第6話

 そのときふとベッドが歌っていたおかしな歌を思い出したので気ばらしにおおきな声をあげました。


    三角月のでる夜はよ おっぺもしっぺも舌をだす


 するとどうでしょう。三角星人たちはおかしなほどに怯えて、クモの子をちらしたように逃げだしました。この歌がどうしたというのでしょう。なにかとくべつな呪文でもこめられているのでしょうか。


    三角月のでる夜はよ おっぺもしっぺも足をだす


 すると勇気ある将軍までが青ざめて退却をはじめました。「さては?」トキは、ベッドがほんとうのお月さまのありかをこの歌にたくして教えてくれたのかもしれないと思いました。ところが、つぎの一句がどうしても思いだせないのです。

「なんとかをわすれた、なんとかの、とか。

 ああ、だめ!」

 トキは、それをかんがえながら砂丘をこえていきました。

 あたりの景色は、まるで鏡にうつしたようにふしぎの森ににています。地球と三角月とはきっと空間のズレたクラインの壺でひとつにむすばれているのかもしれません。あの裏宇宙は、だれも知らないタイムトンネルだったのです。

 三角月が丸かったというのも、トキにはショックでした。まい降りるときにわかったのですが、ここでは三角のところだけが明るいのです。光の反射のぐあいなのでしょうが、ぼんやりとうかんだ地平線はたしかに丸かったのです。

 それにしても、ほんとうのお月さまはいったいどこにいったのでしょう。空には、青い地球も明るい太陽もみつかりませんでした。


 そこの星たちはにぎやかで、空ぜんたいがおおきな外灯のようでした。

 そのとき空のかなたから彗星のような光がながれたかとおもうとスーッと森のかなたへときえていきました。トキはその光をおって暗い道をいそぎました。そしてたどりついたのが、三角星人たちの町だったのです。

 トキがそれを見てどれほどおどろいたことか。そこは、絵にかいたようにすてきな小人の町でした。

 星あかりに照らしだされたその光景は、中世の世界をそのままミニチュアにしたようでした。こだかい丘のうえにはうつくしい西洋風の城がたっており、そのまわりをひろく城壁がめぐっています。そのなかにはとてもにぎやかな町なみがかわいらしくひらけていました。教会、市場、鍛冶屋、家並、兵舎、学校、田畑・・そこでは子どもたちも、女たちも、老人たちも、とても平和に暮らしているようでした。三角星人の兵隊たちは、無作法で好きにはなれませんでしたが、それがこの町を守るためだったのならゆるしてもよいと思いました。

 トキのからだは三角星人の十倍もおおきかったので、そこでいっしょに生活することはできませんでしたが、そこがやすらかなユートピアのように思えたのはひいき目ではありませんでした。そこであげられている結婚式のようすは、つつましく微笑ましいものでした。

 ただひとつ変なのは、いまは夜のはずなのに三角星人たちが昼のように活動していることでした。ここは星空が明るいので、夜のほうが動きやすいのかもしれません。そこは星あかりにつつまれたやすらぎの世界だったのです。

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