第7話電気代を半分にする画期的な方法
山野さんのパンツを拝んだ朝。
気まずくはなりはしたものの、それも和らいできた時だ。
「そろそろ私は管理会社に行ってスペアの鍵を受け取って来るね」
「はい。行ってらっしゃい」
「本当に色々とご迷惑をお掛けしました」
礼儀正しく頭を下げた山野さん。
親しき中にも礼儀ありだ。というか、まだまだ親しい仲なのかは微妙なラインだけど。
「そんなことは無いですって。鍋とか映画とか、いろいろ出来て楽しかったですよ」
……それに、生パンツと生足を拝めたし。
口が裂けても言えないが、実物のパンツと生足なんて姉以外のを見たのは初めてである。
「うん、私も。じゃあ、行ってくるね」
と言った感じであっさりと部屋を後にしようと立ち上がる。
せっかくなので、玄関まで見送りに行く。
そして、本当に別れ際の時だ。
下心があるとか思われても良い、そんな気持ちで俺は言う。
「昨日の鍋を作るときだったり、お菓子を食べた時だったり、二人で色々とするのって時間の節約になりますよね」
「ご飯の時は何だかんだで間宮君も手伝ってくれたからね。私一人でやるよりも、だいぶ早くに完成したよ。うん、一人でするよりも、二人の方が色々と節約になると私も思う」
これではただの感想だ。
何かを変えるためにはそれ相応のリスクを負わなくてはいけない。
そんな俺はゴクリと生唾を飲み込んでこう言った。
「これからも、二人で頑張りましょう」
下心は少なからず知られただろう。
それでも、俺は言いたかった。山野さんと色んなことをしたいから。
「そうだね。間宮君は良い子だし。協力しない手はないよね」
俺が思っていた以上にナチュラルな反応。
そして、山野さんは俺に向かって手を伸ばしてきた。
いわゆる、握手を求められているのだろう。
伸ばされた手を握り返し、俺は再三に告げる。
「これから、頑張りましょう」
「うん、頑張ろうね。お隣さんと始める節約生活の始まりだよ? 片方が根を上げても片方が助ける助け合いの精神で頑張らないとね」
やけに積極的な気もするが、まあ良いだろう。
こうして、二人での節約は約束された。
「それじゃあ、スペアの鍵を取りに行ってくるから」
握手していた手をほどき、山野さんは目の前から去って行った。
それから、2時間後。
今日は休日で学校は休み。
部活もして無いし、バイトもして無いし、遊ぶ約束もして無いし、な俺は家でゆったりと過ごしていた。
玄関の呼び鈴が鳴ったので、応対をしに行く。
「はい、間宮です」
「山野です。鍵とかは何とかなったよ~という報告に来たよ。ほら、迷惑かけたし、一応、事の顛末は話しとかないと」
「あ、はい。そうなんですか」
それから、間宮さんは事細かに事の顛末を教えてくれた。
これで一安心である。
「で、なんだよ。私がなくしたのは純正キーって言って合鍵じゃ無いんだよね。そのせいで、大家からは鍵穴を交換せよと言われまして……」
「純正キーだと、結構簡単にどこの家の鍵なのか特定できるんでしたっけ?」
「そうそう。だから、防犯上の都合で鍵穴を交換は必須で今度、交換してもらう事になってる」
あ、何となく分かってきた気がした。
朝、間宮さんがやけに協力的に二人で節約を頑張ろうと約束してくれた理由が。
「つまり、お金が掛かったと」
「そう言う事です。だから、私はより一層と節約を心にしなくてはいけなくなりました。なので、サボってたら容赦なく尻を叩いてください。じゃないと、今度の休みに金欠で友達とのご飯で気を使わせちゃうし」
思いもよらない出費のせいで、金欠に陥ったのだ。
だからこそ、節約をさぼらないようにと二人で節約を頑張ろうと念入りに握手まで求めてきた。
「だから、握手までして互いに頑張ろうと約束したんですね」
「まあ、昨日に電話かけた時にそう言う話は受けたから。私って意志が弱いから、挫けないように間宮君に見張って貰おうと思ってあんな風に約束を交わしたという訳だよ」
「分かりました、付き合いますよ。これから、夏場も本番に入り、電気代が怖そうなので。俺も頑張ろうと思ってたんで。ちなみに、山野さんは去年の夏場の電気代はどうでした?」
去年からこのアパートに住む山野さんに参考までだが、夏場の電気代を聞いた。
すると、とんでもない額が口から飛び出て来て俺は目を真ん丸にしてしまう。
