第50話居心地の良さ
放課後。
山野さんが俺の部屋へとリーフレタスの様子を見るがてら遊びに来る。
お隣同士であった事に比べれば、程度が低い行為。
……と思うあたり、すでに割と感覚麻痺をしているのではないだろうか? と思いながら山野さんを新しい俺の部屋へと招き入れた。
「間宮君自体が寝たりするお部屋は前とそう変わらないね」
「はい。ただ、リビングやトイレ、風呂、とその他の部分が大きく変わっただけで、俺の部屋としてくつろぐスペースは前とそう変わりないです。家具の配置も前とほとんど変えてないですし」
「ほんとだ。本当に部屋ごと引っ越したって感じだね」
きょろきょろと俺の部屋を見渡す山野さん。
そんな彼女はひょいとベッド下を覗き見た。
「相変わらず、エッチなのは無いんだね」
ベッドの下にお宝など存在せずな事を十分に理解しているだろうが、残念な素振りで言われてしまう。
「今時の男子はそんなもんですよ」
「だろうね。と言うか、間宮君。ちょっと、気になった点が一つあるんだけど良いかな?」
「何ですか?」
やけにきょろきょろとして、何かを探している山野さん。
本当に前とそう変わりないはずだが、どうしたのだろうか?
「私のクッションはどこかな?」
「ああ、なるほど」
一瞬にして理解した。
そう、今のこの部屋には山野さんがよくお尻に敷いたりしていたクッションが存在していないのだ。
「まさか捨てちゃったの?」
「リビングにありますから安心してください」
「なら良し。間宮君の部屋と言えば、あのクッションだからね」
と言った感じでご愛用のクッションを所望しているのでリビングへ取りに行き、クッションを山野さんへと渡した。
「これだよ。これ……。って、なんか慣れ親しんだ匂いじゃ……。まさか、このクッションを違う人に私以外に使わせた?」
「誰にも……」
「ん? なんか言い淀んでるけど、どうしたの?」
言い淀むのにも理由あり。
クッションを違う人に使わせてしまっているのだ。
その相手とは……
「けい先輩ですね。ほら、アイロンのかけ方を教えて貰った際に」
「間宮君がそう言うならそうなんだろうね。でもさー、女の子を簡単にお部屋にいれ過ぎじゃない? こう、今のお年頃ならお部屋に女の子を招くのにドギマギとするのが普通でしょ」
「山野さんこそ年頃の男の部屋に普通に上がり込んでくる時点であれな気が……」
やや、むすっとしている気がする山野さんに言い返すと、そりゃそうだと軽く笑みを浮かべてこういう。
「おかしいかもね。でもさ、間宮君だから。あ、ちなみに、こんな感じだけど、私はきちんと間宮君の新しいお部屋という事で緊張してるからね」
しかし、行動は緊張を伴っていない。
クッションを尻に敷き、机の上へ脱力した腕をぐでーんと伸ばしている。
「それが緊張している人とは思えないんですけど」
「あはは、バレた? うん、別に緊張してないよ。なんか間宮君の部屋だ~と思うとね。ところで間宮君。なんか、雲行きが怪しいけど洗濯物は大丈夫?」
窓をチラリと見やる。
確かに、やや黒い雲が空を覆いつくして雨が降りそうだ。
「今日は洗濯物を干してないので平気ですよ。山野さんこそ大丈夫なんですか?」
「うん、全然平気。だって、学校に行く前に洗濯機を回せないのは知ってるでしょ?」
「ですね」
朝早くに洗濯機を回すのはタブー。
高校に行く前に洗濯機を回し、終わらせるのは意外と無理なのだ。
「ところで、お姉さんとはどんな感じ? 困った事は?」
「結構前と言えど、姉さんとは一緒に住んで居ましたから別に特には……。あ、一つ困った事があると言えば、あるんですよね」
「何かな?」
「姉さんの下着を俺が洗濯しても良いのかと」
切実な問題である。
家事をするのは俺の役目。姉さんに多大なる支援を受けているのだから当たり前なのだが、姉さんの下着を普通に俺が洗濯をしてしまって良いのだろうか? という訳だ。
なにせ、姉弟と言えどプライバシーはあるのだから。
「なるほどね。確かに、それは悩むかも。間宮君が洗濯するのに、わざわざお姉さんに下着だけを洗濯させるのは無駄だもんね」
