第47話お隣さんとの節約生活は崩れ去る!?

 気が付けば、夕暮れ前。

 体育祭も無事に幕を下ろした。

 生徒会役員たちもなんだかんだで、体育祭実行委員の中に混ざり後片付けを手伝っている。

 その後片付けをしている最中に生徒会役員である三鷹先輩がこんだけ生徒会も体育祭に関わったのだから、何かしら打ち上げ的な事をしたいよねと言い始めた。

 しかし、残念なことにこれからの季節、文化祭もある。その際に打ち上げがある人が多く、金銭的にも色々と厳しい現状が付き纏うせいか雲行きは怪しい。


「んー、みんなは無理そうだけど、女子だけでもやろうよ。ほら、やまのんのお部屋でって言うのはどうかな? 軽くお菓子やジュースを買うくらいならお金的に全然問題ないじゃん?」


「静かにしてくれるなら別に良いけど。うるさくしたら、追い出すからね?」


「やったね。という訳で、玲菜ちゃん。やまのんの家でちょっとだけ打ち上げみたいなことをするからよろしく!」

 女子3人で女子会。

 場所は山野さんの部屋。

 一人暮らしはこういう風に集まる際の良い場所を提供できるのだ。


「男子でも何かするか? そう言えば、間宮は一人暮らしだったよな」

 八坂が言い出す。

 ……正直に言うと、山野さんとお隣であることを隠す必要はあまり感じないこの頃。普通にバレて、周りから波風を立てられて俺の事を意識してくれた方が好都合だ。


「俺の部屋で打ち上げするか?」


「お、良いのか? と行きたいとこだったんだがな。悪いな、グラウンドが片付いたらサッカー部は練習だった」

 今日くらいは良いだろという感じで悪態を吐く八坂。

 確かに体育祭が終わってすぐに部活動をするとか、余韻もへったくれもない。


「お、おう。大変だな」


「ま、楽しいから良いけどな。と言うか、お前こそ団体別リレーでそれなりに早かったじゃないか。どうだ? サッカー部に来るか?」


「お断りだな。今更だ」


「気が変わったらいつでも言ってくれ。んじゃ、あらかた片付けも終わったし俺はそろそろ部室に行くわ」

 そう言い残して八坂は去って行く。

 しかしながら、放課後にバイトが出来ない状況であり勉強をしたとしても余る時間については些か勿体ない気がしてならない。

 そんなことを考えながら、体育祭の後片付けも終わり晴れて自由のみとなったのであった。



 アパートに帰って来た。

 山野さんとお隣さんだとバレれば煩くされるかも知れないので隠してきた。

 だが、逆にお隣さんだとバレたほうが周りから煩くされ関係性に変化が訪れるのではなかろうかと今はもう隠す気はない。

 だというのにだ。


「なんで、隠そうとしていた時はバレそうになったこともあるのに、隠すのをやめた途端にバレなくなるんだろうな」

 普通に帰り際に山野さんの部屋で打ち上げをする3人と出くわして、『あ、間宮くんとやまのんはお隣だったんだ!』と騒がれたかったが残念なことに普通にバレなかった。


「自分からばらしに行くのは違うんだよなあ……」

 お隣でキャッキャッと騒いでいる3人の所へ自分から訪れるのは露骨だ。

 なので、自然とバレるのを待つ他ない。

 隣の楽しそうな声を聞きながら、色々と思いを馳せる。


「このままだと不味い。みっちゃんに続き、三鷹先輩までけい先輩と俺が出来ていると思っている。本当に流されてけい先輩とくっ付く可能性が出てきたのが本当にヤバい」

 ……けい先輩は俺に惹かれた素振りはあまり見せていないが、それでも何となく危険な香りが漂っている。

 なにせ、けい先輩との距離が徐々に縮まっているのは明白。

 2学期では割と近しい先輩、後輩、関係にまでなったと言えよう。


「それに周りからの後押し」

 自惚れるなと言われるかもしれないが、、割とくっ付いてもおかしくない状況。

 この状況は不味い。

 山野さんが好きじゃ無かったら、割とヤバかったはずだ。


「だからこそ、山野さんをデートに誘いたい! でも……」

 来るべき文化祭、その打ち上げに掛かるお金。

 遊びに誘おうにもそのせいでお金が無いのだ。

 頭を悩ませ色々と考えていた時に、思いもよらない一報が届く。


「……マジか」

 一気に血の気が引いて行く。

 今思えば、あの時に色々と聞かれていたし、なぜ気が付かなかったのか不思議でしかない。


「いや、本当にマジか……」





















 体育祭から大体2週間後。


「さてと、哲郎。準備は良いですか?」

 姉さんが迎えに来てくれた。

 とはいえ、別に迎えに来てくれる必要はないんだがな。


「ん、ああ。大丈夫」

 

