからこそ、あまり介入こそしてこなかったわ」

 少しばかり長い前置き。

 これから繰り広げられる言葉は何となく察しが付く。


「私があなたの恋路を叶えてあげる手伝いをするわ!」

 胸に手を添えてはっきりと告げられた言葉。

 薄々だが、けい先輩は陰ながら俺の恋路を応援してくれている人だと感づいていたが、こうもはっきりと言われるとこそばゆいな。


「ありがとうございます」


「ええ、本当は他人の恋路に首なんて突っ込みたく無いわ。だって、後々面倒だもの。それに、恋したことが無い私がどうこうとするのはおかしい話でしょ? でもね、もうみっちゃんがうざいの。だからね、さっさとくっ付いて頂戴」

 うざいみっちゃんから逃れるため、表立って俺の恋路を手伝ってくれると宣言したけい先輩。

 手ごわい味方を手に入れた俺はと言うと、いい加減に山野さんを放置するのはどうかと思い話を切り上げようとする。


「実は今、山野さんが来てまして……。そろそろ、戻らないと」


「応援すると言ったのだから良い事を教えてあげる。普通、男の部屋に女の子が遊びに来るなんてそうそうないわ。それは、幾らお隣さん同士であって互いの部屋を行き来していたとはいえ、わざわざ遊びに来てくれるという事はそう言う事よ」


「……まあ、そうかも知れませんけど」


「じゃあ、今日の目標はさりげないボディタッチで行きましょう。哲郎君。あなたは振られるのが怖いから告白しない。だったら、振られないと知ってしまえば告白できると私は思うの。だからね、今日はボディータッチをして、嫌がられない反応を得ることで自信と変えなさい」

 頼もしいけい先輩。

 確かに振られるのが怖いから告白できないのなら、振られないと知ってしまえば俺は告白できるはず。

 ボディータッチをして、相手に嫌がられなければそれは好意を抱かれているという自信につながるに違いないのだが、


「どこに触れば良いんですか?」


「好きな相手でなければ触らせない様な場所ね。手や肩、と言った普通の場所じゃ意味が無いわ。それこそ、そう言う場所に何げなく振れ続ければ、『あ、友達として仲が良い』から別にこういう場所に触れても平気なんだにしかならないもの。本当に恋人、好意を抱く相手にしか触らせたくない場所を狙いなさい」

 それはハードルが高い。

 そんなことをして嫌われでもしたら、と不安な顔を浮かべた俺にけい先輩は言う。


「もう、みっちゃんが本当にうざいの! いい加減、私を楽にして頂戴! 良い、手や肩、腕、そう言ったありきたりな場所じゃ無くて、もうがっつりと胸とかお尻とかを触っちゃいなさい!」

 勘違いしてうざったらしい行動ばかりするみっちゃんに怒りを燃やすけい先輩の熱気が伝わって来る。

 そんな彼女に歯向かうことなど出来ずに俺は返事をした。


「は、はい」


「じゃあ、失礼するわ。好意を抱いている相手にしか触れさせないような場所に触れて、自分がしっかりと好意を抱かれていると気が付きなさいよ?」

 念を押してくるけい先輩はお隣へと帰って行くのであった。



 そして、俺は玄関から自分の部屋へと戻る。

 自分の部屋を見渡すと、山野さんの姿は無く、代わりにベッドの上で膨らんでいる毛布が目につく。


「山野さん?」


『は、早く毛布を剥がして欲しいかな……。ちょっと、来客で私から目を離した間宮君を驚かそうと隠れて見たは良いんだよ。でもね、かれこれ15分以上も毛布にくるまってるとさ……苦しい』

 息が途切れ掛けているのが分かる声。

 俺を驚かそうと隠れたは良いものの、中々戻って来ずに苦しんでいたのだろう。


「途中、途中で毛布から顔だけでも出せばよかったんじゃ無いですか? それに、最後の最後で俺に話しかけている時点で失敗なんじゃ……」


『……だね。でも、こうなったら私は間宮君が毛布を引っぺがすまで耐える……』

 脅かすために苦しさをいとわない山野さんの可愛さに打ちひしがれながらも、これは千載一遇のチャンスなことに気が付く。

 毛布の上からだが、胸やお尻を触ることが出来るのでは? と思うも、どこら辺にお尻や胸があるのか分からない。

 とはいえだ。やみくもに揉みしだいてみるのもきっとありだ。


 もみもみ。

 布団の膨らんでいる部分を揉みしだく。


「んっつ!?」

 くぐもった声が布団から聞こえる。

 お、俺は一体、山野さんのどこを触ったんだ?

 きわどい場所を触ったのかもしれないが、布団越しなせいでまったくもって感触がはっきりとしない。

 感触をはっきりとさせるためにはもっと強く揉むしかないわけで、俺は強く揉みしだく。


 すると、布団の中からちょっぴり顔を出す山野さん。


「あのさ、布団越しに揉みしだいて驚かそうとしたのは分かるんだよ? でもね、敢えて言うね」


「間宮君のすけべ……」 

 恥ずかしそうに、それでいてわざとらしく山野さんは言うが、顔を出した位置から推測される俺が揉みしだいた場所。

 そう、それは……肩だ。


「肩ですよね?」


「バレた? いきなり、揉みしだいてくるから驚いちゃった。ま、お尻や胸を触れ無くて残念だったね。さてと、お布団から出よっと」

 布団からよいしょと出てきた山野さん。

 そんな彼女の姿は凄まじいとしか言いようがない。

 上は制服、下は水色のパンツ。そして靴下というちょっとどころかかなり男心をくすぐって来る凄まじい格好だ。

 それでいて、毛布にくるまっていたせいかちょっとした艶めかしさも漂っているのがこれまたエロい。


「その、えーと。下が脱げてますよ」


「ん? って、きゃあああ!?」

 叫ぶや否や毛布に再び潜り込んで行く山野さんであった。



 


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