第45話似た味のお弁当から導き出される答え
あっという間に気が付けば体育祭を迎えていた。
お腹を壊した俺も、熱でダウンしていた山野さんもすでに快調だ。
そんな中、行われる体育祭は何と言うか大惨事が起きている。
「生徒会がこんなことをする必要ないのに~」
三鷹先輩が愚痴る。
愚痴った理由は体育祭実行委員でもないというのに、種目ごとの準備や片付けに負われているからだ。
なぜ、こんな目に遭ったのかは簡単であり、体育祭実行委員が少しばかりやらかしたからである。
競技種目を増やしたのだ。
競技種目を増やすための案は、片付けや設置の時間、招集と確認をてきぱきと行動するという何とも曖昧な案であった。
リハーサルでは限られた人数しかおらず、招集と確認はすぐにできていたが、当然の様に人が増えれば難しいのを想定していなかったそうだ。
で、てんてこまいで大変な事になり、招集と確認のための人員を増やした。
そしたら、道具を片付けしたり、設置したりする人が減ってしまい、そちらが今度はてんてこまい。それを見かねた先生たちが生徒会に声を掛けた。
『手伝ってあげて』と。
こうして、道具の片付けと設置を生徒会役員たちが手伝う事に。
「なんか生徒会って何でも屋だな」
1年書記であり、サッカー部の次期エースである八坂が言った。
確かに生徒会と言えば、もっとこう上から引っ張て行くようなイメージがあったけど、蓋を開ければ本当に何でも屋だ。
「だよな。っと、次で午前の競技は最後だ。昼飯がやっと食べられる」
そして、すでに手伝わされるという惨事は起きているが、それ以外の事件が起きずに、お昼休みを迎える。
午後一の種目は団体別リレー。
委員会から部活動、数多くの団体が参加予定なリレーだ。
生徒会も参加が決まっており、去年はバトンを落とすという恥を晒したらしく生徒会顧問である山口先生が今年はバトンは絶対に落としてはダメと厳しい。
なので、昼食を摂ったら少しだけバトン渡しの練習を行うとの事で、生徒会役員たちは生徒会室でお昼を食べて、そのまま練習することとなっている。
生徒会室でお弁当を広げみんなで食べ始める。
体育祭という事もあり、みんなのお弁当はやや豪華。
ちなみに、俺と山野さんも敬遠しがちな揚げ物である唐揚げが入っており、いつもよりちょっぴり豪華なおかずだ。
揚げ物は油の片づけが面倒で面倒なうえ、一人暮らしのため揚げる量も少ない。
たくさん使った油は次に使いまわせば良いだろうと思われがちだが、一度注いで使った油と言うのは酸化が凄まじく早い。
ゆえに、使いまわせずして油を捨てる羽目になる。加えて、油の処理は面倒くさい訳で敬遠していたがたまにはと唐揚げを作ったのだ。
「あ、その唐揚げ美味しそう!」
三鷹先輩がひょいと山野さんのお弁当箱から唐揚げを持ち去って頬張る。
「早希。人のおかずを取らないの」
「だって~、よそ様のから揚げの味が気になったんだもん。という訳で、私のから揚げをあげるから許して、許してっと」
三鷹先輩が山野さんのお弁当箱に三鷹家作、唐揚げを放り込む。
で、それから三鷹先輩の目は他の人のお弁当箱に向く。
「あ、間宮くんのから揚げも美味しそう! 頂戴。交換して?」
「……いや、えーっと、分かりました」
ちょっと懸念することがあったが、三鷹先輩に唐揚げの入ったお弁当箱を差し出した。
「あ、ごめん。私のお弁当にはもう唐揚げがないや。じゃ、エビフライを代わりにどーぞ、どーぞ。じゃ、唐揚げは貰っていこうではないか」
エビフライを俺のお弁当箱に入れた後、俺のお弁当箱から唐揚げを持っていく。 パクリと一口で唐揚げを食べて咀嚼した後、三鷹先輩は不思議そうな顔を浮かべて少しばかり懸念していたことに触れてきた。
「やまのんから貰った唐揚げと同じ味がした?」
「そんなわけないじゃん。早希の勘違いじゃない?」
山野さんは否定にかかるも、真実は三鷹先輩の言う通り。
何を隠そう、唐揚げは山野さんと一緒に作った奴である。
油が勿体無い、でも二人で同じ油を使えば節約になるという事で一緒に唐揚げを作ったのだ。
「隠し味にはちみつが入ってるし、ショウガの効き方もニンニクの効き方も似てるって。あとは揚げ方も二度揚げしてあるところも」
ちょっぴり唐揚げもいつもより豪華にしようという事で隠し味にはちみつを入れたし。
手間だが、けい先輩がこうすると美味しいわよと教えてくれた二度揚げもした。
普通に隠し味から二度揚げまで分かるとか、三鷹先輩の舌が怖いんですけど……。
「ま、似たレシピを見ちゃったんでしょうね」
「だろうね」
二人して唐揚げはたまたま似た味になったと偽ろうとするも、鋭い三鷹先輩は俺達のお弁当箱を見比べ始める。
「と言うか、間宮くんとやまのんのお弁当箱に入ってるおかずは全部おんなじだ! つまり……」
同じなのは簡単で山野さんが揚げ物をしている間に俺が別のおかずを作ったのだから同じになって然るべきだ。
