第8話

 巨人は、きずついた足をひきずりながらこちらに向かってきます。

「さあ、いって!」

 影法師はトキのまえで、からだをふろしきのようにどんどんとひらたくのばしました。そしてついに、巨人よりもおおきなぺらぺらのスクリーンになったのです。

 うしろではありったけのたいまつが赤々と炎をあげています。

 トキは大声でどなりました。

「待て!」

 巨人は驚いて立ちどまりました。目のまえに自分よりもおおきな怪物がゆらりゆらりと立ちはだかっていたからです。(それは、影法師のスクリーンに映ったトキのすがたでした。しかし巨人には、それがものすごい美女にみえたのです)

「わしは、この森の神じゃ!

 おまえはこれからどこへいくのか!」

 巨人は、「グワッ、グワッ、グワッ、グワワッ、グワワッ」とガマがえるの王さまのような声をだしました。

芝居がバレたらたいへんなので、トキは必死でした。

「よおし。よお~くわかったあ。

 だから、あっちへいけ!」

 ところが、巨人は喜んでドシンドシンとちかよってきます。何やらトキのすがたを女の巨人と勘違いしたらしいのです。そのとき突風がピラピラのスクリーンをスカートのようにあおりました。しかし、巨人はそのカラクリには気づかなかったようです。そして、スクリーンのまえにひざまずきました。

『まさかわたしに、グワグワッと

 愛をささやくつもりじゃないでしょうね?』

 背筋がさむくなるような思いをこらえていると、気味のわるい魔法使いの笛の音がきこえてきました。

「よくもわしのかわいい竜を殺してくれたね。

 おっぺ。かくごをし! きょうこそケリをつけてやる!」

 巨人の声がしわがれて、ゾッとするような脅しとなったのです。

「わたしは、おっぺじゃないわよお。」

 トキの抗議をよそに狂ったような竜巻がおこり、スクリーンの影法師はたこのようにクルクルと空中にまいあがってしまいました。立場をうしなったのはトキです。これではまるではだかの小羊です。目のまえには山のような巨人のせなか・・あれ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る