第6話一方は毛布を掛けた。もう一方は触った。
久々にコンビニへと来た。
スーパーと違い、徒歩5分と言う位置にあるこのコンビニは非常に使い勝手が良い。
なんだかんだで、久しぶりという事もあり、多くの商品に目移りしてしまう。
コンビニの優れているところは毎週のように新商品が分かりやすい位置に置いてあることだなとか思いながら、買い物をした。
二人きりという事もあり、色々と気まずくなりそうだったので間を繋ぐためのお菓子やら飲み物だ。
買い物は終わったのだが、女の子のお風呂は長いと聞く。
まだ、10分かそこらしか経過していない。
今帰ったとしても、入浴中だろうし、少しばかり遠回りして帰ることにした。
汗ばむ季節でじっとりとした汗が流れて不快。
けれども、運動不足を感じていたし、今日は割り切る。
道中同級生と出会いちょっとした挨拶を交わしたり、散歩中の猫を触ろうとして逃げられたり、何だかんだで遠回りして住んで居る部屋へと戻るのであった。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい」
山野さんの髪の毛は肩に掛からない位だが、それでも男の俺からしてみれば長い方だ。
乾かすのに時間が掛かっているのだろう、タオルでゴシゴシと拭いている。
そして、貸したジャージを着ている姿が非常に可愛らしい。
袖が長くて手が隠れてしまうあたり、俺の服なんだな……という実感が込み上げてくるせいだ。
「ジャージの大きさは大丈夫でしたか?」
「うん、平気平気。それにしても、お風呂場も綺麗にしてて凄いね。私の部屋のお風呂場の方が絶対に手入れが行き届いてない」
「たまに独り立ちしてる姉が俺の様子を見に来るんです。なので綺麗にしとかないとお小遣いが減るという具合で綺麗になってるだけですよ」
「へー、そうなんだ。ねえ、間宮君。外に行って汗かいただろうし、お風呂に行ってくれば?」
気が付けば帰って来た俺の服はじっとりと汗で湿っている。
そのこともあり、お風呂を勧められたのだろう。
他人の部屋で自分だけが綺麗になるのはお門違いで、俺を気遣っての事だ。
「じゃあ、そうさせて貰います」
「行ってらっしゃい」
そう言われて、俺はお風呂場へ。
普段は乾ききったお風呂場なのだが、今日は掃除した後でもないというのにすでに濡れている。
嫌でも、俺の前に誰かが使ったのだと分かってしまう。
「っく。ここで、山野さんが裸になってたと思うとヤバい……」
あまりの興奮にちょっとくらっと来た。
そして、視界に入る長い髪の毛。
「俺の髪の毛からは想像できない長さの髪」
普段はお風呂場に落ちている髪の毛なんて汚いとか思うのに、もしかしたらこの髪は山野さんのだと思うと本当にドキドキが止まらない。
たぶん、こんなにもときめくのは山野さんだからだ。
色々な気持ちを静めながら、俺は綺麗さっぱりと汗を流す。
タオルを使い、体を拭き。
寝間着として使っている速乾性のシャツに袖を通した。
そして、色々と抱いてしまった劣情を殺して、山野さんが待っている部屋へと戻るのだ。
「さっぱりしてきました」
「あ、お帰り。急で悪いんだけど、携帯の充電器を良ければ貸して貰えるないかな?」
「良いですよ」
そう言って、普段使っている充電器を手渡す。
「ありがと。遠慮なく使わせて貰うね。はー、今日は本当に助けて貰いっぱなしだよ」
自分を情けなく思ってのため息。
だらりと体が脱力していくその姿はまさしく嘆いているとしか言いようがない。
「気にしないでください。さてと、という訳で山野さん」
「ん? どこ行くの?」
「せっかくなので、映画でも見ましょうか。そのためにコンビニでお菓子やら飲み物を買ってきたんで」
先ほど、コンビニで買ってきたお菓子の入った袋を見せつけた。
すると、山野さんはだらけ切って情けないという顔からそれ良いねときりっとした顔つきになる。
「今日は寝かせないよ? 的な感じかな?」
「はい。今日は朝まで映画を見ましょう」
俺は自分が使っている入学祝で買って貰ったノートパソコンを用意。
月額サービスに入っているので、ある程度の映画は見放題だ。
その中から、名作映画で無難なものを再生させせれば良い。
「じゃあ、見ましょうか。横、失礼します」
パソコンを机に置き、見るためには横に座らざる負えないので山野さんが座っている横に腰掛けた。
ちょっと距離を遠目に腰かけると、
「そんなに気にしなくて良いよ」
山野さんが見やすいようにパソコンを動かして、俺の座っている近くへとくいくいっとお尻とクッションを滑らせて近づいて来た。
距離にして30cmくらいだろうか。
それだというのに、もういい匂いがしてきた気がしてうずいてしまう。
「あと、お菓子のお金は後で払うから」
「このくらいは大丈夫ですよ。最近、節約してるので」
「ううん、気まずくならないようにわざわざ買ってきたくれたんだし、私がきちんと払う」
お見通しだった。
気まずさを誤魔化すために俺が映画を見ようと言って、お菓子を用意したのなんて普通に見透かされていた。