「そうなんですよ。だからと言って、姉さんに『下着は俺が洗っても?』とか言ったら、気を使って『じゃあ、私が洗濯をしますね』と言われちゃうかもですし」
「確かに、弟が気を利かせて下着はどうすれば? と悩んだふうに聞いてきたら、『じゃあ、私がやる』ってなるかも。だから、どうすれば良いか聞けないと」
全くを持ってその通りである。
世の中に聞かない方が都合の良い時だってあるのだ。
「で、どうすれば良いと思います? このまま、何事もなかったかのように普通に洗濯しちゃって良いと思いますか?」
「それが良いかもね。もし、お姉さんが間宮君に見られるのが嫌だって言うのなら自分から言い出すだろうし。変に間宮君が下着の件を切り出せば、本当に間宮君の事を思って『じゃあ、私が』ってなる。間宮君的には支援して貰ってる手前、お姉さんの代わりにしっかりと家事をこなしたいんでしょ?」
「はい。分かりました。じゃあ、何か言われるまではしれっと何食わぬ顔で洗濯をこなしてみます。……で、何か言われたらそれに合わせる形で」
相談しようが、しなかろうが、結論はさほど変わらなかっただろう。
でも、相談することで安心感は得られたのでそれだけで価値がある。
「ところで、お姉さんの下着を普通に触るのに抵抗感は?」
「これまた、言いにくいところに突っ込んできましたね。まあ、あれです。普通に抵抗感はあると言えばあります。でも、姉弟ですし。別に山野さんのじゃあるまいし」
普通にセクハラみたいな内容を口に出してしまい後悔する。
そんな後悔の気持ちが伝わったのか、山野さんがフォローを入れてくれた。
「大丈夫だよ。今のは仕方がないから。むしろ、間宮君が私の事をきちんと意識してる事を知れたしオッケーかな? ほら、さすがに私の下着を抵抗感なく触れるとか、普通に女の子扱いされ無さすぎて腹立つし」
「で、まあ。あんまり気にしていないようなら話の続きを、山野さんのは普通に抵抗感はよっぽどの事が無い限り消えないと思うんです。でも、姉さんのは普通に姉弟なので何回かすれば別に抵抗感はなくなるんじゃないかなと」
「かもね」
話は一区切り。
そして、凄く聞きたい事が一つ。
『山野さんは俺のパンツに抵抗感はあるのか無いのか』についてだ。
洗濯機を満杯にするのには時間が掛かる。
しかし、着たい服を着たい時に着れないかもしれないことから、ある程度、洗濯機が満杯にならずとも洗濯はしていた。
もちろん水代はそれ相応にかかる。ゆえにその水代を節約すべく、山野さんと俺は洗濯物をまとめて一緒に洗っていたのだ。先ほどの話の通り、俺は山野さんの下着に普通に抵抗感はあるし、山野さんも俺に見られるのは恥ずかしいわけで、洗濯は山野さんに任せていた。
当然、洗濯物の中には俺のパンツもあるわけで、そのパンツに抵抗感はあったのかという話だ。
「ちなみに私は間宮君のパンツに抵抗感はあると言えばあるけど、嫌悪するとかそう言うのじゃ無いから安心してね。嫌なら、そもそも洗濯を一緒にしようなんて言わないし」
嫌悪するような抵抗感があれば普通に一緒に洗濯ものをまとめて洗おうだなんて発想になるわけが無いか。
とはいえ、抵抗感はあったらしいのでついつい聞いてしまう。
「どんな感じの抵抗感だったんですか?」
「……そこを聞く? まあ、あれだね。家族以外の男の子のパンツだと思うと、嫌じゃないけど、ちょっと緊張というか……って、間宮君! 乙女に何を言わせようとしてるのかな? 恥ずかしいじゃん!」
「あ、すみません」
「わかれば良し。という訳で、恥ずかしめられそうになったし、せっかくの新居でまだ何の匂いを染みついてない部屋に私の居た後を残してやる!」
立ち上がって、ベッドにダイブ。
で、体をベッドに預けた山野さんは俺に顔を向けて告げてくる。
「うん、あれだね。間宮君のお部屋はやっぱり居心地が良いね」
そんな彼女に続き俺も言う。
「俺もです。普通は他の人が部屋に居たら落ち着かないのに、なんでこうも山野さんが部屋に居ると一人で居る時よりも心地が良いんでしょうかね」
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