「な、なんで。そんなに高いんですか? ネットだと一人暮らしの夏場の電気代の相場はそんな高くないのに」
「それはね……。学校もない、仕事もないから。ああいうネットでの相場には長く家に居る人たちのデータはあんまり反映されてないからだよ。私も、去年は驚いた」
そう、学校もない、仕事もしてなければ自ずと家に居る時間は増える。
だが、それでも山野さんが口にした金額は盛りすぎでは? と思えて仕方がない。
「それでも、盛りすぎじゃ……」
「エアコンの電気代は外の気温によって結構変わるらしいよ。という訳で、エアコンの電気代は昼間は高くて、夜は安くなるんだって。一人暮らしで仕事に行ってると、昼間はあまり使わないから電気代が高くなりづらい。でも、私達は昼間にもいる。夜にもいる。という訳で、思った以上の金額になるという訳だよ」
非常に分かりやすい説明を受けて、俺は打ちひしがれた。
苦しいのが嫌なので、冷房を利かせた部屋で過ごそうと思っていたのに、我慢しようとさえ思えて来てしまう。
「という訳で、私は鍵穴の交換もあり、今年は電気代を節約することにしました。まあ、具合が悪くならない程度だけど」
「俺もそうしたく思います」
「で、話はこれからなんだよ。間宮君」
神妙な趣で俺の目を見てくる。
何を話されるのかを唾をごくりと飲み込み待ち受ける。
「な、なんですか?」
「単純計算で、電気代が半分になる画期的な方法があると言ったら?」
興味を引かれた。
電気代が半分? 節約の情報が載っていたサイトではせいぜい3円とかみみっちい金額しか節約できていないのに?
一体、そんな節約方法は本当に存在するのか?
「教えて下さい」
「一人よりも二人。簡単に言うと、一部屋を二人で使えば良いんだよ」
なるほど、同じ部屋に二人で居れば、冷房を動かすのは一台で良いし、照明も一つ付ければいい。
シンプルで単純な節約方法だ。
って、待て。
「あの、それってつまり。俺か山野さん。どちらかの部屋で二人一緒に過ごすって事ですよね?」
「そうだよ。正直に言うと、私もこれを言うかすごく悩んだ。でもね、一晩泊めてくれた間宮君があまりにも紳士的だったからこそ、言えると思って言ったんだよ。それに、一番電気代が掛かる昼間だけ、夜とかはちゃんと自分の部屋に戻るつもりだから安心して? 今朝のような事故は起きないから」
断る理由が無かった。
信用を寄せてくれている山野さんの申し出に俺はこのように答えを出す。
「分かりました。そうしましょう」
「ふぅ……。一安心、一安心。結構、飛んでもない申し出でどうなるかと思ってたからね」
「まあ、確かにそうですけど。鍋も一緒に囲んで、一緒に遅くまで映画を見た。もはや、山野さんとは普通に知り合いを通り越して友達のラインに達してますから」
「うんうん、友達同士なら別に一緒の部屋に居た所で平気、平気。でも、プライベートが欲しくなったら容赦なく言ってね。あくまで、出来る限りの節約で苦しいのは私自身のモットーじゃ無いし」
節約して、見苦しくなるくらいならしない方がマシな考えは俺もそうである。
実際問題、絶対に電気代は半分にはならないのは知っている。
けれども、そこまで苦しくないのならしないよりかはマシだ。
「はい。じゃあ、色々と決めましょうか。暑いでしょうし、部屋の中にどうぞ」
部屋に招き入れようとするも、
「ちょっと待っててね。ほら、昨日から同じ服だし着替えてくるから」
着替えるために自身の部屋へと戻って行く山野さん。
少し変態じみている気もするが、昨日から同じ服というのに興奮するのは俺だけでは無いはずだ。
と言った感じに下心満々で、エロい目を向けている俺。
せっかく掴んだ、一緒に過ごすという時間を台無しにしないように自制を頑張らないといけない。
色々と考えこんで居ると、
「お待たせ」
白のブラウスとスカートな装いから、上は水色のシャツの上に薄手のパーカー、下はジーンズ、ガラリと違う服装で戻ってきた。
「今日もイケてますね」
「そう? 全然、普通な方だと思うよ。それじゃあ、今後の事を決めるためにもお邪魔するね」
「どうぞ」
一晩を同じ部屋で過ごした影響もあり、すんなりと山野さんは俺の部屋の敷居をくぐるのであった。
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