第24話お隣さんが居ない日
金欠がバレてしまい、実家へと強制送還された山野さん。
久方ぶりの一人。
とはいえ、何か別段にすることは変わったりなどしない。
動画を見たり、ゲームをしたり、勉強をしたりするくらいだ。
しかし、それ等をしている際にたまに入る山野さんとの会話が無いのが非常に寂しいとしか言いようがない。
「はあ……」
寂しさを嘆いていた時だ。
とある人物からメールが届く。
『哲郎。今から、部屋へ行きますね』
姉さんからだ。
『なんで?』
とメールを送り返すと返事はすぐに帰って来る。
『抜き打ち検査ですよと言いたいとこですが、実は仕事関連です。そのついでに寄ろうかなと』
そんなやり取りをしてから15分後。
インターホンの音が部屋に鳴り響く。
玄関を開けて、来客者を確認するとそこには姉さんが居た。
「来ましたよっと」
「ん? 私服?」
仕事関連と言っていたので、てっきりスーツかと思っていたのだが、大人らしく白のシャツと長めのフレアスカートな私服で現れた姉さんに違和感を持つ。
「ええ、私服で大丈夫な仕事関連の用事でしたから」
「それなら良いけど」
そう言いながら、玄関を大きく開いて姉さんを部屋へと招き入れた。
……仕事関連の用事で近くに来たのなら、弟の様子を見るのも普通の事。
姉さんはと言うと、前回同様に色々とちゃんとやっているのかを確認し始める。
「物が増えてませんね。これから、増える予定はどうですか?」
「こんなもんじゃないか? これ以上、物が増えるようなことはあんまりないだろ」
「それなら良かったです」
と言った感じで色々と部屋について聞かれる。
それもあらかた終わり、お茶を飲みながら世間話をしていく。
「姉さんは仕事は順調?」
姉さんはしがないOLという訳では無くて、普通にバリバリ働いている側の人間である。
元々、姉さんは製薬会社の事務で入社した。
しかし、気が付けば営業をやらされているとの事だ。
お金も支援して貰っているし、何よりも家族である姉さんの事が気になるので、仕事について聞いてみた。
「はい。順調ですね……。ただ、順調すぎてこのままだと色々と大変になりつつあると言うのが現状です」
「あー、責任が重くなる的な、あれか?」
「そう言う事です。任される仕事も多くなってきて、今度は栄転させられる事になっているみたいで……ガラリと環境も変わりそうなんですよ」
やつれた顔でぼやく。
それほどまでに色々と辛いのだろう。
「休みは取れてる?」
「あ、はい。その点は大丈夫です。ただ、胃が痛くなるような仕事を任されるようになって精神的に辛いだけなので」
それから、気が付けば姉さんの愚痴を聞き続けた。
営業をしに会社を訪れれば、それなりに偉い人を相手にしなければいけなく、言葉遣いや態度を張り詰める必要がある。
接待でお高いお店で食事をすることが多い。
本当に色々と悩みが尽きないとの事だ。
「にしても、聞く限りだと、姉さんは本当に会社内での地位が上がって来てるとしか思えないんだけど」
「まだ正式な辞令は下って無いんですけど上司が部下になります……凄く気まずいです。私は知っていますが、まだ部下になる予定の上司は知らないのがこれまた辛いです……」
もうどうすれば良いんだ? という顔で語って来た。
上司が部下になるって……社会人経験のない俺ですら、どう接すれば良いんだと容易に想像できてしまう。
「まあ、頑張れ」
「はい。頑張りますよ……。お給料は大事です。借りた奨学金もかなり残ってますので」
奨学金を返し終わってないというのに、俺にお金を支援してくれていると思うと複雑な気分だ。
……本当に姉さんには足を向けて寝られない。
「さてと、私はそろそろお暇しますね。実は用事はまだ済んで無いので」
と言って立ち上がって俺の部屋を後にしようとした時だ。
「そう言えば、どうなったんですか?」
「何がだ?」
「気になる相手とですよ」
「居ないって言っただろ?」
別に気になる相手がいるとか姉さんには伝えていない。
なぜ、この話題が振られたんだ?
