第75話


 ソファに腰を下ろしたサラディアナの横にセドリックが座る。

 三つ編みでひと結びにされたボサボサの髪を一度解いてふたたび編み直す。

 初めて触れたセドリックの髪は思った以上にサラサラしていて少しだけ驚いた。




「綺麗な髪をしてますね」

「....そうか?気にしたことはないな」

「でしょうね」


 魔石第一優先。常に外套を羽織り周りから自分を隠すように生活している人間が、髪に執着しているとは到底思えなかった。

 羨ましい体質である。

 サラディアナはふふっと笑った。


「....何がおかしい?」

「これならアシシも触りたくなりますね」

「あぁ!?」


 おっと地雷だ。

 サラディアナはにこりとはぐらかすように微笑んで黙る事にした。

 ブツブツと言いながらもされるがままになっているセドリックを、なんとなく野良猫みたいだと思った。




「はじめての夜会はどうだ?」

「そうですね。とても煌びやかで非日常な感じがします」



 パーティーが始まってだいぶ経った。

 改めて会場の雰囲気や人々の表情を見てみると皆が皆浮き足立ちこの時間を楽しんでいるようだった。

 勿論、サラディアナも皆と同じ気持ちだ。

 少しだけ背伸びをして購入した大人びたドレスが、サラディアナを守ってくれている気がした。そして。



「あの掛け時計」

「は?」

「あれ知ってました?10分ごとにこの会場に星屑のような光を散りばめるんですよ。触る前に消えて無くなるので魔法だと思うのですけど、幻覚魔法を時間にどう組み込んでいるんでしょうか」

「.....」

「あちらに置いてあるピアノ、あれは以前私達が修理したピアノのレプリカらしいですよ。演奏者が居なくても音楽を流せるそうです。」

「あの入り口にある扉。あの扉の模様には特殊な魔法が掛かっていますね。近くに行かないと詳しくはわかりませんが、昔師匠から聞いた不届きものを識別する扉かも。魔法石の嵌め込みも細かいです」



 はじめて入室したこの会場は、由緒ある場所だ。洗礼された物であふれている。

 その中でもより重厚で年季の入った物、最先端の技術が組み込まれた物。その新旧が上手く混ざり合った空間は技術者や建設者の腕を感じる。素晴らしい。

 嬉々ときて語るサラディアナに、セドリックは珍しいくらいに瞳を大きく見開いて固まった。

 数秒後、瞬きを一つするとクツクツと肩を震わせる。



「おまえ、こんなところにきても、変わらないな」

「.....そんなに笑わないでください」

「いや、面白いよお前は」


 セドリックはサラディアナの頭に手を置く。

 きっちりとセットされた髪を気にしたからかいつもの勢いはなく、ただ優しく触れたそれは少しむず痒い。

 それ以上に、いつもなら外套で隠された瞳が優しく色を放っている事にサラディアナは戸惑った。

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