「まあ、大体はこの前に済ませましたしね。それでは、行きましょうか」

 

「そうだな……」

 たったの6カ月。

 それでも愛着は生まれた部屋に別れを告げた。




 ……そして、姉さんと一緒に新しい部屋へと向かう。

 徒歩、10分くらい。

 別にそこまで今まで住んで居た部屋と距離は離れていない。

 しかし、部屋の広さは段違い。3LDKのマンション。

 姉さんの部屋と俺の部屋と、空き部屋。

 そして、リビング。


「広い」


「はい。広いですよ。これでも、前よりお家賃はトータルで見ればお安いですけどね」

 俺は姉さんと一緒に住むことになった。

 ちょくちょく、姉さんが俺の部屋へ様子を見に来ていた。

 それはたまたま近くで仕事や用事があったからと言っていて、全貌がいまいち見えなかった。

 答えは簡単で俺と住めるような物件探しをしていたからだ。

 はっきりと言わなかったのかは一緒に住む部屋が見つかるとは限らず、そもそも一緒に住めたら良いなという願望も含まれていた。

 変に不安を煽っても仕方がないとの事で決まるまで黙っていたらしい。


「ふぅ。無事に引っ越しも終わりましたね」


「姉さんは本当に俺と住んで大丈夫なのか?」


「はい。本社に営業部があったのですが、この度、都心の方に営業部や一部の部署のオフィスが移転しました。今までは哲郎とは別々に住まなければ、という状況でしたが、もはや別々に住む必要はありません。なにせ、新しいオフィスは前私が住んで居た部屋よりもこの新居から通った方が近いですし」

 という訳だ。

 こんな感じで、姉さんと一緒に住むこととなったのである。

 姉さん曰く、家賃は二人で住むことで2万円くらいは浮いたらしい。

 加えて、光熱費も2人で済むことで安くなるのは間違いなし、さらには部屋も広くて今まで住んで居た部屋よりも壁は分厚い。

 本当に良い事づくめなのだ。


「さてと、一応。お隣さんに挨拶をしておきましょうか。隣人とは仲良くしていたほうが良いです。哲郎も来てください」

 今時ではあまりしなくなったお隣さんへの挨拶。

 それをすべく、姉さんと一緒にお隣さんの部屋のインターホンを鳴らす。

 

「この度、お隣に引っ越してきた。間宮です。弟ともどもよろしくお願いいたします。よろしければ、こちらをどうぞ」

 菓子折りを渡す姉さん。

 それを受け取るは……


「両親は仕事で今は居ませんが、お隣さんの事はしっかりと私の方から伝えてます。わざわざ、このようなものまでご用意ありがとうございました」

 決まり文句のような言葉を述べた後、横に居た俺に気が付き目を丸くする。

 同様に俺も驚きを隠せない。


「……いつも、弟さんには良くして貰っています」

 隣人は驚きを隠せ無さそうにしながらも、会話を紡ぐ。

 

