第74話



 1.キエル・ハワードの仕事やプライベートの時間を邪魔してはならない。

 1.キエル・ハワードに対して執拗な追跡ストーカー行為はしてはならない。

 1.キエル・ハワードと単独で話をしてはならない。話す場合は必ず2人以上である事。

 1.キエル・ハワードについて知り得た情報は速やかに開示する事。

 1.その他ある一定の人数の判断により違反を行なえば相応の罰を与える。



 他にも細かな規定があるようだったが、重要度の高いルールだ。

 つまり、自分はおそらくファンクラブの規定をかなり破っているのでないだろうか。

 勿論、ファンクラブと言うものに入会すらしていないが。



「えっと」

「気にしないで行ってきて。私は、顔色の良くないセドリックを連れて壁際にいるから」

「だけどディア...」

「セドリックのこんな顔で王様達に謁見するのは失礼でしょ?」

「こんな顔とは」



 困り顔のキエルにサラディアナは笑顔を向ける。この状態をこのまま続けるのも憚れたし、セドリックの顔色もやはり気になる。

 女性陣はセドリックとも話をしたそうではあったが、あからさまな拒絶を見せるセドリックに何も言えないようだ。



「それなら、少しだけ」

「うん。行ってらっしゃい」


 彼女達の誘いに対して無我にもできないキエルはサラディアナを心配しながらも離れていく。

 その両脇に壁を作るように女性達が陣取った。ツキリとまた、サラディアナの胸が傷む。

 キエルの隣は自分の場所だと、未だに思ってしまう。そして意地を張った自分の発言に、たった数秒で後悔してしまった。


「お前も馬鹿だな」

「言わないで。....わかってる」


 追い討ちをかけてくるセドリックの言葉につっけんどんな態度をとってしまう。これはただの八つ当たりだ。仮にも上司に向ける態度ではない。

 謝罪しようと慌てて顔をあげるが、セドリック本人は対して気にもしてない様子で飄々と背を向けたキエルを見ていた。



「心配すんな。すぐにお前のもとに戻ってくるだろうよ。あれから人間味を感じるのはお前の隣だけだ」



 セドリックの意味深な発言に首を傾げると、あからさまに嫌そうな顔をした彼と視線が絡んだ。



「お前、本気か?....ああ、頭が足りないのか」

「突然の暴言ですね」

「事実だろ」



セドリックはハッと鼻をならす。


「いいか。あいつの処世術は、あの嘘くさい笑いで壁を作る術だ。分け隔てなく立ち回っている一方で誰にも隙を見せないし作らない。優しいんじゃねーよ、あれは」

「え?」

「まぁ、今回はお前というイレギュラーによって隙ができちまったようだがな」



セドリックは「何でわからないんだ」と言いたげの呆れ顔で肩を竦める。



「少なくとも、あいつにとってお前は特別枠には違いないって事だよドアホ」

「....セドリック」

「恋愛かどうかは別にしてな」


 チッと舌打ちをしながらのセドリックの言葉に、サラディアナの顔が熱くなるのがわかった。

 さっきまで美人に囲まれたキエルの姿にショックを受けていたのに、セドリックの「特別」という言葉に気持ちが浮上する。



「........コミュ障の癖に」

「あ"ぁ!?上等だ。喧嘩なら受けて立つぞ」

「はいはいはい。どうせ敵いませんよー。いいから風に当たりましょう。ついでにその乱れてしまった髪も少し直してあげますねー」



 照れ隠しのつもりでセドリックに悪態をつき、それに乗っかってきたタイミングで誘導する。

 それでも何か言いたそうなセドリックだったが、この場から立ち去ることを優先したようで大人しくついて来ること選択したようだ。

 いつも被っている外套が無いことで、いつも以上に背中を丸めて出来るだけ前髪で顔を隠している。

 礼服姿はとても似合っているのだから勿体無いなぁと思いながらサラディアナは壁伝いに置いてあった3人掛けのソファに腰を下ろした。





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