第41話体育祭に向けて

「だるい……」

 胃の痛みが治まりつつはあるものの、体はけだるくて仕方がない。

 夕食は山野さんとけい先輩が作ってくれた雑炊がある。

 味見をして2時間くらい経ったころだろうか、胃の痛みが治まると同時にお腹の減りを強く感じ始め、俺は雑炊を食べようと容器を手に取ったと同時だ。

 

 インターホンが鳴らされる。

 玄関を開けるとそこには山野さんだ。


「どうしたんですか?」


「あれだよ。あれ。大丈夫かな~って感じで見に来た」


「あ、はい。だるいだけで別に酷く具合が悪い訳じゃありませんから安心してください」


「そっか。それなら良かったよ。それじゃあ、また明日」

 そう言うと山野さんは帰って行った。

 わざわざ見に来てくれて嬉しい限りである。


 そんなことがあった次の日。

 体調は随分と良くなり、普通に学校へと行く準備を進めていると、山野さんが部屋に訪れてきた。


「具合は大丈夫?」


「大丈夫ですよ。かなり良くなりました」

 そんな話をして、そろそろ学校へと向かわなくてはいけない時間であり、二人して学校へと足を動かす。

 学校に着くまでの間、山野さんが食い気味にある事を聞いて来た。


「けい先輩と最近は仲が良いの?」

 

「普通ですね。昨日はあれですよ。みっちゃんの差し金で、けい先輩をけし掛けられただけです」

 ……みっちゃんが俺が振られたと思いけい先輩に慰めさせようとしてきた。

 ありのままに伝えれば、俺が山野さんの事が好きだとバレてしまうので肝心な部分は伏せる。

 今、俺が山野さんへ好意を抱いているなんてバレようものなら、この和気あいあいとした通学の風景さえ消え失せるに決まっている。

 相手から好意を寄せられていると知って、今まで通りなんてことは滅多にあり得ることではないのだから。


「へー、どうしてそうなったの?」


「……それはあれです。みっちゃんがけい先輩が最近、友達が受験でカリカリしてて相手にして貰えて無くて負のオーラバリバリ。だから、俺が相手しといてという感じです」

 だいぶ強引な嘘。

 けい先輩がただの構ってちゃんにしか見えないような発言でけい先輩に申し訳なさを感じていると、


「確かにけい先輩は相手にして貰えないと面倒くさい負のオーラ出すからね……。妹であるみっちゃんはそれをうざがって間宮君に押し付けた。うん、納得」

 納得もしてくれ、無事に肝心な部分を隠し通す事は出来た。

 しかし、山野さんは食い気味に俺に聞く。


「で、間宮君はけい先輩と仲良くしたいの?」

 これが俺に好意を抱いており、少し嫉妬しているのであれば良かったのだが、そんなことがあるわけが無い。

 おおかた、ただ単に自分が親しくしてる相手同士が仲良くなるということに興味があるだけだ。


「普通ですよ。機会があればって感じで。もちろん、興味があってグイグイと積極的になんてことはありえません」

 とはいえだ。

 ここで保身に走っておくべきなのは間違いはない。

 あくまで、機会があれば程度に仲良くという感じで、興味があってこちらから近づくつもりは毛頭もないと宣言しておかねば山野さんがいらぬ気を起こし、俺から距離を置こうとするかもしれないし。


「ふーん」


「なんか今日は全体的に食い気味ですね」


「そ、そう? 別にお隣さんが誰かと親しくしてるのを目撃すれば多少は食い気味にな、なると思うんだけど」

 必死な感じで取り繕っている気がする……。

 が、それがどの様にしてもたらされるのかは分からない。


「そう言えば、間宮君。体育祭まであと少しだね」


「はい、そうですね」


「体育祭に関しては体育祭実行委員が主導で私達が出張るような事が起きなければ良いんだけどね……」

 強引な感じで話をそらされた。

 食い気味だった理由に俄然興味が沸いていたので、ツッコミを入れてしまう。


「食い気味だった理由を悟られまいとしてません?」


「さ、さあ?」

 目をちょっぴり泳がせている。

 無理に聞いて嫌われたくないし、これ以上は突っ込まないで置こう。

 と思っていた時だ。思わぬカウンターを食らってしまう。


「と言うか、間宮君こそ。けい先輩と仲良くというか、イチャイチャと出来たら実際どうなの? あの人って普通に綺麗だし良い人じゃん」

 

