その4

 二つの依頼を解決して、俺は相応のギャラを受け取った。大した仕事ではなかったにせよ、そこそこの稼ぎにはなった。

相変わらず、彼こと守田憲作君は、俺から離れようとしない。

『分かったろう?探偵なんてものは、君が思い描いているように、派手でも、恰好いいものでもない。地味で、恰好悪くて、そして時には人から変な目で見られたりもするんだ。それでも信念が変わらんというなら、それはそれで立派だと褒めてもやれる。だが、俺の後を付け回すのはもう止めてくれ。いいな』

俺は食堂でミディアムステーキを切り分けて口に運びながら・・・・まさか18の小僧を酒場に連れてゆくわけにもゆかない・・・・擦り切れたレコードの如く、もう何度も同じセリフを繰り返していた。

彼の前にはハンバーグステーキを載せたプレートと、コーラを入れたコップがあった。

客でもない人間に奢る義理など持ち合わせちゃいないが、必要最小限の慈悲という奴だ。

『何度おっしゃられても、僕の考えは変わりません』

『・・・・・』

 俺は最後の一切れをフォークで突き刺し、口に入れた。

 その日、夜も更けてから、やっと彼は俺の元を離れてくれた。

 幾ら高校を卒業してるからって、未成年者を保護者の許可なく連れ歩いていたら、何を言われるか分かったもんじゃない。

(もっとも別れ際に『明日もまた来ます』とは言い残していったがね)

え?

『男同士なら問題ないだろう』って?

馬鹿を言いなさんな。

昨今は男同士の『強姦』だって問題にされるご時世だぜ?

まあ、そんなことはどうでもいい。

俺は事務所のデスクの前にへたり込むように座ると、机の上の電話を引き寄せて受話器を取った。

『もしもし、おっさんかい?俺だよ。乾、この間のこと、よろしく頼む』


 次の日、測ったように彼は相変わらず俺の事務所にやって来た。

 『今日は俺の後をついてこい。面白いものを見せてやる。現実の探偵ってものが、どんなものかをな』

 いつもは素っ気ない態度しかとらない俺から、そんな言い方をされたものだから、守田君、何だか妙にうれしそうな顔をした。

『だからって気を抜いて貰っちゃ困るぜ。ちょっとした修羅場になるかもしれんのだから』

『はい!分かってます!』

 俺が向かったのは、横浜の本牧の裏通りだった。

 そこにはごちゃごちゃとしたビルや古いバァなどが幾つも並んでいる。

『どこへ行くんですか?』

『しっ、黙ってついてこい』

 俺は古びた雑居ビルの前まで来ると、傍らの電柱の陰に隠れ、拳銃を抜き、弾倉を確認した。

 しばらくすると、そこに4~5人の、一目で『その筋の若い衆』と見分けがつく連中が、何やらがやがやと声高に喋りながら、目の前のビルに入ろうとしていた。

俺は一旦拳銃をホルスターにしまうと、後ろから連中に声をかけた。

『奥田興業の兄さんたちだな?』

『だったらどうした?ああん?』

先頭にいた、頬に傷のある痩せた目つきの悪い男が俺を睨みつけながら言った。












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