グイグイ来る三鷹先輩。
そして、その三鷹先輩が導き出す推理に生唾を飲み込んで見守る他の役員たち。
「間宮くんとやまのんは付き合ってる。そして、やまのんが間宮くんにお弁当を作ってあげたんだね!」
この前、けい先輩が「そこまで仲良しで居たいのなら付き合えば良いじゃない」と行った時には逃げたが逃げてばかりでは関係はいつまでたっても進まない。
ゆえに俺は山野さんに意識して貰うために「三鷹先輩の言う通り、俺と山野さんはもしかしたら付き合っているかも知れませんね。まあ、はっきりと言いませんけど」とぼかした発言をすることで山野さんに異性として意識を強く感じて貰おうでは無いか。
ぐうたらと面倒くさい思考を張り巡らしていると、三鷹先輩が俺のお弁当箱から卵焼きを奪っていく。
「んー、やっぱ、今の無し。やまのんと間宮くんのお弁当は別物だよ。だって、やまのんって甘い卵焼きそこまで好きじゃ無いもん。間宮くんのお弁当箱に入ってる卵焼きは甘いやつだった。それに体育祭のお弁当と言えば、よくよく見ればみんな似てるからね。早とちりしてごめんね。やまのんと間宮くん」
山野さんと俺の卵焼きの味の好みは違う。
俺は甘いのが好きだが、山野さんは甘いのはそこまで好きじゃないので自身で甘い卵焼きを作ることは滅多にない。
だが、今日は違う。俺が山野さんの分も卵焼きを作っているので味は同じ。
「っく」
同じお弁当だと言ってしまいたい。
けど、同じお弁当だとぼかさずに言うのは自殺行為。
面倒事を避けるために山野さんと俺の関係性はなるべく伏せているのだ。
それだというのに自分から関係性を暴露していくのは甚だしいし、山野さんからしてみれば俺がわざわざカミングアウトするのはおかしい。
はあ、ちょっと周囲に良い仲的な感じを言いふらすことで、異性としてより意識して貰えるかもしれない機会だと思ったんだけどな……。
残念だと思いながら、時間は過ぎて行き皆が昼食を食べ終わると、三鷹先輩から周りに怪しまれないようにちょっぴり廊下の隅に来いと携帯でメッセージが来た。
メッセージの通りにトイレに行ってくると生徒会の人たちに告げて三鷹先輩が指定した廊下の隅へ。
「急にどうしたんですか?」
「いやー、間宮くん。お弁当の時はゴメンね」
ぺこりと頭を下げてなぜか謝られてしまう。
「何がですか?」
「だって、変にやまのんとの関係を疑ったでしょ? あれのせいで、他の役員たちに勘違いされちゃうとこだったし」
話が見えてこない。
三鷹先輩は一体、何を言いたいんだ?
「あの~。話が見えて来ないんですけど」
「うんうん。分かるよ。あんまり、周囲に言いたくないよね。付き合ってるって事を」
なる程、俺と山野さんが付き合っていると確信した。
しかし、周りに言いふらしてしまうのはいけないと気付き、あの時の同じお弁当だ! という発言を急いで撤回してくれたという訳。
ったく、さすがグイグイ来るものの気が利く三鷹先輩である。
「ま、まあ。そうですね」
三鷹先輩は十中八九、俺と山野さんが付き合っていると今回のお弁当騒動で確信したし、その勘違いを否定はしない。
山野さんに俺がそう言う風な関係も満更でもないと知って貰えるかもしれないしな。
「ごめんよ、間宮くん。配慮が足りてなかったや」
「いえいえ、別に気にしなくても」
「けい先輩と付き合ってるのに、やまのんとの関係を疑って」
ん?
「今なんて言いました?」
「けい先輩と付き合ってるのに、やまのんとの関係を疑ってね」
「ち、ちなみにどうしてそう思ったんですか?」
訳が分からない。
なんで俺とけい先輩が付き合ってると勘違いされているんだ?
「だって、お弁当の味がやまのんと同じだったじゃん。やまのんはけい先輩からお料理を教えて貰ってたよね。間宮くんが今日食べていたお弁当はけい先輩に作って貰ったんでしょ? だから、けい先輩作である間宮くんのお弁当とやまのんのお弁当は味からおかずの種類まで似ていた」
「作って貰「そして、やまのんとの関係を私が疑っていた時に間宮くんは少し困った顔をしていた。そう、けい先輩と付き合っているのにやまのんと関係を疑われても……と困っていたわけだね」
『作って貰ってなどない』と言おうとしたが、言葉を遮られてしまう。
「ちがい「生徒会の応援演説もけい先輩にして貰ってたし」
「だか「本当にごめんね。今まで、やまのんと出来ているとばかり思ってて、変に勘繰ってさ」
「という訳で、私はけい先輩と間宮くんの事を応援してあげるね!」
「話を聞いてください。けい先輩とは付き合ってなんか無いです」
「うん。そっか~。そうだよね~」
納得しているようで全く納得していない。
俺が恥ずかしいから『付き合っていない』と言っていることを間違いなしだと、言わんばかりな顔つきである三鷹先輩。
うん、どうしてこうなったんだ?
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