まあ、誰だって気が付くか。
「分かりました。お金は貰います。でも、きっちりと半分だけで」
「本当に間宮君は今日買ってきた来たお菓子代の全額は受け取らないだろうし、そうさせて貰うね。さてと、準備も終わったし見よっか」
「はい。最初は何から見ます?」
「うーん。笑えるのが良いかな。鍵を無くしてショックだし」
そう言われたので、見放題なサービスの中から笑える作品を選ぶことに。
二人して、これも捨てがたい。でも、こっちも良いよねとか言いながら、作品を選んだ。
そして、映画を再生。
お菓子をお供に楽しみ始める。
「っぷ、あははっっ」
ギャグシーンで笑う山野さん。
普段は一人で映画なんて見ている時は笑いもしないというのに、俺もそれに釣られて笑みがこぼれる。
映画が流れている際に言葉なんて無いのに、ただ一緒に見ているだけで面白くて仕方がない。
「面白いね。間宮君。それに、これは中々だよ」
「何がですか?」
「お菓子。だって、間宮君がいるおかげでいつもと同じ値段しか払ってないのに、違うお菓子も味わえるから」
机にはポッキ○、じゃがり○、等々。
確かに一人だと、同じ値段ではこんなに種類を揃えることは出来ない。
「一人よりも二人ですね」
「うん、さてと映画もいいとこだし黙らせて貰うね」
そんなやり取りを繰り広げて、映画を楽しむのであった。
そして、2本目が見終わり3本目の途中だ。
すっかりと、夜も更けて眠気が体を襲いつつある。
「zzzzzz……」
机に突っ伏して、ちょっとした寝息を立てる山野さん。
どうやら、眠気には勝てなかったらしい。
無防備に眠る姿、艶やかな髪と整った顔が嫌でも目に入る。
「ほんと、可愛いな……」
見ていて、可愛いとしか思えない。
柔らかそうな頬っぺたをつんつんとしたい、髪の毛に触れて見たい。
寝て居るからバレないだろうと軽い気持ちで手を伸ばしかけてしまう。
「いいや、ダメだ」
が、手を止める。
これからの事を思うのなら、手を伸ばしてはいけない。
山野さんに引かれているのなら、今するべきことは手を伸ばす事じゃ無い。
そっと俺は立ち上がり、いつも使っている、タオルケットを手に取る。
そして、机に突っ伏して寝て居る山野さんにそっと被せるのだ。
「俺も寝るか」
山野さんも寝てしまったので俺も取り敢えず眠ることにした。
本当は山野さんに使わせてあげるつもりであった自分のベッドの上で。
眠れないのでは? と思っていた。
しかし、溜まりに溜まった眠気はもやもやとした感情を押しのけ、俺を眠りへと誘った。
朝になり、部屋が明るくなってきたからだろう。
眠気は取り切れてないが、目が覚めてきた俺は夜更かしのせいで重い瞼を開くよりも先に小さな音を耳にする。
「……すぅ」
浅く息をする音。
その正体を確認すべく、目を開けていく。
「って、山野さん!?」
起き抜けなのに大きな声が出た。
そう、ベッドの上に山野さんが居て、俺の目の前で吐息を立て寝て居たのだ。
これを叫ばないでやり過ごせる男はいない。
「ん? あれ? ここって、私の部屋じゃ……ない」
目をこすりながら起き上がる。
そして、すぐ様に自分がやらかしたことに気が付いて顔がみるみると赤くなっていく。
「あは、あははは……」
乾いた笑い声。
そして、恥ずかしさがピークに達したのだろう。
「死にたい。寝ぼけてなにやってんだろ、私」
「大丈夫ですって。なんもして無いですから」
「え、あ、うん。そうだね。間宮君は何もして無いのは分かってるから。というか、ごめんね。勝手にベッドに入って。うん、本当にごめんね?」
「いや、まあ」
いい気分でしたとか言って気まずくなったら困る。
お茶を濁すように言い淀ませてこの場を乗り切ろうとした時だ。
山野さんの姿があれなことに気が付いてしまう。
そう、俺が貸したジャージの腰回りはデカい。
寝てる際に動き回ったのだろうか、山野さんが穿いてた筈のジャージは脱げていた。
代わりに見えているのは、ピンクでちょっとしたレースが付いているパンツ。
そして、綺麗に伸びる生足だ。
つい、釘付けになってしまった俺の視線。
すると、その視線がどこに向いているのかを山野さんは確認すべく目を動かす。
「あ、え、え、っと。ぬ、脱げてる!?」
顔は更に真っ赤に。
急いで穿いていたはずのジャージを探して、身に着けていく。
「うん。恥ずかしくて、死にそう……」
リンゴのように赤い顔で恥ずかしがる。
その姿はもうたまらない。
「えっと、その、大丈夫ですか? あと、見てすみません」
取り敢えず、大丈夫か聞いて、一応見たことも謝って置く。
「う、うん。大丈夫……。あと、間宮君は悪くないから、うん、悪いのは私だから気にしないでね? ね?」
しどろもどろで落ち着かない山野さんは俺の顔をちらちらと見ては目を背けて、髪の毛をいじったり、手をくねらせたりと物凄く恥ずかしそうにしている。
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