第8話一緒に過ごすルールとお鍋第二弾

 夏、エアコンの電気代を節約するために山野さんと俺は一緒の部屋で過ごすことになった。

 色々と取り決めをしなければ、いけないと思い話し合いを始める。


「という訳で、夏場は冷房代を抑えるために一緒の部屋で過ごすという事ですが、快適に過ごすためにもルールを作りましょう」

 

「間宮君の言う通り、大まかにルールはあったほうが良いよね。じゃあ、最初はどちらの部屋で過ごすかだ」

 なんだかんだで、山野さんの方が俺よりも帰って来るのは遅い。

 だからこそ、帰り道で一緒になった事もなく、同じ高校に通う高校生だと気が付かなかった。

 となると、先にアパートに帰ってくる俺の部屋の方が良いだろう。


「俺の部屋ですね。なんだかんだで、山野さんより、帰ってくるのが早いですから。というか、山野さんは部活には入って無いんですよね? なんで、俺よりも帰りが遅くなるんですか?」


「部活には入ってないよ。でも、こう見えて生徒会役員だからね。少しだけ仕事があるんだよ。まあ、本当に少しだから30分もすれば終わるし、それも週に2回くらい。ただ単純に遅い理由は教室で友達と話すことが多いから」


「山野さんって生徒会役員だったんですね。驚きです」

 そう言えば、俺って山野さんの事を全然知らないのでは?

 気が付けば、一緒の部屋で過ごすという取り決めよりも、山野さん自身の事を聞いていた。


「ほほう。私が生徒会役員に見えない程、不真面目に見えると?」

 目を細め、喧嘩を売っているのか? というじっとりとした視線を送ってきた。

 冗談だとはいえ、ちょっと恐れおののいてしまう。


「い、いえ」


「別に怒ってないって。そんなに怖がらなくても良いのに。ま、私も似合わないとは思ってるけどね。でも、指定校推薦のためなんだよ、これは」


「指定校推薦って、大学ですか?」


「そうそう、実はうちの学校って結構いいとこの指定校推薦を持ってるんだよ。その枠を狙うには帰宅部じゃ絶対に無理。いくら成績が良かろうとね。だからこそ、私は指定校推薦を回して貰いやすい生徒会役員になったというわけ」

 なるほど、確かに良いかもしれない。

 いいとこの指定校推薦を貰えるのなら、生徒会役員なんて楽なものだろう。


「まあ、世知辛い話だけど予備校に通えるくらいの余裕は無いから。良いとこに行こうとした時、指定校推薦が一番の手段だよ。だって、学校の成績なんて試験範囲が限られてるから、点数を取ろうと思えば本当に取りやすいし」

 予備校代を舐めてはいけない。

 いくつか調べた事があるが、とてつもない金額を請求されるのだ。

 まあ、安いところもあるが、そう言うところに通い頭が良い子は大抵、自力で何とかできる子だったりする。


「指定校推薦で良いとこに行けると良いですね」


「試験では毎回5位以内に入ってるから頑張れば行けるはず……。たぶん、いいとこは普通の試験で入ろうとすると予備校に通わないときつすぎる。ちなみに、間宮君は成績は良い方なの?」


「良い方だと思います。中間試験では何とか10位に入れましたし。一人暮らしさせて貰ってる手前、さぼれませんので」

 一人暮らしをさせて貰っているのだ。

 いい成績を取ろうと頑張るのは当たり前である。


「さてと、だいぶ話がそれちゃったけど。話を戻すと、一緒の部屋で過ごすのは帰ってくるのが早い間宮君の部屋でという事で良いかな?」


「はい。それに、同年代の女の子の部屋においそれと入れませんよ。色々とプライベートがあるでしょうし」


「その物言いだと、男の子の部屋に容赦なく入る私が尻軽みたいだよ……。まあ、実際問題、仲良くなり始めたばかりなのにお邪魔してる時点でそうなんだろうけどね」 

 その点は俺もちょっと思っている。

 一人暮らしの異性の部屋に入るって普通はそう簡単にする行為じゃない。 

 でも、手を出されれば通報するというのが浸透してきている世の中になりつつあるので、異性の部屋にお邪魔するのは敷居が低くなって来てはいるけどな。


「どんどん話が逸れて行きますね」


「分かる。というか、意外と間宮君について全然知らないんだな~って思った。ま、これからどんどん知ってくのが楽しみだよ。さてと、一緒の部屋で過ごす取り決めだけど、基本的に綺麗にどのくらい節約できたかの計算は難しいからお金に関して曖昧になるかもだけど、その辺は大丈夫?」


「全然平気です」

 と言った感じに色々と一緒の部屋で過ごす取り決めを行うのであった。

 

『基本的に間宮 哲郎(てつろう)こと俺の部屋で一緒に過ごすことで冷房代を節約する』

 帰ってくる都合上、俺の部屋がベスト。

 後、山野さんは一応、女の子だし見られたくないものがあるに決まってる。


『電気代は厳密に計算できないのでお金周りが曖昧なのを許容する』

 みみっちく、小銭を計算するのは時間の無駄。

 多少、損していようが節約にはなるのは間違いないので別に問題はない。


『絶対に相手の嫌がることをしない』

 一緒に過ごすのだ。当たり前の事である。


『トイレは自分の部屋のを使う』

 俺は使っても良いと言ったが、山野さんは使わないと言ってきた。

 意識されているのがちょっと嬉しい。


『今日は嫌だという日には普通に一緒に過ごさない』

 互いにプライベートは大事だ。

 気が乗らない日もある。


 大体、こんな感じでルールは決定。

 なんだかんだで、色々と話しながら決めたので気が付けばもうお昼時を過ぎてしまっていた。


「あー、お腹空いたかも。じゃあ、お昼ご飯を食べに一回自分の部屋に帰るねと言いたいところだけど、間宮君が良ければ、また鍋しない? 実は帰りにちょっとスーパーに寄って鍋つゆの元を買ったんだよ。でもね、一人前じゃ無くて、安売りしてた4人前のを買っちゃったから。あ、あと、辛い奴だけど大丈夫?」

