第7話
ところが、そこに突然さわぎがもちあがりました。
三角星人たちは、
「しっぺがきたぞ!」
「おっぺがきたぞ!」と口々にさけんでいます。
女子どもはひとりのこらず家のなかにかくれました。軍隊は整列して城門をかため戦闘配置につきました。
空はみるみるうちに暗くなり、森のむこうからはまっ黒な入道雲がもくもくともりあがりました。そしてドシンドシンという地ひびきがきこえてきたのです。それはぶくぶくとふとった竜でした。とおくからは二ひきの怪物にみえたのですが、じっさいは象のようなからだに二つのながい首をつけた化け物だったのです。目はホウズキのように赤く、頭には二本の角がするどくのびています。
トキはたまげました。しかし、おどろきはそれにとどまりませんでした。逆のほうからは、おおきな入道雲がのっしのっしとあるいてきました。よくみるとそれは山のように大きい巨人でした。しかし、目がひとつでからだがゴリラのように毛むくじゃらなので、とても人間とは思えません。手にはかたい根っこのついた棍棒をにぎっています。
怪物たちは立ちどまってにらみあうと、猛然とたたかいをはじめました。
「あれが、おっぺとしっぺなのだわ」
トキは身をすくませました。
竜は口から火をふいて巨人を焼き殺そうとします。巨人がそれをたくみによけながら棍棒でなぐると、竜はおこってしっぽでムチのように打ちかえしました。そのとき、ながいしっぽのさきが町の城壁にあたり、爆弾をうけたようにくだけました。
小人の軍隊はいっせいに射撃を開始しましたが、どうみてもなぐさめていどの威力しかありません。トキは兵隊の十倍。竜はトキの十倍。つまり兵隊は、竜の百分の一くらいのチビだったのですからね。
巨人と竜とのたたかいは両者ごかくのままにつづいていました。棍棒はおれ、両者は血だらけで組みあっていました。竜は巨人の肩を噛み、もういっぽうで足を噛み、勝ちほこったように目を光らせていました。ところが巨人はかまわず竜にまたがり、ふたつの首をしめあげました。ゴロンゴロンと二度三度ころがって、立ちあがったのは巨人のほうでした。竜のふたつの首を荷づくりのヒモのようにしばりあげると、それをたかだかと持ちあげました。なんておそろしい馬鹿力!
そのとき竜の火が雷のように巨人の足を焼きました。ところが、もういっぽうの首がじぶんに猛烈な炎をあびせてしまったのです。巨人は火の玉のように燃えあがった竜をなげとばし、足の火を消そうとしてみずうみにドブンと跳びこみました。おおきな水しぶきがあがり、小人の町はどしゃぶりになりました。
トキは、巨人が小人の町をおそったらどうしようとかんがえて気が重くなりました。おおきな足でふまれただけでもひとたまりもありません。
あれやこれやと悩んでいると、
「おい」との声。
それはトキの影法師でした。
「まあ、よかった! きてくれたのね。
ちょっと力をかしてちょうだい」
ひそひそひそ、ひそひそひそ、ひそひそひそ、ひそひそひそ。
「そんなむちゃな!」
「だって、しかたがないでしょ?」
「あ~あ。わしはきみの影でなければよかったよ」
それが影法師の承諾でした。
トキは小人の軍隊によびかけました。
「わたしを、
この国の王さまにあわせてちょうだい」
将軍はおどろきましたが、それでも威厳をうしなわずにこたえました。
「おまえは何者か?
なぜ、ノベ姫さまにお目通りをねがうのか?」
トキはその名をきいたとたんに、ベッドの歌をおもいだしました。
「歌をわすれたノベの姫 かわりにおいらが歌います」
将軍はあわてて、
「よし。わかった。ついてこい」と言いました。
トキは、どうして話が通じたのかわかりませんでしたが、黒猫となった影法師を肩にのせると、将軍のあとにつづいてこわれた城壁からそろりそろりと三角星人たちの国へはいりました。
広場にトキの乗ってきた座布団がしかれたので、そのうえにすわってノベ姫の登場をまっていると、つごうのわるいことにお腹がグウッとなりました。将軍はせきばらいをしてとなりの隊長に何事かを命じました。すると、荷車に一台分のパンとくだもの、それに桶一杯分のミルクが用意されました。
トキと影法師はお礼をいって、それをまたたくまにたいらげました。それはとろけるようにおいしく、毒もねむり薬も入ってはいませんでした。ベッドの歌はよほど効果のあるおまじないなのでしょう。そこの人たちは、とてもやさしく純朴な人たちでした。
門のほうからは、赤い靴がみこしのようにかつがれて、座布団のまえにとどけられました。
「ありがとう」
はだしだったので、足がいたかったのです。かれらの親切に胸があつくなりました。
いつのまにか広場には三角星人たちがぞろぞろとあつまって、その数は五000人をこえていました。
やがてファンファーレがなりひびき、ノベ姫がお城からすがたをあらわしました。民衆はいっせいに歓声をあげました。
なんてかわいいお姫さまでしょう! 髪はブロンドで目はブルー。そしてくちびるは赤いつぼみのようでした。月のようなクリーム色の衣裳をまとって背筋をピンとのばしています。トキはひと目でノベ姫のファンになってしまいました。
しかし、時間のよゆうはありません。トキは、ノベ姫に巨人とのたたかい方をはなしました。
姫は、さっそく将軍に協力するよう命じました。そして町を守ってくれるよう心からおねがいしたのです。
この姫さまのためならば、たとえ火のなか、水のなか。がぜん勇気がわいてきました。
そのとき、ふたたびドシンドシンという地ひびきが町にせまってきました。
「早く!
たいまつをあつめなさい!」
小人たちはあたふたと動きます。
「よし。いくわよ」
影法師は「しかたがないな」というわけで、トキは城門のまえで巨人をまちました。
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