第73話



「ディア。ザントに何か酷いことされなかった?」

「?...いいえ。話をしていただけよ」

「そう」



 それなら良かった。とキエルが頷く。

 キエルは、再会してから何やら過保護になった気がする。

 もともと世話好きでありお兄ちゃん体質だった気がするが、3年のブランクがここに来て爆発しているのかもしれない。

 だが、それすらもサラディアナには嬉しい。

 近くに居れるということの全てが幸せな事だ。



「パーティーはもう始まったんだね」

「ええ。先ほど国王からの労いのお言葉を承った所よ」

「国王のお言葉を聞き流してしまったのか。」


 現在会場は音楽や人の話声で溢れている。

 周りの雰囲気から既にパーティーは始まっている事を理解したキエルは困ったように眉を下げた。



「とても喜んでいらっしゃったわ。後でもう一度、今度は活躍した人たちに直々にお会いされると仰っていたわ。それってキエルやセドリックのことでしょう?」

「そうだね。あとは各所の団長クラスの人達が謁見にあたるんじゃないかな?その後各部署に国王のお言葉が伝えられる事になるはずだよ」

「素敵ね!」



 サラディアナは歓喜の声を上げた。

 その隣でセドリックは不服そうに顔を歪める。

 理由はわかっている。注目を浴びるのが嫌なのだ。

 現にすでにチラチラと周りからの視線が痛い。




「ドラフウッド殿。もうここまで来たんだしいい加減諦めてください。」

「くそ。どれもこれも全てお前のせいだ」

「八つ当たりはやめてくださいね」

「あの!!」



 ふたたび2人の言い合いが始まりそうになった時、近くから声がかかる。

 3人が声のする方へ振り向くとそこには3人ほどの女性が居た。

 各々の煌びやかな衣装を纏い、丁寧に化粧を施している。頬を赤らめて僅かに高めの声でふたたび「あの」と口を開けた。



「キエル・ハワード殿、セドリック・ドラフウッド殿ですよね」

「....はい。そうですけれど」


 応えたのは勿論キエルだ。返答に彼女らは、きゃあきゃあと歓声を上げる。

 1人の女性が上目遣いでキエルを見上げる。

 その視線にサラディアナは内心酷く狼狽していた。

 以前桜を見上げたキエルのそばを通ったメイド達。あの時と同じ視線をキエルに向けている。

 間近で見る好意ある瞳に動揺が隠せない。





「この度の威嚇戦線はお疲れ様でした!」

「大活躍されたとかで!わたし....わたくし達女官科にもお二人の活躍が耳に入って来ましたわ!」

「本当に本当にお強いのですね!」

「....ありがとうございます。これも皆さんに支えていただいているおかげです」

「良かったら、あちらで少しお話し致しません?」



 チラリと女性の視線がサラディアナに向いた。思わず息を呑む。

 すぐにサラディアナからキエルに視線が戻ったが明らかな敵意だった。

 そういえばと、以前クララ達とした会話を思い出す。

 この宮廷内には【キエル・ハワードファンクラブ】というものがある事を。

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