 鍋つゆの元を買ってきたらしい山野さん。

 確かにあれって一人前で売っているタイプも出てきたが、依然として何人前かで売られている。

 切らずに野菜を買ったという事もあり、鍋の材料はちょうどあるし、別に二日連続鍋と言えど味が違えば別物だ。


「辛いのは強い方なので、平気です。という事でお言葉に甘えます」


「おっけー。じゃあ、鍋つゆの元を取ってくるね」

 一度部屋に戻り、鍋つゆの元をもって戻ってきた。

 鍋つゆの元の名前は『激辛 赤鍋』。名前だけで辛そうである。


「凄そうですね」


「うん、凄そうだよ。安売りしてたから、美味しくないのかな? と思って一応ネットで調べたけど、辛すぎて売れてないみたい」

 その言葉を聞いて、なおさら興味が出てきた。

 俺達は昨日と同じく野菜を切り、鍋に敷き詰める。

 そして、山野さんが買ってきた鍋つゆの元『激辛 赤鍋』を開けて注ぎ入れた。

 ひと煮立ちさせ、出来上がったのを机に運ぶ。


「出来たね。じゃあ、食べよっか。いただきます」

 

「はい、いただきます」

 二人で『激辛 赤鍋』の元で作った鍋を食す。

 一口目で安売りしていた理由が良く分かってしまう。


「う、ぐ、っぐぐぐ。か、辛い……」

 辛い。

 ひたすらに辛いのだ。

 息をするのもつらいレベルで悶えるしかない。


「か、辛いね。安売りしてた理由が本当に分かった。安易な安売りに誘われるのは駄目だったよ……」

 

「で、でも、作っちゃったんですし。食べましょう」


「そ、そうだね。頑張ろっか」


 俺達は作ってしまった手前、残すわけにも行かず、悪戦苦闘しながら激辛鍋を食した。


「なんとか食べきりましたね」


「見てよ。この汗」

 山野さんはおでこに掛かっている髪の毛を押しのけて、おでこから流れる汗を見せてきた。

 その量は激しく運動したと同等レベルだ。


「俺もですよ。服がびっしょりです」

 気が付けば服が汗で濡れていた。

 山野さんはどんな感じだと思い、目を向けると俺と同じように服が張り付く位に汗をかいていた。


「み、見ないでね?」

 そう言った山野さんは広げていた腕を組んだ。

 様子から察するに脇汗が染み出ているという姿を見られたく無いに違いない。

 脇汗を見られるのを恥ずかしがって強く腕を組んでいるのが可愛い。

 それと同時に恥ずかしがって隠しているのがまったく意味が無くてつい笑いがこぼれてしまった。


「なんで、にやにやするの?」


「だって、脇汗なんて関係ないくらい汗が出てるんですよ?」

 脇汗が露骨に染み出ているのを見られたくなかった。

 しかし、脇汗など気にならない程服はしっとりとしてしまっている。

 それなのに隠していると言うのが面白くて、笑えてしまったという訳だ。


「あ、ほんとだ。脇汗なんて関係ないくらい汗びっしょりだね」

 自分の服を見てそれもそうかと納得している。

 

「体全体が濡れていると恥ずかしくないのに、脇だけ濡れていると恥ずかしいってなんか不思議ですよね」


「やっぱり一部分だけ露骨にって言うとこが恥ずかしいんだろうね。でも、さすがにこんなに濡れているのもあれだから着替えてくる」

 着替えに行こうと立ち上がった。

 それと同時に俺にとある考えが思いついたので提案してみる。


「よくよく思えば冷房代を節約するため昼間に部屋で一緒に過ごすならお昼ご飯も一緒に食べませんか? ほら、二人だと色々と楽なので」


「んー、間宮君が良いなら良いよ。じゃ、部屋で着替えてきます。こんなんじゃ、間宮君のお部屋を汚しちゃうからね」

 そう言って歩き出した時だった。

 山野さんは話し掛けられたという事も相まって、足元が疎かになり床におかれていた『激辛 赤鍋』の元が入っていたスーパーのレジ袋を踏んでしまう。

 

 つるんと滑り、体制を崩し俺へ倒れこんで来た。

 俺に抱き着くような形で倒れた山野さんはすぐさま立ち上がる。


「あたたた、ごめんね」

 

「あ、えっと。その、大丈夫ですか?」


「平気、平気。間宮君こそ大丈夫?」


「大丈夫です」


「それなら良かったよ。じゃ、一度部屋に戻るね」

 そう言って部屋から出て行った。


 それと同時に俺はこう呟かざる負えなかった。


「めっちゃ柔らかかった……」

 どことどこが触れたのかなんて一瞬過ぎて分からなかった。

 それでも、もの凄く柔らかかった感触だけが体には残ってる。


「やばいなあ。あんな可愛い山野さんと一緒の部屋で過ごすとかほんとヤバイなあ」

 今更になって一緒の部屋で過ごすことのヤバさを理解し始めるのであった。

 てか、待て。こんなにも意識させられる相手なのに俺は物凄く大事な事を知らないじゃないか。


「山野さんの下の名前って何だろうか?」





 




 

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