「もしかして、哲郎のお友達ですか?」


「はい。哲郎君とは同じ高校に通う仲です」

 筑波(つくば) 恵子(けいこ)。 

 要するにお隣さんはけい先輩の家。正確には筑波家

 実際の所、同じマンションなのは知っていたが、まさか数ある部屋の中でけい先輩が住まう部屋とお隣になるとは思いもしなかった。


「学校の先輩だ。姉さん」


「なるほど、こちらこそ哲郎がいつもご迷惑をお掛けしてます。これからもなにとぞお願いしますね」


「そして、みっちゃんじゃなくて、俺の幼馴染で仲良くしてた恵美とそのお母様も住んでる」

 みっちゃんと言っても、姉さんには分からない。

 高校から呼び始めたあだ名であり、姉さんは俺が呼んでいた恵美という名しかしらないのだから。


「あの哲郎が小学生の時の同級生である恵美ちゃんがですか? でも、あの子の名字は坂田では?」


「みっちゃんの母親がけい先輩の父親と再婚した」


「なるほど、これはしっかりとご挨拶した方が良いかも知れませんね。お母様はいつ頃お帰りになるんでしょうか?」

 けい先輩にみっちゃんの母が帰って来る時間を聞く姉さん。

 そう、何を隠そう。みっちゃんこと恵美は俺の幼馴染。そして、恵美の母と姉さんは普通に何度も顔を合わせている。

 要するに顔なじみ。そんな相手へ直接挨拶しないのは可笑しな話だ。


「夜の8時には帰って来ると思います」


「そうですか、それではまたあとで来ますね」

 こうして、お隣さんと挨拶を済ませる。

 ……にしても、けい先輩とお隣になるとは思いもして無かったな。





 新しい部屋のベッドの上で寝転がりながら色々と考える。


「けい先輩とくっつけと言うのか?」

 まるで俺とけい先輩にくっ付けと言わんばかりに世界が動いている気がするのは気のせいじゃないはずだ。


「確かにけい先輩も良い人だ。付き合えたら楽しいかもしれない。でも、俺が好きなのは山野さんだ」

 だからこそ、俺は走り出す。


「姉さん。ちょっと、コンビニに行ってくる。何も冷えた飲み物が無いし」


「でしたら、私の分もお願いします。適当にお茶で良いですから」


「分かった」

 理由を付けて家を出る。 

 コンビニに向かうのは本当だが、その前に俺は以前住んで居たアパートのお隣を訪ねていた。


「あ、間宮君だ。なになに、寂しくなっちゃった?」

 玄関から出てきた山野さん。

 最初は軽めの話題を振り、さりげなさを装う。


「いえ、コンビニに行くついでです。リーフレタスをどうするか決めてなかったから話に来ました」


「あー、確かに。もう、お隣じゃ無いもんね。しょうがない。私が責任を持って育てるから、出来たら間宮君に届けるよ」


「良いんですか?」


「うん、良いよ」

 普通に一つの話題を消化した後。

 俺は本当に言いたかったことを言う。


「あと、その……。山野さん。良ければ、文化祭の時に少し一緒に見て回りませんか?」

 文化祭や文化祭の打ち上げ等でお金を使い遊びに行くお金はない。

 だからこそ、文化祭を一緒に見て回らないかと誘う。

 こじゃれたデートとはいかないが、山野さんと一緒にデートみたいなことはしたかったからこそ言った。


「あー、ごめん。友達と回るから無理かな」


「あ、はい」

 現実は非情。

 ……残念なことに文化祭で一緒に見て回ることは出来そうにない。

 

「というかさ、間宮君。今のってさ」

 

「……」

 露骨だった。

 今のは露骨過ぎて、俺の意図が見え透いていたのは言うまでもない。

 このまま認めれば、俺の気持ちは伝わるだろうが逃げてしまう。

 

「実は仲の良い友達とは休憩時間がずれてて一人ボッチになりそうだったんです」

 

「あ、うん。そうなんだ。まったく、思わせぶりな感じで言うからびっくりしちゃったよ。あはは、そうなんだ……」


「じゃあ、これで……」

 ダメだった。

 意気消沈しつつ、心なしか肩を落とし場を去るときだ。


「しょうがないなあ。分かった。友達に言って間宮君が一人ボッチにならないように少しだけ一緒に見て回ってあげる」


「え、良いんですか?」


「うん。良いよ。さすがに1日中は無理だけどね。少しだけなら友達も別になんにも言わないだろうし」

 仕方がないという顔を浮かべた山野さん。

 ……そんな彼女に去ろうとしていた時だというのに、追加で他愛のない話を振ってしまう。


「あ、そう言えば。けい先輩と同じマンションに引っ越したのは知ってますよね?」


「うん、知ってるよ」


「実はお隣になったんですよね。いやー、凄い偶然ですよね。びっくりしました。って、どうしました? 口をぽかんと開けて」


「……。間宮君。ちょっと待ってて」

 そう言うや山野さんは一度部屋へと引っ込んでいく。

 そして、すぐに戻ってきたが手にはリーフレタスを育てているプランターを持っている。


「それは?」


「はい。これ。よくよく思えば間宮君の住む新しい部屋の方が日当たりが良さそうだし。という訳で、間宮君。これを君に託す」


「まあ、良いですけど」

 さっきは育てたのを別けてくれると言ってたのに。

 でも、言われてみれば俺の新居の方が日当たりは良さそうだし理に適う。


「ちょくちょくリーフレタスを枯らして無いか見に行くからね!」


「……なんか慌ててる?」

 慌てた雰囲気を感じてならない気がする。


「べ、別に何でもないよ? ほら、間宮君。コンビニに行くんでしょ?」

 そう言われ追い出されるも手にプランターを持たされており、このままじゃコンビニに行くことは難しいので俺はこういう。


「あの、コンビニに帰りに取りに来るので置いてって良いですか?」


「そうだね。ごめん。じゃ、またあとでね」

 こうして、新しい日常は幕を開けた。

 本当にどうなることやらである……。


 



 

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