第71話
そういえば、と以前ザントがセドリックの部屋に来室した時の事を思い出す。
その時もザントはアシルバート殿下の名を口にしていた。
寮室でニコル達と話をした時もアシルバート殿下の名前が出ていた事も記憶している。
「セドリックと....殿下は仲がよろしいのですか?」
「ん?いやーそういう訳でもないだろうけど、セドリックにとって最優先にするべき人ではあるだろうな」
「それは、命の恩人だからですか?」
サラディアナの問いにザントは一瞬目を見張る。
しかし、その瞳はすぐに元に戻り、少し困ったように眉を下げて歯切れの悪い声を出した。
ザントの反応にサラディアナは慌てて口を開く。
「すみません。詮索しすぎましたね。今のは忘れてください。」
「いや、いいんだ。ただ、どこまで話していいのか、っていう。....あれだろ?セドリックが山一つ吹き飛ばしたっていう話。あいつを語る噂話としては切っては切れねぇ話だしな」
「という事は事実ではないんですか?」
「どこまで聞いたかしらねぇが、まぁ一般的に広まってる話としては強ち間違っちゃいねぇな。しんじらんねー話っぽいけどな」
ザントはおどけたように肩を竦める。
その反応にサラディアナは内心驚いていた。
実のところ、話を聞いたサラディアナは噂話だろうと思っていたのだ。
なぜならば山一つ吹き飛ばして谷にすると言う話は、いくら魔力が大きく暴走した所でそこまでの惨事になるとは誰も思わない。
だが、ザントの反応を見ると信憑性が上がった。
だが───
「それが原因だとしても、殿下に逆らわないと言うのはセドリックらしくないですね」
「ん?」
上司部下になって日が浅いサラディアナだが、セドリックの事で少しだけ分かったことがある。
「セドリックは命の恩人だとか、それこそ王族という肩書で人との主従関係を決めるような人ではないですし。ましてや、命令や無理強いを強いるほうがかえって彼を頑なにするでしょうし。」
「....!」
「きっと殿下はセドリックにとって信頼に値する人で、口で文句を言いながら自然と手を貸せる人物であるって事でしょうね。」
「サラディアナちゃん」
「それかよっぽど口がうまくてセドリックの扱いがうまいか、です」
「ぶはっ!!」
ふふっと笑うサラディアナの横でザントが豪快に吹き出す。
クツクツと声を押し殺しながらも肩を震わせて笑う姿に近くの人たちもチラチラと視線を投げかけた。
いや、しかし。何がそんなにツボに入ったのかサラディアナには全くわからなかった。
ひとしきり笑ったザントがなかった歯を見せて笑う。
「可愛いなサラディアナちゃん。キエルがいなけりゃ俺が嫁に欲しいくらいだ」
「いえ、遠慮しておきます」
「辛辣だ」
ザントの冗談にスッと一歩足を引くと豪快な笑いが再び起こる。
楽しそうなその姿に、サラディアナも肩の力を抜くのだった。
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