「別にあの人とは普通に仲良くはして行きたいですけど、イチャイチャとするとかそう言うのは考えてませんよ?」


「さすがにあの人でダメってそれはないと思うんだけど。あれでダメならどういうことなのかな?」

 

「そりゃあ……好みじゃないので」

 さすがに好きな人がもう居るから惚れるわけが無いという理由は使えない。

 しかし、山野さんは俺と日々コミュニケーションを繰り広げることにより、俺がどういう風に考えているかを若干だが予想できるらしい。

 

「ふーん。本当に?」

 ものの見事に好みじゃないという発言に違和感を覚えられ、捲し立てられてしまうのだが、多少違和感があれども突き通す以外に選択肢は無い。


「本当です」

 が、残念なことに俺の言葉に違和感を覚えているのは間違いなし。

 けい先輩に俺が惚れないし、あまり興味がないのをしつこく問われるのであった。

 ったく、これが彼女が他の女の子と仲良くしているのを見て嫉妬してずーっと詰め寄られる的なあれだったらいくらでも付き合えるんだけどな……。




 山野さんと一緒に通学したのも束の間。

 あっという間に放課後を迎えていた。

 今日は生徒会の活動がある日なので生徒会室に向かう。


「んじゃ、始めよっか。今日の生徒会活動は体育祭のお手伝いです。簡単に言うと、備品の確認と整理を行います」

 仕切っているのはもちろん会長である山野さん。

 どうやら、今日の生徒会活動は普段よりもすることがある見たいだ。


「あれれ? 去年まで体育祭実行委員の仕事だったじゃん。それ」

 2年会計の三鷹早希先輩が言う。

 彼女は去年も山野さんと同じく生徒会役員であり、実情を良く知る人物である。 そのため、山野さんが指示したことが去年はしていなかったと指摘したわけだ。


「んー、山口先生曰くなんだけど、今年の体育祭実行委員はちょっとね……」

 

「つまりはダメダメで信用ならない。だから、私達に備品の確認をと頼んで来たって感じ?」

 バッサリと山野さんが濁した部分を言う三鷹先輩。

 ほんと、怖いものなしな先輩である。


「まあ、言いたくなかったけど、早希の言う通りそういうことだね。んじゃ、外の体育倉庫と中の体育倉庫、後は当日、来賓の方が使う用の給水機とかを置いてある備品室。この3か所に別れて行動でよろしく」

 