「こんなに部屋を綺麗にしていると言うのは誰かしら部屋を綺麗にしてくれる相手、もしくは誰かを招くからこそ部屋を綺麗にしていることくらいは分かりますから。気が付かないとでも?」
「一人暮らしで綺麗好きに目覚めたとは思わないのか?」
「それにしてもですよ。本当に至るところまで綺麗にし過ぎです」
お見通し。
隠してもあまり意味が無いので、俺は口を割る。
「姉さんの言う通り、気になる人は居る。で、それがどうしたんだ?」
「私なりに色々とアドバイスをしてあげたじゃないですか。確か……『ちょっとしたことでも、相手は気にする』だの『仲良くなるチャンスは転がってた』そして悔いは残さないようにと夜に語ってあげたのに」
……なる程。
唐突に恋バナとか言ってあんなことを話してきた意味はきちんと理由があったという訳か。
「たぶん、進展はして無い。と言うか、むしろ悪い方に転がりつつある。なあなあな関係に落ち着きそうでヤバい……」
「で、私のアドバイスは実行してたんですか?」
色々と思い返す。
『ちょっとしたことでも、相手は気にする』……って、思いっきり棚の上に姉さんのハンカチを置きっぱなしにして置いて失敗してるな。
『仲良くなるチャンスは転がってた』……これに関しては無意識のうちに実行しており、お祭りやらに行ったが、いまいち効果は実感できてない。
しかし、まだまだ仲良くなるチャンスは転がっているに違いない。
「……片方は完璧に忘れててちょっと痛い目に合った」
「まったく、そうならないようにとアドバイスをしてあげたんですよ? という訳で、今日も一つだけアドバイスを上げましょう」
「どんなアドバイス?」
「もし仮に気になる人が同年代なら、気になる人と同じことをする。そうすれば、おのずと仲は縮まっていくはずです。では、これで」
そう言い残した姉さんは俺の部屋から去ろうと玄関のドアノブに手を付ける。
そして、玄関から出る間際にもう一言、俺へ言い残した。
「また近いうちに様子を見に来ますね」
姉さんは玄関を閉めて去って行った。
再び部屋に一人になった俺はと言うと、姉さんがくれたアドバイスについて色々と考える。
「気になる人と同じことをする、かあ……」
今でも、色々と同じ部屋で過ごしたり、一緒に料理をしたりして、同じことをしていると言えばしている。
まだ、他に何かあるか?
色々と悩んでいると、どうでも良い事が頭によぎった。
「あ、今日はスーパーで醤油が安いんだった」
本当にどうでも良い事である。
しかし、調味料と言うのは幾らあっても困らない。
安売りな時に買い溜めしておくのがお得なので、特にこれと言ってしなくてはいけないこともなく、俺はスーパーへと向かう事にした。
醤油やら、他に安い商品がないかと探し回って歩く。
すると、とある人物に出くわした。
「あら、哲郎君。お久しぶりね」
「あ、どうも。けい先輩」
我が高校の生徒会長であるけい先輩だ。
とはいっても、任期的にあと少しで生徒会長という肩書は取れてしまうけど。
「本当に家庭的でしっかりとしているのは今時じゃ珍しい子ね」
「いえいえ、このくらいは普通ですって。それこそ、けい先輩だってスーパーで買い物してる時点で家庭的でしっかりしてるじゃないですか」
「ふふ、それもそうね。じゃあ、これで」
別に出会ったからと言って二人で歩くわけでもなく、スーパーの中で会ったけい先輩と別れる間際だ。
頭にとある事がよぎった。
「あ、ちょっと待ってください」
けい先輩を呼び止めて俺はよぎったことを話すのであった。
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