「玲菜ちゃんと私は中の体育倉庫にいきたいで~す」

 三鷹先輩がやや強引に絵のコンクールで何度も入賞を果たし、何度も集会で表彰される芸術家こと1年会計である神楽 玲菜さんの手を引く。

 神楽さんを本当の妹かの様に三鷹先輩は可愛がっており、今では仲良しで休日に遊びに行ったとこの前言っていた。


「じゃあ、これ。チェックリスト」


「おっけー。ばいば~い」

 手を振って三鷹先輩と神楽さんは中の体育倉庫、要するに体育館にある室内型の倉庫へと向かう。


「じゃ、俺は花田先輩と行きます」

 サッカー部のエースこと八坂(やさか)が2年書記である花田充先輩と行くと言い出した。

 結果的に俺は山野さんと一緒に行動することに。

 で、その後、じゃんけんして備品室か外の体育倉庫のどちらに行くか決め、じゃんけんに負けたので少し砂っぽい外の体育倉庫に俺と山野さんで備品を確認することとなった。

 生徒会室を去ろうとする間際に八坂は俺に小さな声で言う。


「チャンスを生かすも殺すもお前次第だ。ま、頑張れな」

 そう、何を隠そう八坂は気遣いができるイケメンなのだ。

 要するに俺が山野さんに気がある事にすぐに気づき、機会があれば俺と山野さんが近づけるように助けてくれるお助けキャラなのである。

 どこぞのお助けキャラを装ったお邪魔キャラなみ○ちゃんとは大違いだ。



 そして、俺と山野さんは外の体育倉庫へとやって来た。

 障害物競争で使う予定の部活用では無くて、授業用で購入したが使われていない少し古びたハードル。

 白線を引くためのラインカーが使えるかどうか。

 色々な物をチェックしていく。


「実際問題、三鷹先輩が言ってた通りこの仕事って本当は体育祭実行委員の仕事なんですよね?」


「まあね。でも、仕方ないよ。毎年、毎年、きちんと責任感があって最後まで成し遂げられるような人が集まるわけじゃ無いんだし」


「それもそうですね。ところで網は見つかりました?」

 障害物競争で使う網を探しているが、中々見つからず手分けして探している山野さんに声を掛ける。


「あ、あったよ。今、出すね」


「代わりますよ」

 少し高い位置にあったので、代わりにと棚からプラスチック製のコンテナボックスを取り出す。

 その中には紛れもなく障害物競争に使うような網が入っていた。


「広げてみよっか」

 網を体育倉庫で少しばかり広げる。

 ……多少破れがあるものの使えないというわけでは無さそうだ。


「間宮君。間宮君。潜ってみる?」


「確かに障害物競争でも無ければ網なんて潜りませんよね」


「今なら、思う存分に潜れるよ。ささ、どうぞどうぞ」

 

「俺は良いですって。山野さんこそ潜れば良いんじゃないんですか?」

 

「んー、確かに」

 ひょいとノリで網の下を潜る素振りを見せたかと思いきや、ハッと我に返った山野さん。


「危なかった。よくよく思えば、途中でスカートが網に引っかかって間宮君にまたパンツを拝まれちゃうとこだった」

 ふぅと一息を吐き安堵する。

 そう何を隠そう、山野さんはおっちょこちょいの天才である。

 別に網に潜った所でスカートがめくれる確率などそれほど高くはないが、物の見事にめくれてしまうはずだ。


「事前に気が付いて良かったじゃないですか」


「うんうん。まあ、間宮君的には残念だっただろうけどね。さてと、網の点検も終わったし入ってたコンテナにもどそっか」

 広げた網を折りたたみコンテナにに戻し、分かりやすい位置に置く。

 随分と分かりにくい場所に仕舞われていたので、次に取り出しやすいようにだ。


「にしても、さすがに体育倉庫。砂っぽいね。髪の毛に砂埃が付いて最悪だよ。帰ったら、早めにお風呂に入ろ」

 

「俺もそうします。と言うか、こんなに砂っぽいとこなら制服で来るんじゃ無かったと後悔してます」


「私もだよ。さてと、ちゃちゃっと終わらせて帰ろ? 次は……ハードル。これも障害物競走で使う奴だね」

 そう言われてハードルを探した。

 ちょっと奥の方にあったがすぐに見つけて壊れていないかチェックする。

 この倉庫には体育の授業で使う備品が置かれており、人の出入りが頻繁。

 過去にいたずらされて壊れていたという事があったから、こうしてチェックしていると山野さんからさっき聞いた。


「ハードルは潜るんですかね?」


「だろうね。障害物競走のルールだったら飛ぶよりも潜るの方が面白いし、飛ぶのって意外と危ないからね。特に置き方があって、逆に置いて飛んだら引っかかった時にうまく倒れなくて怪我しちゃうし」


「随分と詳しいですね」


「だって、中学の時は陸上部でハードルを飛んでたし。こんな風に」

 片足だけ足を上げ、ハードルを越える様を見せてくれた。

 それはそれは綺麗なフォーム。

 そして、今時の女子高生はベルトでスカートを短くまとめ上げているがために、足を上げた際に見えた。

 もう何が見えたか言うまでもない。


「間宮君。なんかエッチな目をしてるけど、どうしたの?」


「何でもないですよ。ただ、本当にハードルを飛んでたんだなあ……と」


「でしょ?」

 得意げに片足だけだが、ハードルを越える様子を見せてくれる。

 そのたびにちらりちらりと見える水色のあれ。

 眼福である。


 ふと俺の目を見てどこに視線が向いているのかを察した山野さん。


「間宮君のむっつりすけべ。最初の時に見えたって教えてよ! 今日のは気を抜いたやつなんだよ?」

 ちょっぴり怒られた。

 でも、冗談。

 すぐに怒る素振りは辞めて、二人で語らいながら備品を確認していくのであった。

 


 





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